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第二話:友情に感謝します・前篇


「…………」


 啖呵を切ったのは良いけど、金もないし住むところも追い出された私は無一文。


 とはいえ、万が一にも、聖女とバレるわけにはいかない。一応、元とはいえ聖女という爵位を持つ貴族だからね、だから私はサングラスとマスクをして並んでいる。


「…………」


 私は懐に忍ばせた、わずかな金を確認する。


 これは最低限の衣類を残して他の荷物を質屋に入れて得た金だ。


(くそう、あのバッタ屋の親父、こっちがホームレスだと見るや足元見やがって)


 思えば私自身、あまり物欲がない。こんなことになるのなら、もらった給料を少しでも貴金属にでも使えばよかった。


 だからこれは虎の子、路銀として使う予定なんだが。


(これからどうしよう)


 うん、割と切実に悩んでいる、伝手コネなんて無いからなぁ。


 と考えていた時、スタッフさんが列に呼びかける。


「お待たせしました~、これから炊き出しを始めます。先日いつもの「匿名希望様」より寄付があったため、パンとスープの他、肉料理もつけますよ~」


 肉料理という言葉に私含めて盛り上がる行列。


 そう、この慈善団体が施してくれる料理はちゃんと調理されていて美味いのだ。


 あーお腹減った。貰ったら近くの公園で食べよう、広くてのどかでいいんだよね。腹が膨れれば何かいい考えが思い浮かぶだろう、いざとなれば私1人だけなら何とでもなるし。


 と思っていた時だった。



「あ、団長、お疲れ様です!」



(ぎょ!!)


 団長、その呼びかけに笑顔で応じるのは精悍な顔つきのイケメンがこちらに歩いてきた。


 彼は王国の騎士団の首席騎士カヴァン、庶民の出ながら才覚が認められ、王国の騎士団のナンバー4にまで出世した人だ。


 私生活ではこの慈善団体の団長を務めており、その誠実な人柄から人望もあり、結果寄付も集まり、こうやって運営している。


(ダラダラ)


 もちろん、私と面識がある、というか普通に仲が良い友人だ。


(変だな、今日は当直勤務じゃなかったっけ。だから来たんだけど)


「カヴァン団長、今日は当直勤務では?」


 と問いかけるスタッフ、そう、そうだよ、なんで。


「……どうしても外せない用事が出来て休みをもらった。だから今日は点検だけ終わらせたらすぐに外すからそのつもりでいてくれ」


「は、はい」


 何やら深刻な様子、あの立場だと国家機密を握る事もあるから色々とあるのだろう。


 まあそれはとりあえず置いておくとして、カヴァンなら私が追放されたのは知っているだろう。



 だがまさか炊き出しの列に並んでいるとは思わないだろう。



「ありがとうカヴァンさん」

「おかげさまで就職が決まったよ」

「この間は息子の面倒を見てくれてありがとうな」



 口々にお礼を言われながら近づいてきている。


 やばい、私も何か言わないと。


「お、お若いさんや、どうも、ありがとうね~」


 となるだけしゃがれて声でと視線を合わさず、頭を下げるが。


「ん?」


 とぴたりと止まる。


(ぐっ!!)


