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第八話:特例ではなく特別な魔法を使おうと思います、違いが分かりますか?


 回復魔法で息子を救って欲しい。


 絞り出すようなイナンボク夫人の言葉だったが。


「ネヴハラ卿、イナンボク夫人、誤解しておられます。回復魔法は」



「分かっています!!」



 イナンボク夫人は大声を出して、ぐっと口をつぐむ。


「……失礼、愚かだと笑ってください、だけど縋らずにはいられないのです。貴方が追放されたと知った時、聖樹に認められた歴代最高の回復魔法を使えるのなら、違うのではないかと」


「…………」


 私はじっと、息子を見つめる。



「余命1カ月は間違いないのですね?」



「……医者の見立てですが、でも医者の見立てが無くても、分かります、もう、息子の命は、風前の灯火であると」


「…………」


 私は考える。


 今までの事、これからの事。



(私の目的達成の事)




「ネヴハラ卿、イナンボク夫人、他言無用を誓えますか?」




「…………え?」


 2人は呆けているが、それに構わず続ける。



「聖樹に認めれらた聖女には、自身に与えられた魔法に対して特別な魔法を発動する事が出来ます」



「ユ、ユツキ!」


「落ち着いて下さい。いいですか? 私は今「特別」と言いました。特例と特別は違います。違いが分かりますか?」


「…………」


 何回か述べたが魔法は、一定のラインを超えるとリスクと等価交換となる。そしてリスクを背負わせる出力は任意であるから事実上不可能。


 これが原理原則ではあるが。


「聖樹から授かる特別な魔法とは、リスクを自分が背負わない代わりに相手に背負わせると言ったものです」


「え?」


 相手にリスクを背負わせる、それはつまり。


「そんなことができるのですか!? 魔法の原理原則を覆してしまえば」


「発動条件がかなり難しくかつクリアしても発動が困難でありかつ発動しても成功確率が低いから現実的ではない。しかし原理原則を覆す魔法が存在すれば、それは即ち聖女の身の危険に及ぶ情報、よって秘匿事項となっています」


「…………」


「簡単に言うと、成功する確率はかなり低い上に、失敗すれば息子さんは100%死にます。更にこの魔法を発動させる為には結界を張る必要があり、魔法が終わるまで入ることが出来ません」


「つまり失敗前提な上に、私に対しての全面的な信用が必要で息子の死に目にも会えない、それでも私の力が必要ですか?」


 私の言葉にイナンボク夫人はネヴハラ卿は顔を見合わせると。


「元より覚悟のうえ、よろしくお願いします」


 とだけ言った。


 そうか、どの道同じならばと、そういう訳か。


 なれば、、。



「次に、報酬の話をしたいのですが」



「…………え?」


「不思議ですか? 言ったじゃないですか? 特別な魔法を授かっている、というのは聖女達に課せられた制約であると同時に、今回のお二人に対しての「漏洩」は自身の身の危険に直結する情報ですよ? だから他言無用と言ったのです」


「……なるほど、道理ですわ、「聖女」ユツキ。なればこちらから提供する報酬は衣食住の保証と金銭面の保証をしましょう」


「イナンボク夫人」


「お待ちになって、今言ったのは「手付金」の話です。結果の可否に関わらずこれは提供します。次に話すのは成功報酬についてです。もし息子を救ってくれた場合は」



「我が家名を名乗ることを許します」



「っ!!!」


 家名を名乗ることを許す、それって、、、。


「貴女には成し遂げたいことがあるのでしょう?」


「っ!!」


「そう顔に書いてありますよ」


「……顔に書いた覚えはありませんけど、とはいえ、そのとおりです。何をおいても成し遂げたい目的がある。具体的には、どのように?」


「私の養子にします。これで貴方はトウザ伯爵家の一員、公国ナンバー4の伯爵家の家名、万難を排するとまではいかなくても、不自由はさせません、これが成功報酬です」


 再び想像以上の報酬、それをこのタイミングで言ってくるってのは。


(なるほど、ヤリ手だ)


