第二十二話
ダウンしたリアルクマ人形の上に浮かんでいる黒いモヤモヤした物は徐々に大きくなっていく。
「黒いモヤの中に何か見えるぞ」
役所の前に集団でやって来て、「クマを殺すな」と言って騒いでいる人間を、生活圏をクマに浸食され、危険と隣り合わせに暮らしている地元の人々が冷ややかにその様子を見ている映像が映る。
かと思うと、クマに襲われ、恐怖と死の痛みの中で、喰い殺された人々の苦しみの映像が映った。
クマに喰い殺された人々の遺族が、家族を失った悲しみの映像が映る。
そして、その黒いモヤモヤはリアルクマ人形の中へと入って行く。するとリアルクマ人形は立ち上がると巨大化し、ジャイアントリアルクマ人形に変化した。
「ま、マジか……」
クーちゃんが呆然としている。
「ピンクリボン。雑魚はまだ残っているぞ。気を付けろ」
五尾は、このような状況でもクールなままだった。
ジャイアントリアルクマ人形は、五尾を執拗に狙う。ジャイアントリアルクマ人形は、ただ大きくなっただけでなく、パワーもスピードもアップしていた。その為、五尾でさえも避けるのがやっとで反撃できずにいた。
微かだが、ジャイアントリアルクマ人形の攻撃が、五尾に掠り始める。
五尾は上手にガードしてダメージを最小限に抑えながら、避けるのに専念する。
「ダメだ。あの化物、五尾さんより動きが速いじゃないか!」
ジャイアントリアルクマ人形が攻め疲れて動きを止めると、五尾はその隙を使って回復薬でダメージを回復する。
「掠り傷など、いくら負わされても、回復してしまえば、リセットしたのも同然だ」
五尾のクールさにクーちゃんは感動する。
「でも、回復薬は無限にはありません」
クーちゃんは悲観的になって言った。
「俺にはまだ、奥の手がある」
そう言うと、五尾のオーラが揺らぐと、尻尾が新たに一本増え、五本になる。
ジャイアントリアルクマ人形の五尾への攻撃が当たらなくなる。それでも、ジャイアントリアルクマ人形は、再び五尾を執拗に攻撃する。しかし、五尾は慌てることなく、隙ができると、確実に右後ろ足に攻撃を当てていく。
クーちゃんは雑魚を全滅させて、やることがなくなったが、五尾とジャイアントリアルクマ人形の戦いに割って入るなんて到底できないと理解していた。五尾が無事ジャイアントリアルクマ人形を退治するのを見守る。
五尾とジャイアントリアルクマ人形の戦いは、一体どれだけ続くのだろうかと思い始めた時、ジャイアントリアルクマ人形の右後ろ足側に倒れる。五尾の攻撃を受け続けた為、右後ろ足が限界をむかえ、尻餅をつく。
ジャイアントリアルクマ人形の動きがとまるのを見て、五尾はラッシュをかける。しかし、その場からは動き、ジャイアントリアルクマ人形の背後側へまわり、尻尾のまわりを攻撃する。ジャイアントリアルクマ人形も、たまらず立ち上がり、動かない右後ろ足を引き摺りながら、五尾を攻撃する。五尾はジャイアントリアルクマ人形の側面や背後に回り込みながら、今度は左足や尻尾の付け根あたりに攻撃を集中させる。
ジャイアントリアルクマ人形は、『ガウッ』と叫ぶと、通常サイズの木彫りのクマ人形が二十体現れた。
「溜めもなしで、いきなり召喚かよ」
五尾が文句を言った。
クーちゃんは慌てて、対応に追われる。
クーちゃんの近くに寄ってきた雑魚は、クーちゃんに退治されていく。そもそも、通常サイズの木彫りのクマ人形なら今のクーちゃんの敵ではない。
そして、五尾とジャイアントリアルクマ人形の方へ行った木彫りのクマ人形は、五尾達の戦いに巻き込まれてあっさり全滅する。
ジャイアントリアルクマ人形は、突然、地面に向かってパンチを放つとその位置を中心に衝撃波が伝わる。小さかった時に使った技と同じ技だ。
しかし、五尾はいつの間にかバックステップで距離を取っており、念のためガードをしていた。ほぼほぼノーダメージである。
五尾は、ダッシュから連撃をジャイアントリアルクマ人形に当てる。
戦いはもう、五尾のペースであった。
ジャイアントリアルクマ人形は、苦し紛れに溜めをする。
「ピンクリボン。炎のブレスの溜めだ」
本来は、ジャイアントリアルクマ人形の背後に回るのが正解だが、大分距離がある。クーちゃんは現状待機のまま。
そして、五尾は、動きの乏しい下半身、後ろ左足へ猛ラッシュする。
炎のブレスは、標的がいないまま放たれた。
ジャイアントリアルクマ人形は、『ガウガウッ』と叫ぶと、今度は通常サイズのクマ頭人形が二十体現れた。クマ頭人形も今ではクーちゃんの敵ではない。
半分ぐらいはクーちゃんが倒し、残りの半分は五尾が、ジャイアントリアルクマ人形を攻撃するついでに倒してしまう。
「もう、そろそろ決着がつくだろう」
五尾が勝利を確信した。だが、しかし、突然五尾の動きが止まった。
五尾の五本の尻尾が消え、元の一本に戻り、オーラは消えてしまう。そして、五尾はその場でへたり込み動けなくなる。
多重尾スキルの持続時間切れが来たのだ。
「ピンクリボン。すまん」
五尾が力なく言った。
ジャイアントリアルクマ人形はゆっくり五尾の方へ近づいていく。
「ダメだー!」
クーちゃんはジャイアントリアルクマ人形の方へ突進する。
ジャイアントリアルクマ人形は、五尾を殴る為、前足を振り上げた。
クーちゃんの渾身の突進コンボが、ジャイアントリアルクマ人形の後ろ左足に決る。
すると、ジャイアントリアルクマ人形は、辛うじて立てていた左足にとうとう限界が来た。その為、ジャイアントリアルクマ人形は、その場で倒れてしまい、五尾への攻撃はキャンセルされる。
クーちゃんは、自分の攻撃がほとんどジャイアントリアルクマ人形に通用しない事は分かっていた。左後ろ足に攻撃が効いたのは、五尾の攻撃の累積ダメージがあったからだ。だから、五尾が集中攻撃していた、尻尾の付け根をクーちゃんも連撃する。
後ろ足二本とも失ったジャイアントリアルクマ人形は、上半身を捻ってクーちゃんを攻撃しようとするが、尻尾の付け根のみを狙おうとして、位置を移動するクーちゃんに攻撃は当たらない。
クーちゃんは両手に持っている鉄パイプを太鼓を叩くかのように、ジャイアントリアルクマ人形の尻尾の付け根に叩き続けた。
するとジャイアントリアルクマ人形の動きが止まると、カンカンカンと言う音がする。
そして、ジャイアントリアルクマ人形は徐々に透明になり、消滅する。
するとまわりの空間も徐々に白くなっていく。
クーちゃんは呆然としていると、『クエストクリアー』と言う音声がどこからか聞こえる。
クーちゃんと五尾は、気が付くとクーちゃんのコンソールルームにいた。




