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第十一話

「ちくしょー!」

 クーちゃんが目の前で消滅し、『愛奈の思い』が、ほんの少しだが、安全地帯からはみ出ていたのに気付いた五尾は、叫んだ。


 惜しいところまで行ったのに。なんでこんなところでクエスト失敗なんてするんだ。


 五尾の周りの風景は、真っ白になって行く。



 クーちゃんと愛奈が殺されるはずだった十秒前。

 クーちゃんは、愛奈ちゃんに背負われている背中に戻った。愛奈は、愛奈宅の向かいにある倉庫の鉄パイプが置いてある方へ走る。

 クーちゃんがコンソールルームで見た映像とは違う方向であった。クーちゃんがクエストにチャレンジした為、因果律に変化が起きたのだ。

 しかし、やっぱり愛奈は人喰クマに追いつかれる。人喰いクマが愛奈を襲おうとしたその刹那、愛奈は鉄パイプに足を引っ掻けて、倒してしまう。そして、倒れた鉄パイプは、そのまま、人喰クマの頭へ命中する。

 人喰クマは、テディベアの人形に頭を鉄パイプで殴られると言う、ありもしないトラウマを思い出す。その為、過剰にビビッて立て続けに倒れてくる鉄パイプを避けて、三メートル程、飛び退いた。

 愛奈は気丈にも倉庫の壁に沿って走り、倉庫の入口の横も通り抜けた。

 しかし、鉄パイプに驚かされた人喰いクマは怒り狂い、愛奈に襲い掛る。そして、背負っているクーちゃんを見ると激怒し、クーちゃんを無残に切り裂く。そして、もう一方の前足で、愛奈を切り裂く。

 愛奈は、哀れにも血飛沫を上げて、倒れた。



 クーちゃんは気付くと、再び観念投影世界(イデアビジェクションワールド)の自分のコンソールルームにいた。前回と違うところは、五尾が出迎えてくれたことだ。

 クーちゃんは、愛奈が倉庫の壁に沿って走っているときに、リキャストタイムの十五秒が過ぎ、観念投影世界へ来れたのだ。

「お帰り」

 五尾が言った。

「ただいま戻りました」

 そう言うと、クーちゃんを苦しそうに息を吐く。

「モンスターに殺されて、リキャストタイムギリギリでこっちに戻って来ると、疲労がキツイだろ」

 クーちゃんは、自分が息切れしていることに気付く。

「めちゃくちゃキツイです」

「スタミナミートでも食べると良い。持っていないならやるよ。いっぱい持っているから」

 スタミナミートとは、観念投影世界のアイテムで、食べると疲労回復効果のあるアイテムである。チュートリアルクエストやスキル迷宮のクエスト報酬に必ずついて来るので、何気にアイテムボックスに溜まっていたりする。

 五尾は、アイテムボックスを開けると、なかからスタミナミートを五つ取り出し、クーちゃんに全部渡す。

「ありがとうございます」

 クーちゃんはスタミナミートを食べる。


 これ、結構上手いな。実は初めて食うとはいえないな。


 あっという間に、五つ全部食べてしまう。

「そうだ。愛奈ちゃんはどうなったんだ」

 慌ててコンソールを操作し、愛奈がどうなったのか調べる。

「ちくしょー!」

 クーちゃんが、観念投影世界へやって来る瞬間から数えて、再び十秒後に愛奈は殺されていた。

「慌てるな。クエストは残っている。まだ、やり直しができる」

 クーちゃんは、コンソールを操作し、受注できるクエストを調べると『愛奈ちゃんを救出し、人喰クマを撃退せよ』のクエストはそのまま残っていた。クーちゃんは、ホッとする。