 確かに願っても無いことだ、トウザ伯爵家の名前だけじゃない、イナンボク夫人との繋がりは今、こっちも欲しくなってくる。


 お互いにニヤリと笑う。


「分かりました、取引成立。そうと決まれば一刻も早い方がいいですね。最後に息子さんに、どうぞ」


 夫婦は私の言葉に促され、それぞれに息子を抱きしめるとそのまま部屋を後にする。


「…………」


 退室を確認し私は息子を見る。


「さて、頑張りますか」



――2週間後



 その間のネヴハラ・イナンボク夫妻は努めて生活を続けていた。


 息子のことを考えると気が気ではないが、とはいえ、それを許してくれるほど世間は甘くない。


 感情を押し殺し、トウザ・ネヴハラは公国軍の第一師団参謀として、トウザ・イナンボクは、貴族社会を通じて情報収集に努めている。


 帰宅しての夫婦の語らいは、雑談から仕事まで様々だけど、今はもっぱらルクイアーダの話だ。


「トリア王子が聖女3人を投獄、やはり間違いないようだな」


 ネヴハラが発言する。


 聖樹が与える魔法という奇蹟は個人差がある。後天的に与えられる完全な才能であることから、はっきり言えば役に立たない魔法を持つ者も一定数いる。


 とはいえ能力の差で差別することが許されないという建前を通す名目で待遇は平等、結果国費の無駄という批判と、無条件の優遇により結果聖女達の増長を招いているという情報も得ている。


 この投獄は、王族の聖女に対してのスタンスに一石を投じる結果となったが。


「気になるのは聖女ノバルティスですね」


 イナンボクが発言する。


「聖女ノバルティス? ああ、社交界でトリア王子と共にいる姿を見たが、確か吹上ユツキの追放が」


「ええ、彼女がノバルティスを傷物にする策謀を立てた。それが露見し追放処分となった、つまり返り討ちにあった、という話ですね」


「その策謀など立てる意味はあるのか?」


「無いでしょうね、仮に個人的に嫌いだからという理由だとしても、やり方自体が短絡的過ぎる」


 ここに招く前吹上ユツキの情報収集をしたが噂は確かに悪い。悪いが、性格が悪いとか頭が悪いとか、抽象的なのも事実だった。


 イナンボクは続ける。


「聖女達は無条件で爵位と贅沢な暮らしができる。それは投獄された3人の聖女も同様、であるならば」


「嵌められたと?」


「というよりも今回の投獄と吹上ユツキの追放はマッチポンプという可能性が高い」


「可能性か、、、」


「そう、なにも証拠はない、あくまで可能性の話です。故に今はどちらが真実なのかは保留ですが、仮に今回のことが「嵌められた」といった場合、その犯人が聖女ノバルティスになるという事ですね」


