第五話
五尾は、イベントクエストを説明すると、愚痴を散々こぼすと、突然姿を消した。
「あれ、五尾さん突然消えた!」
クーちゃんが驚いて言った。
「日本に帰ったんじゃないんですか」
ザンが興味なさげに言った。
「でも、『日本への扉オープン』て言っていなかったし、確認画面も出てなかったよ」
クーちゃんが言うと、ザンは苦笑いを浮かべる。
「あの人、全部で千個あるチュートリアルクエストを全部クリアしているんですよ。とにかく物知りなんです。ほんと、何でも知っているんですよ」
ザンは、力説する。
ザンさんも何かと、五尾さんを頼りにしているなあ。
「今度、五尾さんにあったら聞いてみると良いですよ」
何故か、ザンは得意げに言った。
「そうさせてもらうよ」
本当に日本に帰ったかどうかも、確認できるしね。
クーちゃんは、町役場を出て、来た時とは別のルートで広場へ向かった。
今、日本に帰っても愛奈は昼寝を始めたばかりである。一時間半ぐらいは寝るだろう。一緒に眠れたら良いのだが、残念ながら眠くない。
コンソールルームには、いつでも戻れるが、疲れて眠たくなるまで、町を見て回りたいと思ったからだ。
しかし、友達のいないクーちゃんは、あまり寄り道する場所もなく、町役場を出発してから十五分後ぐらいに広場に到着してしまう。
もう、広場に到着してしまった。どうやって時間潰しをしようか。この際だから、チュートリアルクエストでもやろうか。
すると、ピンク色のキツネのヌイグルミが広場に現れたのをクーちゃんは気付く。五尾と同型のヌイグルミだ。
「五尾さん?」
クーちゃんは思わず話しかけて、失敗したと思った。他人の空似だったら恥ずかしいからだ。
「なんだ、ピンクリボンじゃないか」
五尾は、返事をすると欠伸をする。とても眠たそうにしている。
「どうして、さっきは突然消えたんですか?」
クーちゃんは早速聞いてみた。
「さっき?」
五尾は、考え込む。
「ああ、そう言えば、日本で十時間程寝る前に、町役場でピンクリボンとあったな」
十時間? 日本でそんなに寝たのか。
「その時、『日本への扉オープン』って言わないのに、突然消えましたよね」
クーちゃんは確かめる様に言った。
「そうだな。それがどうかしたか?」
五尾は肩をほぐすような仕草をする。四足歩行の五尾は、肩こらないのだが。
「どうすると出来るんですか? 確認画面も出なかったじゃないですか」
「そんなの聞いてどうするの?」
五尾は面倒臭そうに聞く。
「いや。気になるじゃないですか?」
「確認画面を出さない方法は、コンソールを操作するとお前でもできるはずだ。ただ、コンソールに聞いても、今は設定方法を教えてくれないはずだ」
なんだって!
「なんで、コンソールに聞いても教えてくれない方法なんて、知っているんですか?」
五尾はジト目でクーちゃんを見る。
「お前さ。チュートリアルクエスト全然クリアしていないだろ」
「そんな事ないですよ。十一番目のチュートリアルクエストまでクリアしましたよ」
五尾は溜息を吐く。
「あのな。五百番台のチュートリアルクエストで『コンソールで設定できる裏設定』と言うクエストがあるんだよ。それをクリアしないと教えてくれないんだよ」
ご、五百番台!
