タクの日常 その16
タクはWFOのギルドで引き籠っていた。
博覧会から無理矢理追い出され、しばらくギルドの中でも泣き続け、あまりにも泣き続けたせいで、餓死からのデスペナルティを食らっての強制ログアウトをする羽目になるほど、長時間ログインをしていた。
ある意味、凄い状況だが。
現実という世界に引き戻された事で、ハッとタクは冷静になる。
僕は……何をやっていたんだ……
タク自身が引き起こした事案のトラウマで『まほ★まほ』にも『FEO』にもログインできず。
かといって、他のVRMMOにログインする気力も湧かない。
「……みんなに、伝えなきゃ」
タクはフラフラと体を起こし、スマホのメッセージアプリで今回の件をミミたちに伝えようとした。
だが、言葉が纏まらない。
何度も何度も内容を打ち直し、最終的に『モルの躾けはやっぱり出来なかった。テイムは解除したよ』と誤魔化した内容だった。
打ち終えて、はぁと溜息をつくタク。
それから、二日後の日曜日。
スマホからメッセージアプリの返信が届いた。
慌てて内容を確認すると、返事をしたのは――里香。
WFOでテイムの一件について詳しく知りたい。ログインして欲しいという内容。
タクは再びWFOにログインするが、その動作は重く、ゆっくりとしたものだった。
★
「タク。正直に答えて欲しい。モルのテイムで何が起きたのかを。タクが、モルモー程度の小動物1匹のテイムが上手くいかなかったとは、とても想像できなくてね」
ログインして早々、里香からの鋭い質問。
彼女は騙せる相手ではないと理解しているタクは、渋々口を開く。
概要を把握した里香は『後輪』の椅子に腰かけ、足を組みながら「やはりか!」と興奮気味に言う。
「タク! やはり君は素晴らしい!! 君のお陰で『テイム』に秘められた隠し要素を幾つも解明した! これはとんでもない偉業だよ!!」
「里香……それは僕を馬鹿にしているの……」
「いいや? タク。今回の状況をマイナスに捉えすぎだよ。君がやった事はいつもと変わらない! そう! VRMMOの開拓の才能だ! 君の才能は全ての界隈を揺るがすものだよ!!」
里香が何故タクと関わっているか。
彼女は、琴葉たちと異なり、タク個人に好意がある訳ではなく、タクの才能に魅了された。
タクがやることなす事、行く先々でVRMMOの隠し要素を発見し、他プレイヤーたちの一歩先を往く。
まるでVRMMOの主人公が如く。
「だが、君の才能は諸刃の剣だ。君があまりにも突き進んでしまうが故に、サービス終了が早まったVRMMOは数えきれない。まさにVRMMOの開拓と破壊! そして、新たなVRMMOの新境地を切り拓く者だ!!」
タクは所謂エンドコンテンツを速攻で発見してしまい、他プレイヤーが楽しむ間もなく、彼一人が独占してしまうのだ。
たとえば、あるVRMMOではタクとミミたちによって『ワールドアイテム』という、唯一の装備品を総なめし、他プレイヤーたちを一気に突き放した。
対するユーザーはタクたちを晒し叩き、運営に凸し、掲示板などで悪評垂れ流し、純粋なユーザーは離れて、一年も経たずサービス終了する悪循環。
タクたちはそれを繰り返し続けた。
やがて、VRMMO界隈ではタクたちのようなワンマンプレイヤーが発生しない為の対策を取る。
プレイヤーは全て平等。
格差のない仕様にするべくランダム要素、ワールドアイテム、革命イベント、特殊イベントなどを廃止。
運営の遊び心要素も、段々と減っていき。
やがて、現実性だけは優れて長時間プレイできる異世界系VRMMOが排出される。
「里香の言っている事が全然分からないよ……それが何なんだ? 僕は……僕はどうしたらいいんだ!」
「どうって。VRMMOを続ける以外、何があるんだい? タクにはVRMMOの才能がある。しかし、VRMMO以外に取り柄なんて何もないだろう?」
真実を突き付けられタクは、目を見開く。
そうだ。自分は――VRMMOしか、出来る事がないのだと。
「ふむ……タク。WFOは種族別にアカウントを作成できることは知っているかい? ほら、ログインの選択画面で新規アカウント作成が表示されているのは、覚えている筈だろう?」
「え? そうなんだ。ちょっと珍しいね?」
確かに、他VRMMO……MMOでも珍しい事ではある。
里香は話を続けた。
「君はこれから別種族で新規アカウントを作った方がいい。ただし、AIにランダムで作成して貰うんだ。声もボイスチェンジで変えた方がいい」
「ちょ、ちょっと待って! 新しいアカウントはともかく、キャラクリエイトは自分でやるよ」
「そしたら、いつもの同じモブ顔で黒髪黒目……だろう? 実はね、色々調べているんだが……君の、今の人間のアバターと企業ギルドのドワーフのアバターがあまりに似ていたせいで、同一人物だと特定されているんだ」
「……えっ」
「だから、AIに頼んでランダム作成をして貰うんだ。君の個性が出ないようにね。折角、新しくアカウントを作ったのに、あの事件を起こしたプレイヤーだと特定されたくないだろう?」
「……それは」
「君にとってもある意味、いい経験になるかもしれないよ?」