「聖女ノバルティスの悪い噂は聞かないが」


「まあ、殿方は分かりづらいと思いますが、あの女に目を付けられると、手ひどい目にあわされますよ」


「…………仮に嵌められたとして、理由は?」


「そうですね、単純に自らの出世の為というのは? 自分の為に他者を利用し切り捨てる。よく聞く話ですよ」


「……確かにな」


 ここで会話が途切れる。


 いや、必死でつないでいると言っていい。


 ずっと頭から離れない、今息子がどうなっているのか、必死で考えないようにしているが、、。


 あの時は、吹上ユツキに対して覚悟の上だとと言ったが。


 覚悟なんて決め切れない。自分の子供が死ぬ覚悟なぞ、どうやって決めればいいのか。


 その時に部屋をノックする音が聞こえる。


「吹上ユツキです」


「「っ!!!」」


 2人はその言葉に飛び上がるほど驚くと一目散に駆け寄りドアを開ける。


 そこには吹上ユツキが立っていて。


「ど、ど、どうなのだ!?」


 ネヴハラが詰め寄り、それをイナンボク夫人が制する。


 そんな2人に私は。


「言葉よりも」


 と視線を横に移すよう促すと。



 そこには小さい子供が立っていて。



「……パパ、ママ?」


 その言葉を聞いて、よろよろとイナンボク夫人は、よろよろと近づくと。


「お、おおぉぉ~、ああぁ~」


 と声にならない声で泣きながら抱きしめる。


 一方、膝を付く形でネヴハラ卿も息を吐きだし目頭を手で押さえる。


「無事に成功しました。見てのとおり立って歩けるまでに快復。この子が元気になった姿を見せたいと、自分で言ってきたのですよ、ね?」


「うん!」


 と息子ミラは夫人に抱きしめられてくすぐったそうにしている。





「病気については完治していますが、立って歩けるとはいえ体力は相当に落ちています。とはいえもう既に魔法の必要はありません、食事と適切な運動をすれば、大丈夫ですよ」


 あの後すぐにぐっすりと寝ている息子ミラの横で話す。


「ありがとう、吹上ユツキ、今後のことについてですが」


「イナンボク夫人、まずはミラとの時間を取り戻してください、この2週間、気が気でなかったでしょう?」


「え?」


「それに最初の話のとおり、衣食住と金銭面は保証してくれるんですよね?」


 イナンボク夫人は、立ちあがり私に近づくと。


 貴族流の最大限の礼をしてくれる。


「ありがとう吹上ユツキ、私も貴族の1人。策謀の中で生きてきたけど、これだけは私の偽らざる本心、そして私は恩に報いる女よ。手続きが終了次第、貴方は私の養子としてトウザ伯爵家の一員となります。そして貴方の目的の為に、私も協力することを誓いますよ」


 イナンボクの夫人の言葉に私は。


「ありがとうございます、それでは早速」


 と身支度を整える。


「? どちらへ?」



「観光です。海沿いにある贔屓の店があって、魚貝のスープは絶品なんです。早速ゴチになりますよ~」


 手をひらひらとさせながら出て行った。


「…………」


 それを見送るイナンボク。


「凄いものだな! 魔法というのは、ルクイアーダが独占したがるわけだ!」


 夫のネヴハラが興奮気味に話しかけてくる。


「…………」


 イナンボクは黙っている。


「しかし、ルクイアーダは本当にあの歴代屈指の回復魔法使いの聖女を本当に追放したのか? いくら策謀とはいえ、非現実的ではないか? あの聖女が他国に流れ、我がバルシア公国の当家の一員になるというのは、話しが出来すぎにも思える」


「だが息子の命を救ってくれた恩人、仮にルクイアーダが手を出してきたとしても、既に軍部に根回しをしているから容易には、、」


 ここでネヴハラは気づく。


 イナンボクの目に、その目に宿っている感情に。


「どうしたんだ?」



「あの聖女は嘘をついています」



「え!? う、嘘とは?」


「おそらくですが、魔法に対しての特例ではなく特別な魔法が付与されるといった点です」


「何故?」


「仮にユツキの言葉が真実であるのならば、その事実が今の今まで噂でしか出なかったことが理屈に合わないからです」


 そう、魔法は、不治の病や致命傷に対しては同等の対価を支払わなければならない。


 特別な魔法とは対価を「相手」に支払わせる。


「…………」


 ここでようやくネヴハラは気づく。


「そうか、これ自体は別に広まっても、聖女側に特に不利益がない」


「はい、致命傷も不治の病も「駄目で元々」です、確率は確か3割と言っていましたか、聖女の魔法としては十分すぎる力ですね」


 ここでネヴハラは更に気付く。


「ユツキは、その嘘を私達が気付く前提でついたのか」


「間違いないでしょうね、まあ正直、ミラが無事だと知って、やっと頭が冷えた状態でようやく、ですけど」


「…………」


 ならここで最初の疑問に戻る。


「なら、ユツキは、何の魔法を使って、いや、となるとまさか!」


「詮索無用でしょう、嘘をつく意図を察せよという意味でしょうね」


「いいのかそれで?」


「今はまだ推測のみで成り立つ状況、彼女がトウザ伯爵家に名を連ねることになる。これを魔法の報酬としてではなく、こちら側から欲しいと思わせる嘘をあの場でつく胆力に興味がありますわ」


と不敵に笑うのであった。


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