第五話:聖女とは特権階級なんです、だから、、、
――王城
聖女とは聖樹より祝福を賜った特別な存在。
国家への奉仕が義務付けられる代わりに、無条件で聖女という爵位が与えられる。
城内に特別居住区が与えられ、衣食住にかかる全てが国費で運営される。
そして爵位は、貴族としての特権を得る。
本来その特権とは、国の為に使うものではあるが、、、。
「はぁ? 頼んだスイーツが買えないってどういうこと?」
「も、申し訳ありません、その、売り切れていまして」
「言い訳するんじゃないよ! 使えない!!」
とある聖女は世話係を怒鳴りつけ。
「このドレス気に入らない、あの仕立て屋クビにして他の仕立て屋呼んで」
「で、ですが、王室御用達の仕立て屋でして、長年我が国に」
「気に喰わないって言ってんの!」
とある聖女は無理難題を押し付け。
「社交界でさ、あの男さ、私の胸ばっかり見てたんだけど」
「は、はあ」
「キモいから捕まえてくれない?」
「え、あの方は、外交上重要な方で」
「はいそれ、セクハラの上、男女差別、セクハラも差別も「私がどう思うか?」が全てだから、常識だよ? あなたそれでいいの? 貴方名前と家族構成は? 世間に晒すから」
とある聖女は世話係を苛める。
が、そんな聖女達は、、。
「失礼するぞ」
と王子の登場により一変する。
「「「王子!」」」
と聖女達は一斉に王子に群がる。
「王子、ようこそいらっしゃいました!」
「お茶を用意しました、御一緒にどうですか?」
「とてもいいお芝居があるんですが、もしよろしければ」
という誘いは、、。
「ノバルティスは何処にいる?」
という王子の一言で凍り付く。
「さ、さあ? 貴方知ってる?」
「い、いいえ、ちょっとよく分からない」
「も、もうしわけありません~」
「そうか、ならいい、私が探していると伝えておけ」
と言い残して特別居住区を後にした。
「「「…………」」」
と剣呑な雰囲気になった時。
「お疲れ様です」
と言いながらノバルティスが帰ってきた。
彼女に与えられた祝福は回復魔法、彼女は普段王国病院で回復魔法を使い癒している。
後は報告書をまとめる為の事務作業をしに自室に戻ろうとした時だった。
「あのさ、本当のところさ、どうやって「癒して」いるの?」
聖女の一人がノバルティスに立ちはだかる。
「え? どうって?」
首をかしげるノバルティスに聖女達3人は表情を歪める。
「うわ、ぶりっ子気持わるっ!」
「アンタ本当に性悪女よね?」
「…………言っている意味がよく分からない。私は回復魔法をかけているだけ」
「スケベ親父たち相手に良くやるよね?」
「王国病院なんて、貴族や金持ちしか相手にしないんでしょ?」
「それで「慈善病院」ってやっていれば世話無いわ」
「そんな風に言わないでください。貴族や金持ちでも体を患って苦しんでいる人がいる。確かに回復魔法は万能には程遠い、実際に難病には効かない、痛みを和らげるぐらい、だけど」
「だからぶりっ子気持ち悪いっていってんだろ!!」
「…………」
「正直に言いなよ? 身体使って誑し込みましたって、噂になってるよ?」
「そんなことはしていません」
「あーそうか、王子だよね?」
「そのような関係ではありません」
「はいはい、私だったらできないわ」
「そうだよ、ああ、でも男って見抜けないよね」
「そうそう、どうして騙されるんだろうね、貴族達って本当にバカばっかり」
「皆さん、他人様の、それも王子の悪口は、余り」
「うわ~、まあそうよね」
「確かにあの馬鹿王子じゃ騙されるよね」
「男に媚びて生きる女、笑えるわ~」
と口々に囃し立てる。
「…………」
ノバルティスは悲痛な表情で俯き耐える。
この黙っている理由が「マウント取りに成功とした」と解釈した聖女達は更に盛り上がり口々にノバルティスを上流階級の男達を罵倒する。
だからこそ、別の意味で空気が凍り付いているのに気付くのに時間がかかり。
「なるほど、馬鹿王子か、部下の謹言、ありがたく思うよ」
「「「!!!!」」」
気が付いた時には遅かった。
振り返った先、そこには王子が立っていたのだ。
何故ここに、と全員が思ったところで
「はい、一部聖女達に謀反の恐れあり、嘘であってほしいと思ったのですが」
そのノバルティスの言葉で全てを理解する。
「お、おうじ! これは」
「近寄るな! 醜いぞ!!」
凍り付く聖女達、その聖女達に侮蔑した表情を向ける王子。
「一部始終を見させてもらった。最初は私の悪口に腹も立ったが、正直為政者とはそれも「仕事」だと解釈もしている。だから今はそれよりも、お前達の普段の行為そのものが醜いことに失望している、これは言い逃れは出来ないな」
一切の慈悲は認めない、その王子の表情に震える聖女達。
「全員を拘束しろ!!」
という合図ともに、騎士団が現れ3人が拘束される。
当然に爵位を持つ貴族と言えど、王族よりも下、当然に罰する権限を持っている。
「王子! どうかお許しを!」
「お許しと言われても私は馬鹿だから理解などできんよ。どの道不敬罪には変わりはない。貴族は国家に奉仕するからこそ貴族なのだ、それを怠った罰、二度と日の目を見れると思うな!」
「お慈悲を!! お慈悲を!!」
「慈悲? ああ、日の目は見れないと言ったが、我が国は犯罪者にも人権が与えられている先進国だ。拷問も禁止されているし、牢獄という個室も与えられ被服や三食も国費により保証される、充分に慈悲を与えた処置だろう?」
泣きわめく聖女に不快感で顔を歪ませる王子。
「さっさと連れて行け目障りだ!」
と言い彼女たちは騎士団に連行されていった。
「元より、大した能力も無いのに特権を与え、爵位を与えるからこそ威張り散らすのが問題なのだ、それにしても流石だった、ノバルティス」
「…………」
「ノバルティス?」
「いえ、その、悲しくて、どうして、、、」
「ノバルティス……」
「王子、申し訳ありません、少し、気分が、、、」
「ああ、分かった、ゆっくり休むが良い」
――聖女特別居住区・ノバルティス・自室
「…………」
ノバルティスは鏡で自分の姿をじっと見つめる。
そのままギュッと、ペンダントを握りしめる。
「このお守りがある限り、私は大丈夫、母さん、、、」
そのまま視線を、窓へと移す。
高さ500メートルはあろうかという巨木。
聖樹ルクイアーダ。
聖樹として崇められているこの樹は、常に穏やかな青い光を携えて、その光は精霊に例えられる神秘的な光景だ。
「…………」
その聖樹を見て何を考えているのか、それは誰にも分からなかった。