第三話
愛奈は、およそ十メートル程先にある十字路に人喰クマを発見する。
恐怖で愛奈は、固まってしまう。しかし、妹である、クーちゃんが背中にいる。クーちゃんを守らなければならないと思った愛奈は、人喰クマに背を向けて走り出す。
ダメだ。そんなことしたらクマが一気に走って来る。
クーちゃんの心の叫びは、声になる事は決してない。クーちゃんが、人喰クマを一目見ると、観念投影世界で見た、人を襲うクマの幻影のクマと被って見えた。
人喰クマは、愛奈目掛けて一気に走って来る。
ダメだ。追いつかれる。そうだ。異世界だ。異世界行くぞ!
クーちゃんは気が付くと、 観念投影世界の自分のコンソールルームにいた。
「そうだ。愛奈ちゃんは、無事か!」
クーちゃんは、正気に戻って、そう言うと、コンソールに駆け寄る。
すると、コンソール画面に、
『
新しいクエストが受注できます
個人専用クエスト
New 愛奈ちゃんを救出し、人喰クマを撃退せよ
』
と表示されていた。
クーちゃんがずっと待ち焦がれていた、個人専用クエストであったが、今のクーちゃんにとって、優先度が低かった。急いで、クーちゃんが人間界を去った場所の様子が見れるページに移動する。
すると画面には、引き裂かれた自分の体と血塗れになった、愛奈の死体が映っていた。
俺も愛奈ちゃんも死んでいる。俺は生きているぞ。どうしてだ。
クーちゃんは気が動転していた。それでも、なんとか映像を巻き戻すと、殺されるより十秒ほど前に 観念投影世界に来たことがわかる。つまり、今、日本に戻ると十秒程で殺されて、お終いになる状況にいることがわかった。
この十秒というのが、まさに致命的である。
なにかしらクエストにチャレンジして失敗すると、日本から観念投影世界に戻るために必要な時間、リキャストタイムとして十五秒以上掛る。
藁にもすがるように、コンソールを操作すると、新しいクエストが受注できる様になっている画面が映る。
な、なんだ。この『愛奈ちゃんを救出し、人喰クマを撃退せよ』って言うクエストは。今の状況にマッチし過ぎていないか?
クーちゃんは、すがるように、クエストの内容確認する。案の定、このクエストを攻略すると、日本ではすでに殺されてしまっているクーちゃんや愛奈が助かり、しかもクマを追い払う事ができる。
本当にそんな上手い話しがあるのか? 今、俺は本当に危機的状況なんだが。
クーちゃんはクエストをさらに調べる。すると、クエストの攻略適性レベルは五レベルであった。クーちゃんは、再び絶望した。クーちゃんのレベルはまだ二レベルである。あと少しで三レベルに上がりそうなところまで経験値は溜まっていたが、仮に三レベルにレベルアップしたところで適性レベルには達しない。
完全な無理ゲーだ。俺はどうなっても良い。せめて、愛奈ちゃんだけでも助けられないだろうか?
そう考えていると、ザンの事を思い出す。
そう言えば、『三レベルになったら、助っ人サポートプログラムに会員登録すると良いですよ。他人の個人専用クエストや配信クエストの助っ人として、管理局が斡旋するプログラムです』と言っていたな。この話しは自分が助っ人をやると言う話しだったけど、逆に助っ人を頼めるって事だよな。どうすると、頼めるんだろう?
誰に頼むと良いんだろう?
とりあえず、ザンさんに聞いてみるか。
クーちゃんは、フラフラ歩きのまま、町役場に到着し、そのままザンのいる窓口へ行く。
「どうかしたんですか? 顔色が良くないですよ」
クーちゃんを見たザンが開口一番言った。
クーちゃんは、状況を丁寧に説明する。
「町長のところへ行きましょう。普段はとんでもないポンコツですが、こういうピンチの時だけはなぜか、頼りになるんですよ」
ザンが、真面目な顔で言った。
クーちゃんは、ザンの後について行くと、町長室の中へ入って行く。中には昼寝をしている町長がいた。
「町長、起きてください」
ザンが大声で話しかけると、町長はビクッとする。
「ビックリするじゃないか。何用だ」
町長はザンが悪いかのように言う。
「仕事ですよ。ピンクリボンさん。さっき僕にしてくれたように町長にも話してください」
クーちゃんは、日本に帰ると約十秒後に自分と愛奈が殺されることと、新たに受注できるようになった個人専用クエストをクリアしたら助かりそうだが、自分のレベルが二レベルであり、攻略適性レベルが五レベルで全然足りないことを話した。
「君が、非常にヤバイ状況なのは、ミーにはわかったよ。もう少し詳しく知りたいね。君のコンソールルームへ招待してくれないかい?」
町長は軽い口調で言った。本当にヤバイ状況を理解しているのか疑わしい口調だ。
「招待って、どうやると出来るんです?」
「コンソールルームへの扉を開いて、君が通る前に僕たちを通せば良いんだよ」
ザンが説明する。
クーちゃんたちは町役場を一旦でると、クーちゃん専用のコンソールルームへの扉を開く。町長、ザン、クーちゃんの順番に入って行くと、全員クーちゃんのコンソールルームへ到着する。
「これが君の言っていた、個人専用クエストだね」
そう言うと、町長はコンソールを操作する。
「そして、日本での君の状況は、絶望的な状況だね」
町長は、絶望しているように聞こえない口調で言った。
「どうにかなるでしょうか?」
「調べてみよう」
町長がそう言うと、クーちゃんの前にザンが立ちはだかる。
「今、町長特権でシステムにアクセスしているので、ちょっと待ってね」
ザンが言った。
「俺はどうなってもいい。愛奈ちゃんだけでも助けてくれ」
クーちゃんは、鬼気迫る勢いで言う。
「落ち着きなよ。君が助からなきゃ、君の持ち主を誰が助けるんだい」
ザンのセリフに、クーちゃんは絶句する。
しばらく待つと、町長が唸りだす。
「どうかしたんですか? ピンクリボンさんが不安になるので、変な唸り声をあげるのは止めてください」
ザンが迷惑そうに言った。
「そうなんだけどね。いろいろ候補を立てて、成功率を算出しているんだが、なかなか確率が上がらなくてね」
そう言うと、町長は何が楽しいのかわからないが、笑いだす。
「オー マイ ゴット!」
「どうかしたんですか?」
ザンが聞く。
「九レベル、八レベル、七レベルの目ぼしいヌイグルミを助っ人にしても全然成功率が上がらないんだよ」
町長のセリフを聞いてクーちゃんはショックを受ける。
そ、そんな。それじゃあ、どうしたら良いんだよ。
「俺一人でチャレンジしたら、成功率はどのぐらいですか?」
「〇・ 〇 〇 〇一パーセントだよ。良い助っ人を探し出すから、早まるんじゃないぞ」
町長が言った。
その後も、コンソールを操作して、目ぼしい助っ人を探すが見つからなかった。
「君と縁のあるヌイグルミは誰かね?」
町長が諦め気味にクーちゃんに聞いた。
「俺、友達いないので。縁があると言えば、五尾さんぐらいですかね」
「そう言えば、転居届を持ってきたときも五尾と一緒だったね」
そう言うと、町長はコンソールを操作する。
「助っ人決ったぞ」




