第三話
クーちゃんが観音開きの扉を通り抜けると、そこには、直径三メートル程の丸い鏡のようなモニターがあり、その下には、台が付いていて、その台には赤い丸いボタンとパソコンのキーボードのようなモノとタッチパットのようなモノが付いていた。
ここは、一体どこだ。異世界の入口にしては、なんか微妙なんだが。
クーちゃんが、モニター以外の周りを見てみると、全体があまり広くない部屋であり、モニターの左側には、クエスト入口と書かれた看板が付いている扉があり、モニターの右側には広場入口と書かれた扉がある。
そして、クーちゃんの背後には、日本へと書かれた扉、クーちゃんがここに入ってきた扉がある。それ以外は、モニターの側に宝箱のようなモノが一つ置いてあった。それ以外は何もない、殺風景な場所だった。
クーちゃんが、一番目立つモニターの前に近づくと、モニターが点灯した。クーちゃんは驚き、ビクッとする。モニターには、『現在受注できるクエストはありません』と表示された。
クエストってなんだよ。こんなところへいきなり連れて来られてもな。
クーちゃんは、クエスト入口と書かれた扉の方へ行ってみる。しかし、扉には取手もドアノブもなく、扉自身を押してもビクともしなかった。
入口と書いてあるのに、なんで入れないんだよ。
今度は、広場入口と書かれた扉の方へ行く。こっちの扉にも取手もドアノブもない。扉に手で触ってみると、クーちゃんの手は扉を通り抜け、あっという間に体全体が扉を素通りした。
クーちゃんの目の前には、広場があった。
クーちゃんとは異なるテディベア、シベリアンハスキー、ゲームのキャラクターのモンスターなど、いろんなヌイグルミが歩いている。あと、数こそ少ないが、女の子の遊び道具のミカちゃん人形も歩いている。
ミカちゃん人形は人形だけど、ヌイグルミじゃないよな? どうしてここに?
あ、そう言えば、日本から来たヌイグルミの他に、この世界に元からいる人形がいるって言っていたような気がする。もしかして、この世界の住民なのか?
「ようこそ観念投影世界へ。どうかなさいましたか?」
すぐ横から声を掛けられて、クーちゃんは横見ると、そこに、フランス人形がおり、クーちゃんは予想外にいたフランス人形に驚く。
「そんなに、驚かなくても~」
フランス人形は、困惑気味に右頬を引き攣らせながら言った。
フランス人形は、受付と書かれた台の後ろ側に立っており、ここだけ、デパートか何かの総合受付のような雰囲気を醸しだしている。
「俺。この世界に初めて来たんだけど。何をしたら良いのか分からなくて」
フランス人形は、ニッコリ微笑む。
「コンソールルームで、コンソールを操作しましたか? 初めて来た人は、操作してはいけないと思って遠慮して、何もせずにこちらに来る方も少なくないんですよ」
コンソールルームってなんだ。もしかして、さっきの部屋の事か?
クーちゃんは振り返ってみると、先ほどここに出てきた扉がなくなっていた。正確には扉どころか、壁もない。道になっており、アザラシとキリンのヌイグルミが歩いていた。
「扉がなくなってる。なんでだ?」
フランス人形は、クスクス笑っている。
何笑っているんだよ。
「失礼しました。初めて来た方はみんな同じ反応をなさるので、ツイ」
フランス人形は、笑いながら言った。
「コンソールルームって何? て言うのもみんな聞くの?」
クーちゃんは不機嫌なのを隠さずに聞く。
「そうですね」と、言うと、フランス人形は、苦笑いをする。
「ちなみに、この世界へ来てすぐの大きな丸いモニターがあった部屋の事をコンソールルームと言います。日本から、この世界にやってきたヌイグルミ全員に自分専用のコンソールルームがあり、日本から、こちらの世界に来ると必ずご自分のコンソールルームに来ます」
まるでゲームみたいだな。
「さっき、そのコンソールルームの丸いモニターに、 『現在受注できるクエストはありません』と表示されていたんだが」
フランス人形は、にっこり微笑む。
「それは良かったですね。とりあえず、あなたは、あなたの持ち主さんと上手く行っている証拠です」
はぁ? 言っている意味がわからん。
「持ち主と上手く行っていないと大量にクエストが表示されます。そのクエストを受注し、クリアすると日本でのあなたの境遇が改善すると言う仕組みになっております」
「なんだってえ。それじゃあ、日本で不幸であればあるほどクエストが受注できるって事か?」
「そう言うことです」
それじゃあ、俺の持ち主の愛奈ちゃん次第で、クエストが増えたり減ったりするのか。それって良いことなのか?
「それじゃあ、持ち主からずっと大事にされているとクエストって発生しないのか?」
「そう言うわけではありません。例えば、あなたを大事にする持ち主さんが、不幸な目にあっていたら助けて上げたいと思うでしょう?」
愛奈が、酷い目にあって悲しんでいる姿を想像する。クーちゃんは頭を振る。
「当然だろ」
「そうすると、持ち主さんとの絆が強ければ、持ち主さんの助けになるクエストを受注できるようになります。つまり、あなたが持ち主さんの幸福のヌイグルミになれるって訳です」
それはいいな。
クーちゃんは、愛奈が幸せそうに笑っている姿を思い浮かび、何故か嬉しくなる。
「具体的にどうすると、クエストを受注できるようになるんだい?」
「それは、持ち主さんとの絆を深めるのが、近道かと……そう言えば、持ち主さんとまったく絆が深まらず、絆がを深めたいと強く願ったら、急にクエストが受注できるようになったと言う報告もありますよ」
なんだよそれ。それじゃあ、なんでも強く念じたら、クエスト受注できるようになるんじゃないの?
「とは言え、この世界に来たばかりだと、難易度の高いクエストをいきなり攻略するのは難しいので、まずは、チュートリアルクエストにチャレンジすることをおススメしますよ」
「チュートリアルクエストって?」
フランス人形は、営業スマイル全開にする。
「この世界で受注できるクエストには、いくつかパターンがあります。その基本的なパターンを学べるようにこの世界を作った神様が準備した練習用クエストです」
「そのチュートリアルクエストってどうやると受注できるんだ」
「コンソールルームでコンソールを操作すると受注できます。分からなかったら、コンソールの画面に話しかけると音声で教えてくれますよ」
「そうなの!」
さっき、画面を操作しておけば良かった。
「はい。コンソールの操作の事は、コンソール画面に聞くのが一番早いです」
なるほど。重要な情報を得られたのは良いのだが、どうやったらコンソールルームに戻れるんだ? どうせだ。聞いてみよう。
「コンソールルームに戻るには、どうしたら良いんだ?」
「コンソールルームオープンと言うと扉が現れますので、その中へ入るとコンソールルームに入れますよ」
クーちゃんは、ゴクリを唾を飲む。
「コンソールルームオープン」
クーちゃんの直ぐ側に、扉が現れる。壁もなければ、何もないところに扉が現れた。クーちゃんがその扉に触ると、扉と一緒に広場から消えた。