第二十三話
「やったー!」
クーちゃんのコンソールルームに、クーちゃんの声が響く。
「ナイスファイトだったぞ。ピンクリボン」
「ありがとうございます」
「俺は、しばらく動けない。一旦地球に帰って休憩してくる」
「え。一緒に勝利を分かち合いましょうよ」
すると五尾はすぐに忽然と消える。するとすぐにコンソールがピコンピコンと鳴っている。
コンソールを見ると五尾から召喚要請だった。
五尾はずっと観念投影世界にいる為、一旦日本に帰って長時間日本に留まっていても、観念投影世界に戻って来ると一瞬で戻ってきたように見える。
クーちゃんは、コンソールの赤いボタンを押すと五尾が突然現れた。
「どうだ。お前の持ち主は助かったか?」
「そうだった!」
クーちゃんは勝利の余韻に浸り過ぎて、愛奈の事を忘れていたことに気付く。慌てて、コンソールを操作すると、愛奈の映像が映る。
倉庫の中で愛奈が泣いていると、外から銃声が聞こえる。
「銃声だ」
クーちゃんが驚く。
「恐らく警察が威嚇射撃したんだろう」
冷静に五尾が言った。
銃声がしてからしばらくすると、倉庫のドアが開いて、警察官が入ってきた。そして、しばらくして愛奈は保護された。
「やったー! 俺、日本に帰りますね」
「帰ってもお前の持ち主は泣いているぞ」
「何言っているんですか。もう、泣き止んでいますよ」
「それはお前が日本を去ってから二時間後の出来事だ。二時間近く、お前の持ち主は泣き続けていた」
「そっか。最後に日本を後にしてから二時間が経っているけど、日本に戻ると二時間前に戻るんだった」
くーちゃんは少しへこむ。
そこに町長とザンがやって来た。
「やっぱり、ミーの見立ては間違いじゃなかったね。たった二パーセントの成功率のクエストであっても、失敗できないクエストは必ず成功させる。さすがだよ五尾。君はやっぱりミーが見込んだ勇者だよ」
「何が勇者だ。それにクエストにチャレンジする前、成功率二十パーセントと言っていたよな。今二パーセントの成功率って聞こえたんだが?」
五尾が怒りでワナワナしている。
「はい。町長はウソ吐いていました。二パーセントが正しいです」
ザンが、説明した。
「こら。ザン何を言い出すんだ」
「成功したから良かったけどな。失敗していたらどうするつもりだったんだよ」
五尾は怒る。
「成功したんだから良いだろう」
町長は、陽気な口調で言う。
「良くない!」
「町長の肩を持つわけじゃないけど。俺、五尾さんが助っ人だったから成功出来たんだと思います」
クーちゃんは、心の底から言葉が出た。
五尾は複雑な表情をする。
「俺、愛奈ちゃんの傍へ行きます」
クーちゃんは、日本へ戻る扉を開けて、行ってしまう。
「俺はイベントクエストの途中だった。イベントクエスト攻略へ戻るよ」
「休憩しなくて良いんですか?」
ザンが聞いた。
「すでに日本で一ヶ月近く休んできた。俺の因果律の修復も少しできた」
五尾は、日本に殆ど戻らず、ずっと観念投影世界にいるので、因果律に大分ズレが発生しているのだ。日本で一ヶ月の休憩したという事は一ヶ月分のズレが修正されたことになる。
「いまさら、一ヶ月程度じゃ、大した修復にならんだろ」
町長が言った。
「そんなことはない。この町に居られる時間が一ヶ月延びた」
そう言うと、五尾は、クーちゃんのコンソールルームから出て行ってしまう。
「なんだよ。わざわざお祝いに来てやったのに」
町長は、残念がる。
「さ。仕事がいっぱい待っていますよ」
そう言うと、ザンは町長を帰るように促す。
クーちゃんは、日本に戻ると、泣いている愛奈に抱きしめられていた。
倉庫内に愛奈の泣き声が響いている。倉庫の扉を人喰クマが、ガリガリやっている音も聞こえる。
『泣かないで愛奈ちゃん。二時間後に助けがくるから』
もちろん、クーちゃんの声は、愛奈には届かない。二時間経つまで、一緒に居ようと思ったが、クーちゃんに激しい睡魔が襲ってくる。
一睡もせずに、クエスト攻略をずっとやっていたのだ。しかも激戦続きである。眠くなって当然だ。
クーちゃんは、愛奈の腕の中で寝てしまう。
愛奈が倉庫に逃げ込んでから二時間程経った頃、愛奈の家では、在宅勤務をしていた母親が、愛奈がいないことに気付く。家中を探すが見つからない。そして、外を見ると、クマがうろついているのが見えたのだ。
愛奈の母親は、すぐに愛奈ちゃんがいないことと、クマが家の前をうろついていることを警察に通報する。
近くの交番に勤務している警察官に拳銃を装備して、愛奈の家まで行く様に指示する。
交番勤務の警察官は、愛奈が逃げ込んだ倉庫の近くをうろついているクマを発見、上空に向けて威嚇射撃する。
すると、人喰クマは逃げ出した。
警察官は、無線でクマが逃げて行った方向を報告すると、河井家へ行くように指示される。愛奈ちゃんの家、河井家へ行こうとすると、女の子の泣き声が聞こえた。慎重に声のする方向へ行くと倉庫の中から女の子の泣き声が聞こえるのが分かる。倉庫の扉を開けると、クマのぬいぐるみを持った女の子、愛奈を発見した。
「お嬢ちゃん。クマは追い払ったよ。もう安心だ。お名前は?」
こうして愛奈は無事保護され、家まで送られていく。
この他愛もない生還を成功に導いたのは、可愛いテディベアのクーちゃんと可愛いピンクのキツネのヌイグルミの五尾に寄る奇蹟だと知る人間は一人もいない。
ちなみに、逃げて行ったクマは、猟師が設置した罠に捕まり、駆除された。
愛奈たちが住む、町の役所。
クマを殺すなという、抗議活動をする者たちの集団がシュプレヒコールを上げていた。
そこに一人の少年がやって来て、その集団に石を投げる。石は一人の若い男の頭に当たり、ケガをさせる。
「人殺し! どっか行け!」
少年は泣き、叫んだ。
「このクソガキ! 何しやがる!」
若い男は、少年を殴ろうとする。
少年の傍にいた女の人が間に割って入る。
「邪魔だ。ドケ!」
「この子は、まだ子供よ。何するつもりよ」
女の人も引かない。
「子供だからってな、なんでも許されると思うなよ」
「その言葉、そのままお返しするわ。この子のお父さんは、あんたたちの抗議活動のせいで、自治体がクマの駆除作業が遅れたせいで、クマに殺されたよ。あんたたちが殺したようなもんよ」
抗議活動をしていた集団は、声を失う。
「ちなみに私の娘たちは、自治体がクマの駆除作業が遅れたせいで、クマに殺されたわ。あんたたちの抗議のせいで、クマの駆除作業が遅れたせいで」
抗議活動をしている集団は、仕方なく引き上げていった。
このような出来事があった後、自治体へのクマ駆除に対する抗議活動はなくなる。その為、人喰クマの駆除は進み、町に平和が戻った。
町に平和が戻っても、愛奈はクーちゃんを大事にし、一緒に遊ぶのだった。




