【ヴァルフェリアオンライン】ハッキング
ログイン二十五日目。
本日はオーガではなく、ノーブルの『オギノ』のアカウントでログインをするぞ。
例の暗号の鍵となるレーピオスさんに関する資料を図書館で事前に調べなければならない。
久々のログイン! 無料ガチャもいつも通り!!
畑の様子は、うむ。問題……ん? え、あれ? な、なんか違う。
『創造言語』がエレメントチェリーに接続されていないぞ!? どういうことだ!
てか『創造言語』そのものが書き変えられてる!?
何じゃこりゃ!?
慌てて『創造言語』を使い、土地の過去ログを確かめてみるけど……エレメントチェリーの接続が解除された以外で、変化はない。か……本当に?
ちょっと埃臭い物置小屋を軽く光魔法で掃除してから、外に出てみる。
……やっぱり、変化はない。
畑も定期的に収穫されているし、雑草も……生えてないな。
タクが荒らしたような形跡もない。
だが『創造言語』が変更されている以上、ノーブルがハッキングしたとしか思えないんだが……
「あっ!? お久しぶりです~」
正面の畑にいる女性プレイヤー、ちよこさんが驚いて話しかけて来る。
彼女の畑も、以前より賑わった様子だ。時間の流れを感じた。
そういや全然ログインしてなかったもんね。驚かれて当然か~と思いつつ、返事をする。
「お久しぶりです。すみません、別種族のアカウントでログインしてたもんで……これお土産です」
「そうだったんですね。わっ、素敵! ありがとうございます~」
挨拶を交わしつつ、さり気なく尋ねた。
「私がログインしていない間、何か変化とかありました?」
「えーと……変化というか。変な人が」
「人の畑に入ろうとしてる人とか?」
やっぱり、タクの野郎がまだログインしていたのかと久々の脅威を感じた私。
しかし、ちよこさんは何とも言えない様子。
彼女が何かに気づいて、小声で私に耳打ちして来る。
「あそこの人です! オギノさんの畑の周りをウロウロしてて、その、植物に話しかけてる変な人です!!」
……うん?
私が振り向くと、石垣越しからエレメントチェリー(水)に対し語りかけている金髪の少年がいる。
少年……ああ、違うか。あれはハーフリングの体格だな。
でも『後輪』が頭上にあるし『後輪』の椅子に腰かけている。
スキルで名前確認したら……あのレストラン経営している『ニューソ』!?
ハーフリングとノーブルのハーフだから、そうだよな……?
試しに接近してみると
「おや、君は艶が落ちてしまっているようだね。ここ最近の雨量は問題ない、栄養素が足りていない? 逆か! 雨量が多過ぎたせいで、君たちに負荷がかかってしまっている! なんて事だ……君達、無理はしてはならないよ。コントロールが効かないお転婆なお嬢さんとは分かっていたが、私の為に美しさを磨くのではなく、まずは君達自身を好きにならないとね」
………なんか……植物、口説いてる人がいるんですけど。
話しかけてるのも変だけど、何かその口説いてる。
困惑した表情で私が見守っているのに気づいたニューソが、凄まじい形相をした。
口説いてる場面に鉢合わせしたのが、ショックだったのかと思えば
「ぐっ……がっ……! 何故このような貧相でふしだらな男から、美しい彼女達が育つというのだ……!? 天井の御上よ! 采配に不備があるぞ!! これは手違いだ!」
「すみません。何をしているんですか……?」
「見て分からんのか! 彼女たちの美しさを褒め称えているのだ! これほど麗しい姫君たちを、貴様は奴隷のように虐げるとは! 断じて許さん!!」
「あの、もしかして防衛システム解除したの貴方ですか? 心臓に悪いのでやめて貰えません??」
「そういう問題ではない!」
いや、そういう問題でしょうが……
ハッキングされたのにかわりないんだから、マジで冗談じゃ済まないよ。
簡単に解けない奴にしたのに、解いちゃってやがるし。
「あのー、私が出られないんですよ。出られるとしても図書館経由で出る事になりますよね。出たら戻って来れないじゃないすか」
そう、この『創造言語』を書き換えたのはニューソなので、私が自在に侵入できる状況ではなくなったのだ。
説明した通り、図書館経由で脱出自体は可能だけど。
「分かっているではないか! 二度と畑に立ち入るな!!」
私の畑なんですわ、これ。
そんなにエレメントチェリーが欲しいならくれてやるけど、1ヘクタール分……欲しいの?
面倒くさいけど、私はニューソに告げた。
「じゃあ、土地の譲渡をしますのでヘルメースさんの所に伺って貰えますか?」
「は? 別に欲しくはないが」
…………はい?
「あの、じゃあ、なんです? エレメントチェリーは貴方にとって何ですか??」
「麗しい女性として扱っているだけだ。美女と美女と褒め称えて何が悪い! それに、だな、わ、私には本命の彼女が……」
「私のエレメントチェリーたちは浮気相手ですか?」
「ち……ちが、違う! 浮気ではない!! これは断じて浮気に値しない!」
「こういうこと繰り返してたら、女性は男性に愛想尽かしてしまうそうですよ」
私がそう指摘したら、ニューソはピシリと固まってしまった。
「もう愛想尽かしてるかもしれませんが」
更に固まった。
しばしの間、我に返ってニューソは「彼女は違う!」と顔色を変えまくりながら反論する。
「じゃあ、実際にどうなんです? 付き合っている時に何か言われません??」
「付き合ってなぃ……」
なんやねんコイツ!?
もじもじ赤面している少年という、絵柄だけは微笑ましい。
「じゃあ、他の人を口説いているようなら自分に興味はないんだなと愛想尽かされてますね」
「そ、そんなこと無い! ないぞぉ! ないからなぁ!! い、今に見てろ! きょ、今日こそ彼女に……!!」
三流小物みたいな捨て台詞を吐いて、ニューソは立ち去ってしまう。
……あの『創造言語』直してくれないんすね。




