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第二話

 男がクマに襲われて死んだ住宅街の近くにある大きなお屋敷。

 そのお屋敷には、河井家という一家、若い夫婦と保育園児の少女・愛奈が住んでいた。

 愛奈が通っている保育園は、今日も休みであった。

 保育園の近所の住人や登園途中の園児とその保護者が、クマに襲われて死んだ。その為一週間、保育園は休園していたが、開園後すぐに、近所の住人の男が通勤途中にクマに襲われて死んだ。その為、無期限で休園になった。

 父親は、遊びたい盛りの愛奈が、一人でお家で遊んで居なければならないのが可哀想だと思い、今日はお土産のヌイグルミを買って帰った。


「ただいま」

 ドアのカギを開けて、入ってきた父親が言った。

 愛奈は、リビングで幼児向けの歌と踊りの番組を夢中になって、幼児用の白いブラウスにピンクのパンツの姿で踊りながら見ていた。その為、父親の帰りに気が付かない。

「お帰りなさい」

 キッチンから顔を覗かせて母親が言った。母親には先にヌイグルミを買って帰ると話していたので、特に驚く感じもない。母親は手を洗うと、タオルで手を拭くと父親の元へ行く。

「あと、もう少しでテレビ終るから、先に着替えて来て。その後に渡してあげて」

 そう言うと、鈍い黒の瞳のヌイグルミの顔を見るとニッコリする。

「可愛いヌイグルミね」

「五万円以上もしたんだから、可愛くなきゃね」

 そう言うと父親も苦笑いする。予想していたより金額が高かったのだ。

「でも、クマで困っているのに、なんでクマのヌイグルミにしたの?」

 父親は指摘されて初めて気付く。

「愛奈が気に入ってくれなかったら、大損だよ」

「だいじょうぶよ。気に入ってくれるって」

 母親はフォローする。


 父親がビジネススーツから部屋着に着替えて、ヌイグルミを持って来ると、テレビ番組は終わっていたので、愛奈は父親に気付く。

「パパ。お帰り~」

 そう言いながら、愛奈は父親の元へ走って行く。

「ただいま。今日はお土産だよ」

 愛奈の目が輝く。

「わぁ。クマさんだ~」

 父親が、愛奈にテディベアのヌイグルミを渡す。

 愛奈は、テディベアを手にするとぴょんぴょん飛び跳ねながら喜ぶ。

 テディベアは、ブラウンをベースとし、黒色の瞳を持っていた。

 愛奈が手にすると、目がキラキラと光りだし、光沢のある目に変わる。


 ここは何処だ。

 誰だ、この幼女は。


 テディベアに魂が宿った。その為、その瞳には、愛奈の顔を映った。

「愛奈ちゃん、クマさんに名前を付けてあげて」

 母親が、微笑みかけながら愛奈に言った。


 クマさん?


「えーとね。クマさんだから、クーちゃん」


 この幼女が、愛奈ちゃんとやらで、俺が、クマさんのクーちゃん?

 クマに殺された俺が、クマのヌイグルミに転生するなんて、とんでもない皮肉だな。


 愛奈は、クーちゃんにスリスリする。

「フワフワのモコモコだ~。気持ちいい~」


 幼女にスリスリされている。これはこれで気持ちいいぞ。


 父親は、愛奈がテディベアを気に入った事にホッとする。

『よくよく考えてみたら、クマのせいで愛奈が、外で遊べなくなったし、保育園も休園になったんだから、クマのヌイグルミをお土産にするのって、やっぱ変だよな。なんでこんな高いヌイグルミを買ったんだっけ?

 愛奈が気に入ってくれたんだし、ま、良いか』

 父親は、そんな事を考えていた。しかし、テディベアを買ったのは、クーちゃんに転生した男が、現世と幽世の狭間でヌイグルミに転生すると決めた時に、因果律が歪められたからである。とは言え、父親にそんなことは知る由もなかった。


 愛奈は、クーちゃんとままごとをしていると、晩御飯の時間になる。

 母親に呼ばれ、ダイニングに行くとテーブルの上に食事の準備がしてある。愛奈はいつもの自分の席に座ると空いている自分の席の隣にクーちゃんを座らせる。

 家族揃って、食事を始める。


 この家族、仲が良いな。


 愛奈が、ままごとの延長のような事を話すが、両親はそれに付き合う様に受け答えをしている。


 良い家族、良い持ち主に恵まれたなぁ。

 ところで、どうやると、異世界に行けるんだ。

 そもそも、このヌイグルミの体、自力では全然動かせないし、どうすれば良いんだ。

 いやいや待て。今は、家族全員の前だ。異世界に行って、消えても、消えた時間に戻ってくるから、人間にはなくなった事に気付かないと言っていたけど、本当だろうか?

 とりあえず、今はまだ止めておこう。


 クーちゃんは、家族団欒しながらの晩御飯の様子をジッと見続けた。と言っても、見ない方法はなかったが。

 家族全員の食事が終わり、話しが途切れると、母親が食器などを片付け始める。すると、父親も一緒に片付け始める。愛奈は、まだ、食器の後片付けはできなかった。

 愛奈は、クーちゃんを抱っこすると、遊び始める。


 リビングで愛奈は、クーちゃんと遊んでいると、お風呂の時間になる。

「愛奈ちゃん。お風呂に入ろう」

 父親は、リビングに来ると、愛奈に言った。

 愛奈は、肯くと父親と一緒に、クーちゃんを連れてお風呂場に行く。

 父親は愛奈がクーちゃんを持ってきている事に気付く。

「愛奈ちゃん。クーちゃんはリビングに置いていこうね」

「クーちゃんも一緒にお風呂に入る」

 父親は困った顔をする。

「クーちゃんは体キレイだから、お風呂に入らなくても大丈夫なんだよ」

 クーちゃんは、今日、買ってきたばかりだ。当然汚れていない。

「いや。一緒に入るの」


 愛奈は、散々ゴネたが、結局クーちゃんはリビングに置いて行くことにする。

 母親は、洗濯と、乾燥機による乾燥も終わった衣類を、畳んでいたので、リビングにいない。リビングにはクーちゃんのみになった。


 誰もいないし、異世界に行くのは、今がチャンスだ……、だけどどうやったら行けるんだ?

 そもそも、全く動けない。動けない以上、何かをすると行けると言うことは、ないだろう。

 念じれば行けるのか?

 異世界に転移、異世界に転移、異世界に転移、転移させてくれー!


 クーちゃんは、気が付くと、真っ暗な空間にいた。

 辺りを見回すと、突然、上部はアーチ状になっている大きな観音開きの扉が現れた。

「ここが異世界か?」

 クーちゃんは、初めて自分が発した声を聞き、驚く。


 動ける、じゃべれる。


 クーちゃんは、腕や足を思い思いに動かす。そして手を見ると、短いけれど指が動くことがわかる。今度は、扉を見ると、扉の上部に、『観念投影世界』と書かれた看板があった。

「ここが、異世界の入口か」

 クーちゃんは、扉の方へ歩いて行くと、扉は自動で開く。しかし、扉の中は、光っており、中は見えない。クーちゃんはそのまま、扉の中へ入って行く。

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