タクの日常 その18
休憩という名の仮眠や食事などを終え、タクは再びWFOへログインする。
少し慣れて来た白鬼のアカウントで、例の競走馬の方へ戻るかと思えば、タクは『風ノ賭博』から離れることに。
「やっぱり賭け事なんて良くないし、僕には合わないや」
という。
何の為にやって来たのか分からない行動を取ってしまうタク。
再び境界である山脈を移動しながら戦闘を行い。
次に足を向けたのは『黄金ノ村』。黄鬼が住まう田園の里である。
挑まれる勝負が『大食い』である事を除けば、至って平穏で住みやすい土地だ。
タクと言えば畑の手入れをしたがる性分。
色んな畑を興味深く観察し、最終的にあれが気になる、これが気になると畑の主に告げる。
だが、彼らは余裕でタクの疑問を解消するべく、これはこういうことだからと説明してしまうのだ。
図々しくもタクが、畑を手伝いたいと申し出ても。
よそ者が畑に干渉する事はできないと里の掟で決まっているという。
拗ねてうじうじを始めるタク。
そこに……
「おい……あれはなんだ!?」
「この前、追い出した異邦人共の仕業か……?」
黄鬼たちがただ事ならぬ様子でいるのに、タクが顔を上げて、その光景を目の当たりにした。
「え」
タクは目を見開く。
闇魔法で浮かされている小さな何かが、山脈側から迫って来るではないか。
黄鬼たちがタクを無視して慌ただしくなった。
だが、タクは呆然と立ち尽くすばかり。
それもその筈。
迫って来る何かとは……
「きゅ……きゅ……きゅ……」
「きゅ……きゅ……きゅ……」
「きゅ……きゅ……きゅ……」
「きゅ……きゅ……きゅ……」
「きゅ……きゅ……きゅ……」
大量のモルモーだった。
しかも、皆どの個体も苦しそうな鳴き声を漏らし、時折小刻みに体を震わせている。
タクは全身からぶわっと嫌な汗が溢れて出た。
すると、闇魔法で姿を現したプレイヤーが、妙な粉をモルモーたちにぶちまけた。
「おら! いけ、モルモー共!!」
モルモーたちは一斉に淡い光に包まれ、淡い光が何十重も破壊されていく演出と共に一斉に大絶叫。
大量の糞を撒き散らしながら、テイム強制解除の無敵状態となって里中を飛び回る。
「あの光はなんだ!?」
「くそ! 止めようとしても弾かれるぞ!」
「ぐああああ!!」
無敵状態と化したモルモーに弾かれ、怯んだ黄鬼たちを一方的に虐殺していくプレイヤーたち。
これもまた、オープンワールドのVRMMOが衰退しやすい原因。
プレイヤーたちがNPCを無差別に襲撃し、拠点を占拠する。
いかに丁寧な世界観を生成しても、害悪プレイヤー共に好き勝手され、運営の心をへし折るのだ。
タクだけは震えて一歩も動く事ができなかった。
モルモーの糞を活用し、爆発を引き起こして炎上させていくプレイヤーたち。
彼らは……一体何をしているのか理解しているのだろうか。
タクは魔法で飛行するプレイヤーたちの会話を聞いてしまった。
「この特攻思いついたのも、タクって野郎のお陰だよな」
「ああ。モルモーは量産しやすいし、簡単に暴走してくれて助かるぜ~」
NPCを虐殺して快楽を得るプレイヤーたちも、いる訳で。
彼らの手にかかれば、タクが引き起こした騒動も、害悪行為の手段となりえる。
タクは、その衝撃に全身を殴られたような感覚で震え続けた。
「そんな……こんな……僕は……」
タクの前に、体を震わせ「きゅ……きゅ……」と小さく鳴き声を漏らすモルモーが浮遊移動をさせられながら現れた。
それも一匹だけではない。
闇の魔法で浮遊移動させられているモルモーたちが、何匹も、何十匹も――
「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」「きゅ……きゅ……」
「あ……ああ……あああ……! うああああああ……!!」
タクは叫ぶ。
ようやく、自分があのモルモーに行った非道を理解した。
彼らも、タクが行っていた躾けを受けたのであろう。
排便を禁じられ。
鳴き声を禁じられ。
行動の自由を禁じられ。
モルモーたちは澄ました顔をしているが、鳴き声は苦しみを訴えるだと誰もが感じられた。
タクはこの鳴き声を――あの、テイムしたモルモーから発していたのを聞いていた。
「やめてくれえええええええええええええええ!!!」
タクが無敵状態となり暴走するモルモーたちへ立ち向かう。
フィールド全体が淡い光に包まれた。




