【ヴァルフェリアオンライン】競馬
ログイン二十一日目。
そう今日は『イースターテイム祭』の第三回目開催日だ！！
……いいや、参加しない！
緑オーガ『不知火』のアカウントでログイン！
よしよし、朝の時刻にログインできてる！ 計算通り！！
実は『逢魔鴇』と『ジェルヴェーズ王国』は時差がある。
現実的に凝ったオープンワールドでは、こういうのも取り入れられてるのだ。
って、呑気な事はしてられない！
NPCに絡まれる前に、私は『緑鬼流見習い』の磁力移動を駆使して、空中を駆け巡り、ガンガン目的地目掛けて進んでいく。
賭博勝負が横行する危険極まりない里へ入った理由は、称号目当て。
狙う称号は三つ。
『風ノ賭博のギルドマスター』の称号。
『緑鬼流』の試験合格称号。
『鬼神巡礼』を獲得する為の御朱印だ。
『鬼神巡礼』とは各オーガの里にある神社を巡り、全ての御朱印を獲得した時に得られる称号。
御朱印を集めるだけで、簡単に記念装備が貰えるのだ！
結構広いワールドの空中を駆け続けたせいで、スタミナもMPもガンガン減る！
マーケットで購入したガブガブとエーテルを飲みまくり。
同じくマーケットで購入したおにぎりを頬張りながら、最初の神社に到着。
神社らしかぬギラギラした装飾で飾られている内装……はいいとして。
売店にいる派手メイクの金髪オーガの巫女さんに話しかけた。
「すみません、御朱印帳と御朱印が欲しいのですが」
「御朱印？ ……あーはいはい、アレですね～。めんどくさっ」
おい、聞こえてんぞ。
何とも態度が悪い巫女さんが緑ノ御朱印帳（５００G）と御朱印を記入して差し出してくる。
呑気にしてられない。『風ノ賭博』だけで神社は５つあるのだ！
さぁ、次へ向かおう！ とう！！
『緑鬼流見習い』の飛行術で移動していた私は、少し心に余裕が出てきた。
なんか意外と追ってくるプレイヤーやNPCがいないのだ。
改めて『風ノ賭博』がどういう里かと言うと……一世紀前くらいの現実都市みたいな感じ。
風もとい電気を利用した設備施設が充実しているし、交通整備は整っている方。
建造物もホント日本の都市そのまんまだ。
でも、緑オーガたちは色々賭けに賭けまくったせいで、ぐうたら贅沢するものや貧しく路上で生活するものと二つの格差がある。
おお？ あれは……
中央にあるカジノが目立っているせいで、上空からでないと気づかなかったが、あれは『競馬場』？
向こうにはボートレース場っぽいのが、街中では小さな賭博場とか麻雀の店があちこちある。
ふむ……
本当の本当に賭けなんて興味がないのだが……競馬はちょっと気になる。
多分だけど、アレがあるんじゃないかと思って。
入国手続きの際に渡されたマップを確認するけど、な、ない？
本当にないんだろうか？
その真偽を解明するために、私は『風ノ賭博』の牧場へと向かった――
この牧場は、酪農目的ではなく競走馬を生産する牧場である。
アポなしで、異邦人の私が堂々と尋ねてしまってもいいのか分からんが、目的は競走馬の視察じゃないし。競馬関連……でもないかもだけど。
賭博関連目的ではないから、まだセーフではないかな。
「ごめんくださーい……」
でも、誰もいない雰囲気だった。馬は放牧状態で自由気ままな感じなのに。
すると
「待って下さい！」
え？ 私？？ ……じゃないじゃん！ 振り返っちゃったよ、恥ずかし！！
何かを制止する大声を出した男性がどこかにいるみたいだ。
羞恥心で真っ赤になりながら、私はウロウロ声の主を探ると。
「はっ。やれるもんならやってみろ。どの道、１位を取れなきゃその馬は処分するからな」
しょ、処分！？
ようやく現場に到着した私は、馬小屋で誰かが揉めていた場面……が終わったところに出くわした。
白鬼の男性がキッと厳つい緑オーガたちを睨んでいる。
馬小屋で俯いている緑オーガの女性と、傍らにいる一頭の馬。
なるほど……成績不振の競走馬、か。察した。
そして、私は厳つい緑オーガたちに駆け寄って声をかけた。
「あの！ 突然すみません！！」
「あ！？ 今度は何だ！ 誰だ手前！！」
「急に押しかけて申し訳ございません！ あの『桜肉』ってどこで食べられますか！？」
緑オーガたちは顔を見合わせている。
ハッ、そうか！
私は慌てて訂正した。
「馬刺しです！ 馬のお肉です！！ さっき馬を処分すると仰ってましたよね！？ という事は、お肉はどちらに！？」
「……ああ。んなら、競馬場で売ってんぞ」
競馬場！？
ああああああ！ 道理で、道理で情報ない訳ね！ 誰も競馬場なんて行こうとしないもん！！
VRMMOでわざわざ競馬場に行くなんて！
厳つい緑オーガたちに「ありがとうございました！」と頭下げて、飛行術で空を全力疾走！！！
やったぞ！ 待っててくれ、馬刺しちゃん！！