「そ、そうだ。どうして、五尾さんは俺のコンソールルームに居たんですか?」

「ピンクリボンは、助っ人を頼むのは今回が初めてなのか?」

 クーちゃんは肯く。

「クエストを受注した人物が、死んだり、リタイアすると助っ人は強制的にクエストから追い出されて、コンソールルームに飛ばされるんだよ」

「そんな仕組みになっていたんですね。知らなかったですよ」

 五尾は、クーちゃんの様子を観察する。

「そろそろ、体調は戻ったか?」

「あ。そう言えば、全然怠くない」

「それじゃあ、そろそろクエスト行くか?」

「はい。行きます」


 クーちゃんと五尾の二人は再びクエストにチャレンジする。

 一つ目のエリアは、一回目と同じでクーちゃんが一人で、雑魚モンスターを退治する。その間に五尾は魔法を使った。

 五尾の使った魔法で、一回目の時の第三エリアとは、若干変ったが、用途はイベントエリアで変わりない事が判った。

 一つ目のエリアの雑魚モンスターをクーちゃん一人で倒したが、レベルアップしなかった。

 そして、二つ目のエリアに入って直ぐのところで、一回目と同様に雑魚モンスターを倒す。そのタイミングでクーちゃんに待望のレベルアップした。

「やっとレベルアップしたな」

 五尾が言った。

「マジっすか。俺自身はあまり自覚ないんですけど」

「レベルアップしても、目に見える場所に分かるようには表示されないからな」

「五尾さんは魔法を使うから分かるんですよね」

「その通りだな」

 分析魔法を使えないヌイグルミは、コンソールルームへ戻って、コンソールを確認する以外の方法でレベルアップしたことを知る手段はない。

「いいなあ。俺も使えたらなあ」

「魔術探知系のヌイグルミになりたいのか?」

 クーちゃんは苦笑いする。

「それじゃあ、ここからは、一緒に雑魚退治をするぞ」

 五尾が言うと、クーちゃんは少し考え込む。

「このエリアの雑魚も俺一人で退治しても良いですか?」

「このエリアの雑魚を全部倒したところで、ピンクリボンが今回のクエスト中で四レベルにはなれないぞ」

「俺、レベルアップでどのぐらい強くなったのか実感したいんです。お願いします」

 五尾は、しばらくクーちゃんの瞳を見る。

「まあ、良いだろう。だが、手伝って欲しくなったら言えよ」

 クーちゃんは礼を言うと、モンスターを退治に行く。五尾はしばらく魔法を使って、このエリアに置いてあるアイテムの場所を魔法で調べる。その後、五尾の案内で、アイテムを回収したのち、三つ目のエリアに進んだ。

「いままで楽には倒せなかったモンスターが楽に倒せるようになるのは気持ちいい。三つ目のエリアのモンスターは戦えるかな」

 クーちゃんは、三つ目のエリアの出現位置に元から居たモンスター、木彫りのクマ人形を見ながら言った。

 五尾は、見破るの魔法で木彫りのクマ人形の大体の強さを見る。木彫りのクマ人形の強さは、だいたい三レベルのヌイグルミの強さと同じぐらいなので、クーちゃんでも戦えるのは分かっていたが、調べると若干クーちゃんの方が強かった。

「一対一で戦えば、問題ないだろう」

 五尾が分析結果から言った。

「まず、俺一人で戦わせてください」

 クーちゃんは、突進のスキルと鉄の爪のスキルを使い、先制攻撃をする。すると木彫りのクマ人形は怯んだので、連続攻撃が命中する。木彫りのクマ人形はそれでも体勢を立て直すと、反撃をしてくる。その反撃をクーちゃんは受けてしまうが、気にせずに木彫りのクマ人形を攻撃し倒す。

 クーちゃんは、ヒットポイントの十分の一ぐらいのダメージを負っていた。

「残念。無傷で倒せなかった」

「今使える攻撃スキルのレベルをあげるか、攻撃を受けないようにする工夫をするか、だな。とりあえず、そこの安全地帯に看板がある。何て書かれているか確認しよう」

 クーちゃんは怪訝そうな顔をする。

「前回と同じじゃないんですか?」

「見ればわかる」

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