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第六話:マッチポンプが出来る人間は手強いです


――数日後・カヴァン家



「それでは、行ってきま~す」


 準備を終えて、カヴァン家から出発しようとするが。


「兄さま、突然の呼び出し、大丈夫かな」


 浮かない顔をするルミ。


「まあ騎士にはつきものよね、それにしても」


 そう気になるのは呼び出しの用件。



 それは、不敬罪により聖女3人が身柄を拘束され投獄された件の捜査だ。



 そしてその件で一枚嚙んでいるのもやはりノバルティスだ。


「……大丈夫かな、兄さま」


 私に続いての事件に心配するルミ、普段は馬鹿とか言っているけど、兄想いのいい妹だ。


「よしよし、カヴァンなら大丈夫よ、ルミちゃんこそ1人で大丈夫?」


「大丈夫! 疲れているだろうから、帰ってきたら紅茶でも淹れてあげようかな」


「もー! なんて可愛いの!」


 とウリウリと可愛がる。


「ユツキ姉さまも、気を付けて」


「ありがとう、色々と報告は楽しみにしているよ、じゃあねルミ、名残は尽きないけど、向こうで落ち着いたら遊びに来てね」


「はい!」


 と大使館へと向かうのであった。




――カヴァン




――王城区・王国騎士団本部




「あの女に嵌められたのよ!!」

「早く調べなさいよ!! それが仕事でしょう!!」

「言っておくけど、貴方の取り調べの態度は問題にするからね!!」




 それぞれの取調室で、騎士相手に怒鳴り散らしている聖女3人。


「哀れなものですね、まだ自分の立場が分かっていない、それにしても我々が扱う犯罪者と何も違いがない、これが聖樹に認められた聖女ですか」


 そういうのは、次席騎士、カヴァンの補佐だ。


「…………実際に謀反の証拠はあるのか? クーデターを起こすなんてのは非現実的だと思うが」


「いいえ、暴力的な革命というよりも魔法を使って王子を傀儡にして永遠に享楽を貪るといったものです、彼女たちを家宅捜索した時に、その旨を記した日記が出てきました」


「彼女たちはそれについて?」


「完全否認しています」


「…………」


 魔法は万能ではない。


 例えば回復魔法で怪我と病気を治すことを仮定した時、骨折程度、軽度の病気までならノーリスクで治すことができる。


 次に瀕死の重傷、不治の病を魔法で治すことはできるが現実的ではない。


 何故なら聖女に同じ対価を要求する、つまり瀕死の重傷を直せば聖女が死に、難病を治せば罹患する。


 更に魔法の出力は使う聖女が決めることだから、無理に出力させることができない。拷問しようが洗脳しようができない、生存本能があるからだ。


 つまり魔法には失敗が存在する。


 歴史上瀕死の重傷、不治の病を治した聖女もいるが、それは自分の子供を治す時といった極めて限定される状況だ。


 その魔法の特性を踏まえての結論だが、人の心を操ることは確かに出来る。


 この3人は人の心を操る魔法を使えるチームだからだ。


 とはいえ魔法の制限は全ての種類に適用される。


 心を操ると言っても洗脳は出来ない。所謂「精神リラクゼーション」と表現するのが適切だが、それでも3人協力してなら、「左手をあげろ」程度の簡単な動作なら操ることができるが、、、。


「…………」


 だが、そんなことをして何になるんだろう。


 そんなことをしなくても特権を貪れる立場にあるではないか。



 事実、日記しか証拠品が無く謀反を認定できなかった、だから。



「不敬罪としては立件できるから、投獄は問題ないか」


 そう、結局それに落ち着いた。そして謀反を認定しなかったことについて王子も何も言わなかった。「そうか、後は任せる」と言っただけだった。



「それにしても、ノバルティス様は凄いですね」



「……え?」


「? そう思いませんか? 私はこれはノバルティス様による自浄政策のように思えます。既得権益に縛られない、それどころか簡単に破棄する。実際にノバルティス様も贅沢をなさらず、それでいて、その清楚な方ですよね」


「…………」


 そうか、そういう事だったのか、どうして気が付かなかったんだろう。



(そもそも王子も謀反の恐れなんて信じていない、これを方便に使ったんだ!)



 つまりノバルティスは聖女制度に不満を持っていたからこそ王子を利用して、不敬罪にもっていったのだ。



「…………」


 カヴァンは考える。


 今の考えはある意味、ノバルティスに都合のいい考え方で、それが通るなら、、。


(まさか、あの噂は、本当だったのか)


 そう、聖女達が言っていたノバルティスに対しての評。



――身体でも使ってスケベ親父たちを癒しているのではないか



 これがもし。



 半分中傷だとしたら。



 カヴァンは次席に問いかける。


「ノバルティス様の、王国病院での評判はどうだ?」


「え? ええ、凄い高いですよ。ノバルティス様の為ならと協力する有力者が多数、ってカヴァン首席騎士」


 次席騎士は少し睨むような感じで話しかけてくる。


「なんだ?」


「まさかあの聖女達の中傷を信じているのではないですよね? そんな事をする女性ではないです。仮に中傷が真実で色香や身体を使っていたら、あっという間に噂が広まり、男からは舐められる」


「……中傷など信じてしまっては騎士などできないよ」


「……失礼しました」


 そう、身持ちが軽い女は男から表面上はちやほやされていても実際は舐められるし、実際にそんな噂は無い。


 聖女とは聖女という爵位を持つ貴族ではあるが、実際は聖女としての活動をするための道具であるから、普通の聖女は政治力と財力はない。


 だから正直、ユツキの件と言い今回の件と言い、強引過ぎるというか、強権的というか、はっきり言ってしまえば愚かしいと思っていた部分があった。


 こんな露骨に周りを利用して振り回されれば、反感が残ると。


 だがこれがシナリオ通りならどうだ。


 今回のことは、その政治力がない筈の聖女ノバルティスが他の有力貴族からも認められている事を周知させるための。



(マッチポンプ!!)



 吹上ユツキが言っていた手強い。ここでようやくその言葉を理解する。


(そうか、ノバルティス様は入念に準備していたんだ)


 王国病院で、上流階級たちを相手に人脈を必死で構築していた。


 そして上流階級は彼女の策略に「乗った」のだ。



 今回の聖女達の投獄を「政治的運用」として認めらさせたのだ。



 結果、この件で王子の聖女に対してのスタンスが明白となり、増長していた聖女達の行動が変わった。



 同時にノバルティスの立場もより強固となった。


 王子の寵愛を賜る有力王妃候補とさえ言われ、自己犠牲的な国の奉仕者であり、他の有力者からも認められた有力貴族であると。



(ユツキ様!)



 カヴァンは、国を離れたユツキを思い、現状を憂うのであった。




――馬車内・吹上ユツキ




「ユツキ様、間もなく到着いたします」


 ガク大使のコンコンというノックと共に目覚める。


 ベッドから起きたのだけど、ここは何と馬車の中だ。


 流石外交馬車、長距離移動を想定しているし、私みたいに招待客を乗せるから大きく豪華に作られており寝心地も抜群だった。


 起き上がって身支度を整えて、部屋を出て天井に上がる。


 そこから潮の香りが鼻孔をくすぐる。


「おお~久しぶりね」


 起き上がった先に見えるのはバルシア公国。


 海沿いに設けられた、漁業と貿易業が盛んな豊かな国だ。


「ここの魚貝のスープが絶品だったなぁ、落ち着いたら食べに行こう」


 と異国の地、バルシア公国に到着したのであった。




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