第四話
クーちゃんは、愛奈が昼寝を始めるとすぐに観念投影世界へやって来た。
昼寝時は、スキル迷宮へのチャレンジを控える事にしていたので、クエストに行くとしたらチュートリアルクエストを選ぶしかない。
うーん。チュートリアルクエストは、やる気分じゃないんだよなあ。とりあえず、町役場に行って、ザンさんにスキル習得とレベルアップの報告でもしに行くか。
クーちゃんは、町役場へ向かった。町役場への道をのんびり歩くと、いつものように賑やかで、辺りにテディベア数人とミカちゃん人形やイケメン人形などが通り過ぎていく。
「なんだこれ!」
驚きの声がクーちゃんには聞こえたので、そっちを見る。
人間がクマに襲われていた。そして、人間はクマに殺されてしまうところで消えた。
そう言えば、前にも似たようななの見えたな。あの時は、ザンさんと出会ったんだ。
「なあ。お前たちにも見えただろ」
さっきの声の主は、クーちゃんとは別の種類のテディベアであった。
「なんだったんだ。今のは」
一緒にいた別のテディベアたちにも見えていた。
クーちゃんは、ザンと初めて遇った時に、ザンが言ったセリフを思い出していた。
あの時、「人間界で起きている歪な思いがこちらの世界にも影響して、ああいう幻影が見えたりするんですよ」て、ザンさんは行っていたよな。そして、「クマに関係する人だから見えたのかもしれません」とも言っていた。
アイツらも俺と同じようにクマに殺されたんだろうか?
ま、良いや。ここは関わり合わないようにしよう。下手に話したら、前世でクマに殺されて、テディベアに転生したことを話す事になるかも知れないしな。
クーちゃんは何食わぬ顔で、町役場へ向かった。
クーちゃんは町役場に到着すると、まっすくザンのいる部署に向かう。ザンのいる部署に到着すると、ザンは机に向かって、書類を書いていた。
「ザンさん」
クーちゃんが声を掛けると、ザンはやって来る。
「どうかしましたが、ピンクリボンさん」
クーちゃんは驚く。
「ザンさんまで、ピンクリボンだなんて呼ばないでくださいよ」
クーちゃんは、苦笑いしながら言った。
「でも、クーちゃんさんの第一ニックネームに登録されていますよ」
ザンは、さも当然であるかの様に言った。
「はあ! なにそれ」
「この世界のヌイグルミには、良いニックネームが付けられて通り名として認められると、第一ニックネームに登録されるんですよ」
「でも、ピンクリボンなんて呼ぶの、四尾さんだけだよ」
「それはラッキーですね。名付け親は四尾さんって事ですよね」
ラッキーなもんか!
「四尾さんしか、そう呼ばないですよ」
「四尾さんは、将来高レベルになりますよ。高レベルのヌイグルミが名付け親のニックネームは、物凄く価値が上がりますので」
ニックネームの価値が上がるって、意味不明なんだけど。
「ニックネームの価値が上がるとどんな良いことがあるの?」
クーちゃんは呆れながら、とりあえず、聞いてみた。するとザンは斜め上を見ながら思い出そうとする。
「えーとですね。地味ーな特典があったけど、ちょっと思い出せないなあ。こういう時、四尾さんがいると、すらすら教えてくれるんですけどね」
そう言うと、ザンは苦笑いを浮かべる。
すると、近くの会議室から「ふざけるな!」と言う大声が聞こえたかと思うと、元四尾、レベルアップで五尾になった、が出て来た。そして、クーちゃんたちのすぐ傍まで来る。
「四尾さん。ちょっと良いですか?」
ザンが、五尾を呼び止めた
「今は五尾だ。レベルアップしたからな」
ザンは受付のモニターをチラッとみると、『五尾』と表示が出る。
「本当にニックネームが五尾に変わっていますね。レベルアップ、おめでとうございます」
ザンが言った。
「ニックネームが変ったってどうして分かるんだ?」
クーちゃんは思わず聞いた。
「ああ、行政の窓口には、失礼がないように、第一ニックネームをチェックする装置が付いているんですよ」
なんじゃそりゃ。
ザンは、五尾に名付け親のレベルが上がり、ニックネームの価値が上がるとどんな特典があるのか聞いた。
五尾は露骨に嫌そうな顔をする。
「そんな嫌そうな顔しないでくださいよ」
ザンが苦笑いを浮かべる。
「特典は確かにあるけど、大した特典じゃないよ」
「どんな特典何ですか?」
クーちゃんが聞いた。
「クエストクリアした時の報酬が通常より若干良くなるとか、宿屋に泊った時、少し便宜を計ってもらえるとか、勲章が若干貰いやすくなったりとかだな」
なんだそれ。
クーちゃんは微妙な顔をした。
「だから、大した特典じゃないと言っただろう。ただ、ルール上の特典よりも、目に見えない特典としては、周りのヌイグルミに名前を覚えてもらえ易いって言うのが最大のメリットじゃないの。俺は友達いないから知らんけど」
五尾は、面倒臭そうに言った。
「友達いないとか、自分で言っちゃいます」
ザンがからかう様に言った。
そう言えば、俺も友達いないなあ。愛奈ちゃんのことしか、俺考えていないし。
実際のところ、クーちゃんのように観念投影世界に来たばかりのヌイグルミや新人の頃から個人専用クエストの攻略が順調に進んでいるヌイグルミは、友達がいない事が多い。
新人は、お金、ドールを殆ど持っていない為、友達と遊びまわることができない。また、個人専用クエストは、助っ人を呼ぶと、助っ人を呼んだ分だけ、モンスターの数が増えたり、強くなったり、などの難易度が上がるので、自分が特別苦手なクエストでない限り、自力で攻略した方が気楽で良い。その為、個人専用クエスト攻略にハマると、友達付合いが悪くなるのだ。
「誰のせいで友達ができないと思ってるんだ。朝から晩までクエストやっていて、どうやって友達ができるんだよ」
五尾は、吐き捨てる様に言った。
「なるほど。だから、こんな短時間でレベルアップしたんですね」
ザンが、納得したように言った。
「特に町長からの依頼が多かったな」
町長? 町長から依頼ってどういう事だろう? 小クエストの事か?
「聞いても良いですか?」
クーちゃんが聞くと、五尾は仕方なく了承する。
「町長からの依頼って、小クエストの事ですか? 特別な配信クエストでもあるんですか?」
五尾は、妙に納得した顔をする。
「イベントクエストというクエストだ。特定のクエストを条件を満たしながらクリアする小クエストのようなモノだ」
イベントクエストって、また新しい言葉が出て来たよ。なんだか、複雑なんだよな。しかも意味わからん。
「例えばだが、受付のフランス人形依頼の小クエストの攻略と、ピンクリボンの個人専用クエストを手伝って攻略して来いと言うような、小クエストの中に複数のクエストが含まれるモノをイベントクエストと言うだ」
五尾は、クーちゃんの表情を見て補足した。
「つまり、クエストが入れ子になっているって感じですか?」
クーちゃんは、確認すために聞いた。
「そう言う事だ。しかも、殆どの場合、断れないクソのようなクエストだ」