「そんなにクリアできるかい!」
チュートリアルクエスト平均クリア数は大体、二十一・四番目である。千番目のチュートリアルクエストをクリアした五尾の次、二番目に多くクリアしたヌイグルミは、百番目までクリアしていた。この様に平均で見るとあまり適切ではないので、中央値をみると、十三・三番目となる。
どちらにしろ、五百番台のチュートリアルクエストをクリアしているのは五尾しかいない。誰も知らないのは当然だ。
「どっちにしろ。設定したところで、確認画面を出なくなるだけで、無詠唱で日本に帰れるようになるわけじゃないからな」
五尾はボソッと言った。
「どういう事です? それじゃあ。何も言わずに日本に帰れるようにするには、別の方法が必要なんですか?」
五尾は、鼻息を短く吐く。
「別の方法ではない。併用しないとダメなの。特殊なスキルで、無系統スキルの中にショートカットスキルと言うスキルがある。それと、併用するの!」
そ、そんな事していたのか。
「そのショートカットスキルってどうやるとマスター出来るんです?」
「たしか、八百番台のチュートリアルクエストで『無系統スキルについて学ぼう』というチュートリアルクエストがあるから、それをクリアすると、ショートカットスキルをマスターするための小クエストが受注できるようになるんだ」
五尾がそう言うと、クーちゃんは固まる。
絶対無理だ。無理だから……
「お前と話したお陰で目が覚めたよ。ありがとよ」
そう言うと、五尾はどこかへ行こうとする。
「俺も一緒に行っても良いっすか?」
クーちゃんは、思わず聞いた。
「俺のルーティン。小クエストが発生していないか、チェックしに行くだけだぞ。ピンクリボンも分かっていると思うが、小クエストは、助っ人は呼べないし、同行してもお前のクリアにはならないぞ」
小クエスト発生のチェックか。五尾さんは、そんなこともしているんだ。
「具体的にどんな風にチェックするんですか?」
五尾は、渋い顔をする。
「ピンクリボンは、チュートリアルクエスト何番目までクリアしていたっけ?」
五尾は逆質問をする。
「十一番目までです」
「十三番目のチュートリアルクエストでわかるよ。俺の場合は、魔法を使うから、多少効率的にできるけどな」
十三番目か。それならあと二つだ。行けるな。でも、魔法かあ。いいなあ。俺も使えたら良いのにな。
「魔法を使えない場合とどう違うんですか?」
クーちゃんが興味深げに聞いた。
「魔法を使えない場合は、小クエストを発注してくれそうな人に片っ端から話し掛ける必要があるが、魔法が使える場合、小クエストを発注してくれそうな人に片っ端から魔法をかけて判別する。無駄な会話をしなくて済む分、若干早くわかる」
五尾は、面白くもなさそうに答える。
「五尾さんって、もしかしてコミュ障だったりします?」
クーちゃんは笑いながら聞いた。
「アホか!」
五尾は、呆れたように言った。
「俺はくだらない事に時間を割きたくないの」
クーちゃんと五尾は、町中を雑談しながら、回った。もちろん五尾は小クエストが発生していないかチェックしながらであったが、クーちゃんには、いつチェックしているかわからなかった。
「今日のチェックは終わったぞ」
五尾が言った。
「え。もう終ったんですか?」
あっさり終わったうえ、特に誰かに話しかけている様子もなかったので、クーちゃんはちょっと驚いた。
「本来は、今回まわった辺りの人形に話しかけて、小クエストが発生していたら、受注できるという流れになる」
「なるほど」
「今回は受注できる小クエストが発生していなかったし、俺は魔法で判別しているから会話も発生しない」
たしかに、人形一人一人に話しかけていたら、面倒だなあ。
「レベルがあがったばかりだから、小クエストが発生しているかもしれないと思ったんだがな」
「それは残念でしたね」
クーちゃんと五尾が世間話をしていると、クーちゃんたちから見えない物陰から、分析の魔法の呪文を唱えているヌイグルミがいた。五尾はすぐに気付き、認識阻害の魔法を完成させた。分析の魔法の呪文の詠唱が終る前に五尾の魔法は完成し、間に合った。無詠唱で魔法が使えるからできる事だ。
「俺たちに向かって分析の魔法を掛けた奴がいる。気を付けろ」
五尾がクーちゃんへ言った。
え。えー! どうやって気を付けるの?




