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第一話

 クーちゃんと愛奈が二度目の殺されるはずだった十秒前。

 次々に倒れる鉄パイプにビビった人喰クマが、三メートル程飛び退いた為、人喰クマと愛奈の間には三メートルちょっとの距離があった。愛奈には、ほんの少しだけ、逃げる時間ができた。しかし、その時間の余裕もあっと言う間になくなって行く。

 愛奈は、気丈にも倉庫の壁に沿って走っていると、倉庫の入口の扉が開きっ放しになっているのが、目に入る。そして、何故か、その倉庫の扉のドアノブが、愛奈には、キラキラ光る光りの粒が降り注いでいるように見えた。その為、藁にもすがるように、そのドアノブに、愛奈は飛びつく。すると、倉庫の扉は、愛奈を巻き込むように閉まり、愛奈を倉庫内に入れた。

 人喰クマは、倉庫の扉を開けようと円筒形のドアノブを開けようとするが、爪が付いているクマの前足では、ドアノブが掴めず、扉を開ける事は出来なかった。

 愛奈には、人喰クマが扉を開けることが出来ないという、根拠のない自信があった。

 事実、人喰クマは、ドアノブを弄っているが、扉を開けられないし、扉や壁を殴っているが、扉や壁を壊せそうではなかった。

 愛奈は、無事逃げ切れたのだ。

 愛奈は、リュックを下すと、クーちゃんを抱きしめる。

「怖かったよ~。クーちゃん」

 愛奈は、泣き始めた。

 倉庫内は、段ボールが大量に積み上げられており、他にも工具や機械類、いろんなモノが雑然と置かれている。単なる物置に使われていた。そんな場所で愛奈は、一人きりになっている。


 こんどは、クエストをクリアーして人喰クマを撃退しないと。



 クーちゃんは、観念投影世界(イデアビジェクションワールド)へ戻る。

 コンソールルームには、五尾が待っていた。

 五尾は多重尾スキルを発動させたままで居た為、尻尾が二本ある。

「おめでとう。ピンクリボンの持ち主の当面の危機は去った。倉庫から出なければ、助かるだろう」

 五尾が言った。

「ありがとうございます。クエストはどうなっていますか?」

 五尾は、コンソールを操作して、クエストの受注画面を表示させる。

「受注可能なままだぞ」

「それなら、クエスト行きましょう」

 五尾は、短く息を吐く。

「ピンクリボンの意思は分かった。だが、今の状況をちゃんと把握しろ。自分のステータスを確認してみろ」

 クーちゃんは、コンソール画面を操作した。

 極度の疲労状態であった。そして、経験ゲージが十分の一ぐらい溜まっていた。

「レベルアップしたばかりなのに、大分経験ゲージが貯まっている!」

「そのようだな」

「もう一度チャレンジしたら、このぐらい貯まるかな」

「貯まった理由が分からないから、なんとも言えないな。俺は大して貯まっていない。レベルが高いからか、それとも、『愛奈の思い』を運んでいないからかもしれない」


 もう一度チャレンジしないと経験値が稼げるかどうか分からないのか。


「疲労を回復したら、もう一度クエストにチャレンジしたいです」

「一つ確認するぞ。ピンクリボンが四レベルにレベルアップするのは当分無理だ。今のままでは、受注したところで、四つ目のエリアで止まるだろう。それでもチャレンジするか?」

「はい」

 五尾は少し考え込む。

「しかしだ。ただ、闇雲にチャレンジしてもクリアは望めない。クリアするためには、ちゃんと考えろ」

「どうしたら良いでしょう?」

 五尾は溜息を吐く。

「攻撃力をアップするか、防御力をつけるかだな。そして、攻撃力をアップするなら、武器の購入、習得済みの攻撃スキルのレベルアップ、新たな攻撃スキルの習得、などで、防御力は防具の購入ぐらいかな」

「でも、爪なら右と左で二回攻撃できますけど、武器を持つと一回しか攻撃できませんよ」

「両手にそれぞれ持って、二回攻撃できる武器もある。そう言う武器を選ばないとダメだ」

「そんな武器もあるんですね」

 クーちゃんは感心する。

「今議論すべきはそんな事ではなく、お金の方だ。金はいくらぐらい持っている」

「お金ですか……」

 クーちゃんは、所持金を確認するウィンドウを空中に表示させる。

「一万二千六十四ドールですね」

 五尾は渋い顔をする。

「いらないアイテムとかないのか? この際だから売り払ったらどうだ」

 クーちゃんは、苦笑いを浮かべる。

「なら、簡単に攻撃力や防御力をアップする方法はないな。残るは、新たに習得したいスキルはないか? あれば、一旦スキル迷宮をチャレンジするのも手だ」

「いろいろ習得したいのは山々ですが、今、個人専用クエスト攻略中だし、スキル迷宮も簡単にはクリアできないじゃないですか」

「今までは、ピンクリボンのレベルが二レベルだったからだ。三レベルにレベルアップした今なら攻略効率もアップしているはずだ」

「今は、そんなことをしている気分ではありません」

 五尾は溜息を吐く。

「それなら、突進のスキルを利用したヒットアンドアウェイの戦法を練習するしかないが、やれるか?」

「やります」

 クーちゃんは、気持ち込めて言った。

「それじゃあ、スタミナミートを食って疲労回復したら、クエストを受注へ行くぞ」


 クーちゃんと五尾は再びクエストを受注すると、やっぱり一つ目のエリアから始まる。

「このエリアの敵を突進のスキルを使って退治しろ」

 五尾が言った。

「え。わざわざ突進のスキル使わなくても倒せますよ」

 クーちゃんは驚いて言った。

「突進のスキルを使ったヒットアンドアウェイの戦法の練習に使うんだ。弱い相手で使えない戦法は強い相手に使えない」

 クーちゃんは、突進のスキルを使って、敵を倒していくが、一匹倒してから、次への動作があまりスムーズに動いていない。

 五尾は、その様子を見ていたが、呪文を唱えているので、アドバイスできない。

 五尾の魔法が完成したころには、クーちゃんも大分モンスターを退治を終えていた。

「三つ目のエリアだが、イベントエリアではなく、通過エリアになっている。その代わり、お助けアイテム類が配置されるように変わったようだ」

 五尾がクーちゃんに言った。

「と言う事は、あの重たい荷物を運ぶ必要がなくなったという事ですか?」

 クーちゃんはモンスターを倒しながら言った。

「恐らくな。あと、突進のスキル使ってないぞ」

「そんな事言ったって、疲れました」

 クーちゃんは、大分息切れしている。

「ペース配分の失敗と、一回使った後、次へと移る時のタイミングの取り方が悪い。あと、一匹だ。ガンバレ」

 クーちゃんが、一つ目のエリアの雑魚モンスター全部を倒しきると、周りの景色が真っ白になって行く。

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