第九話
クーちゃんは、コンソールを使うと、自分が日本から去った時の場所の様子を観察することできる事を知った。
それで、自分のすぐ横で寝ている愛奈の様子が見えることに気付く。それで無事、愛奈が約一時間半の昼寝をしている事が分かった。
愛奈ちゃんが、一時間半の昼寝をしていることは分かったが、日本に戻っても、愛奈ちゃんが寝付いて直ぐの時間に戻ってしまうんだよな。このまま戻ってしまうのも勿体ないか。
それに、戻ったとしても一時間半は寝かされたままだ。俺も昼寝した方が退屈はしないで済むだろう。だけど、眠くないし、寝られるだろうか?
そもそも、俺たちヌイグルミは、何時間寝れば、足りるんだ?
とりあえず、広場で聞き込みしてみるか。
広場へ行くと、いつも通り、受付にフランス人形がいた。クーちゃんが、顔を合わせると営業スマイルをする。
「聞きたい事があるんだけど」
「なんですか?」
「ヌイグルミの睡眠時間って何時間ぐらいなんだい?」
フランス人形は首を傾げる。
「観念投影世界でのことですか? 日本でのことですか?」
どういうことだ。なんで 観念投影世界と日本とで睡眠時間って異なるのか?
「今知りたいのは日本だが、 観念投影世界とで違うのか? それとも両方の世界で寝ないといけないのか?」
クーちゃんが、怪訝な顔をしてこんな質問をしたので、フランス人形は、戸惑った顔をする。
「まさか、どっちでも好きな方の世界で寝れば良いですが、普通は日本で寝ますね」
「どうして?」
「私は観念投影世界しか知らないので、本当のところは良く知らないのですが、こっちでは七時間から八時間ぐらい必要ですが、日本では、一時間ぐらいで十分なんだそうです」
フランス人形の話を聞き、クーちゃんは驚く。
「え。でも、昨晩は日本で大分寝たぞ」
「一時間で十分と言うだけであって、一時間しか寝られない訳ではありませんから」
なるほど。
「最大何時間ぐらい寝られるんだ?」
フランス人形は苦笑いする。
「それは、個人差があるので、なんとも言えません。でも大体十時間ぐらいじゃないかしら」
と言うことは、日本で愛奈ちゃんが寝ても、俺が眠くない場合は、眠くなるまでこっちにいて、眠くなったら、日本に戻れば一緒に寝られるんじゃないのか。とりあえず、眠くなるまで時間を潰すか。
「それじゃあ、もう一つ聞きたいんだけど」
フランス人形は、質問を促す。
「眠くなるまで時間を潰したいんだけど、なんか良い方法ないかな」
「九番目までのチュートリアルクエストをクリアされましたか?」
クーちゃんは苦笑いする。
「まだ二番目のクエストまでしかクリアしていないよ」
「それなら、チュートリアルクエストをチャレンジする事をおススメします。四番目のチュートリアルクエストから、アイテムやドールが手に入る様になるので、それなりに充実感が味わえますよ」
「でも、三番目のチュートリアルクエストをクリアしないと四番目はチャレンジ出来ないんだよね」
フランス人形は、笑顔が引き攣る。
「そう言うルールですから。それに、九番目までのチュートリアルクエストをクリアしておくと、個人専用クエストや配信クエストをチャレンジする時に、きっと役に立ちますよ」
チュートリアルクエストをやっておくと、事前にクエストの心得が理解できるってことか。やっておく価値はあるかも知れないな。
「分かったよ。チュートリアルクエストをチャレンジしてみるよ」
クーちゃんは、コンソールルームに戻ると、コンソールを操作して、三つ目のチュートリアルクエストを確認する。三つ目チュートリアルクエストは、『ヌイグルミの種類とクエストの種類』というタイトルだった。
チュートリアルクエストの内容は、ヌイグルミには、戦士攻撃系、戦士防御系、戦士探索系、魔術攻撃系、魔術防御系、魔術探知系の六種類いること。また、クエストは、基本のアイテム入手系、目標達成系、討伐系の三種類と、これらの複合クエストであること。この事を座学で細かく教えるクエストだった。
クリアしてコンソールルームに戻って来ると、クーちゃんは大きく伸びをする。そして次は欠伸をした。
「俺も眠くなって来たよ。このまま日本に戻って寝よ」
クーちゃんは、コンソールルームの日本への扉を通り抜ける。すると、日本を発った時の場所、愛奈の寝ているすぐ横に戻って来た。そして、そのまま寝てしまう。
母親が、愛奈を起こしに寝室に来て、扉を開けた音でクーちゃんは目覚めた。母親は、愛奈の寝顔をみながら、寝返りを打ったタイミングで、声をかけて起こす。すると愛奈は、すんなり起きる。
するとクーちゃんを抱っこすると愛奈は、寝室を出て、ダイニングに行き、ままごとを始める。
母親は、愛奈の様子を見ると、仕事に戻る。
夕方にまで、愛奈はクーちゃんと遊んだり、お絵描きしたり、積み木遊びをしたりして過ごした。
母親は在宅勤務を終えて、仕事部屋から出てくる。母親は、愛奈がリビングでクーちゃんと遊んでいるのを確認すると、ニッコリ微笑む。そして次は、キッチンへ行き、晩御飯の調理を始める。
キッチンの方から、物音がするのが、クーちゃんには分かったが、誰がキッチンにいるのかとか、そう言う事は一切分からなかった。
外から誰かがやってきた気配はなかったので、クーちゃんにも物音の正体は母親だろうと推測はできる。しかし、確認する方法はなかった。仮に観念投影世界に行ったとしても、コンソールから見れる範囲は、クーちゃんが日本を発った時にいた場所の近くしか見えないのだ。もちろん見る角度をある程度変えられるので、クーちゃんがいるのと同じ空間に居れば、角度を変えれば見ることができるかも知れない。しかし、母親がいるであろうキッチンは、今クーちゃんがいるのとは別の空間である。観念投影世界に行ってコンソールを使っても、見れる範囲外であった。
とりあえず、ママさんの事は、横に置いておこう。今は愛奈ちゃんが、日々どんな生活を送っていて、俺はどれだけそれに寄り添えるのかを考えよう。
とりあえず、愛奈ちゃんは、俺をいつも側に置いてくれている。今日本にいる状態で、目に映らない、見えない部分も、観念投影世界に行ってコンソールをコントロールすると見えるモノもある。
愛奈ちゃんを全力で理解するぞ。