 ジロジロと見る。


「な、なんですよ~、年寄りをからかっちゃいけませんよ~、お若いのさんや~」


「…………」←カヴァン


Σ( ̄□ ̄|||) ←カヴァン


「せ、せ、せ、せいじょアダァ!!」


 と足をグリグリしている。


「い、いやですよ~、お若いのさんや、ナンパは別の、もっと若くてかわいい子にですね~」



――カヴァン筆頭騎士・自宅



「うまい! 涙が出るほどに!」


 モグモグと食べる私に頭を抱えているカヴァン。


「策謀により聖女を剥奪されて追放されたと聞いていましたが、ユツキ様、まさか」


「ゴクゴク、プハー!! まあしょうがないしょうがない、なるようになるなる」


「えーー!」


「というか、よかったの? 何か重要な用事があるんでしょう? 当直勤務を休んだって団体の人と話しているの聞いたけど」


「え!? ま、まあ、その! その目的は思わぬ形で達成できたというか! もももちろん、ユツキ様を探すためですよ!」


「私?」


「わわわ、わたしの、おおおおもいび、、、、、、とぅぴゅらもるのに! ゆ! そう!! 友人!! そう友人のピンチに駆けつけずして何が王国騎士と言えましょうか!!」


「カヴァン、、、」


 私は頭を下げる。


「ありがとう、正直助かる。やはり持つべきものは友達よね」


「そ、そうですよ、は、はは、私たちは友人ですから( ノД`)シクシク…」


「? だけど大丈夫なの? 私に施しなんてして、あの王子に不興を買ったりなんてしたら」



「何をおっしゃっているのですか「匿名希望」様」



「…………」


「私は受けた恩を返す主義です。我が慈善団体に多額の寄付をしていただいております。おかげで炊き出しだけではなく、子供への教育、大人への就職の斡旋も出来るようになりました」


「……まあ、高い給料もらっても使い道が無かったからね、だから今こうやって追い出されたら無一文で貧乏しているのよ、計画性がないのは嫌になるよ」


「ご謙遜を、他の聖女が豪華絢爛な生活を送る中、質素倹約な生活を心がける姿、尊敬しておりました」


「出自が庶民だから贅沢が苦手なの」


「ふふっ、わかりました。そう解釈しております。ユツキ様、その、これからどうするのです?」


「問題はそこなんだよね~、この国から追放されたはいいけど、伝手がないし」


「ユツキ様、国内に私に恩がある人物が幾人もおります、その伝手を」


「それ以上は駄目だよ、カヴァン」


「で、ですが! 恩に報いるは」


「貴方が積み上げた信用を使うのは絶対に駄目よ。それは絶対に貴方の将来にマイナスにしかならない、友人としてそれは私が受け入れられない」


「…………」


「とはいえ、私を追い出してくれたノバルティスのとりなしのおかげで、出国までの準備期間はくれたから、その間は貴方の家に泊めて頂戴、ルミちゃんにも会いたいからね~」


「そ、それはもちろん! って、ノバルティス様? ユツキ様を追い出したのは、王子では?」


「追い出したのはね、だけど裏で暗躍してたのはノバルティス、彼女にはめられたわ」


 私の言葉にカヴァンはため息をつく。


「ノバルティス様ですか、、、」


 苦い顔をする。


「? どうしたの?」


「その、正直、申し上げれば、どうして他の騎士達はノバルティス様に夢中なのか、ちょっとよく分からなく」


「……どうして?」


「い、いえ! 悪口ではないのですが! ノバルティス様は、人当たりがよくて、愛想があって、お綺麗ですし、我々に気を配ってくださるのですが、、、その笑顔に、言い知れぬ何かを感じるのですよ」


 ほーん、あの女の本性に気付く男もいますか。


「まあ、別に間違ってはいないと思うよ、私も同じ見解だし」


「…………ユツキ様は、その、ノバルティス様に聖女を剥奪されたことについて何も」


「うーん、聖女という爵位は便利よ、その便利な道具を失ったってだけ、だから困っているのは本当」


 私のことをじっと見つめているカヴァン。


「本当に、アナタは他の聖女様と違うのですね。欲がなさすぎる」


「…………そんなことないよ」


「え?」



「というか、この世界で一番の強欲は私かもね?」



 ふふんと意味深に笑う私に何故かぼーっとしているカヴァンだったが、手をわちゃわちゃさせた。


「い、いえ! これも非難しているわけではありませんが、すす、素晴らしいことだと思います! 深くは追及いたしません! お任せください、責任をもって匿います!」


「い、いや、堂々としていればいいのよ、悪いことしているわけではないから」


「そうでしたね! それでは使用人に部屋を整えさせますのでここでお待ちください! 私はその間に生活必需積品を揃えてまいりましょう!」


「あ、あの! えっとお構いなく!」


 とササッと足早に後にして、1人残された私。



――とそんなこんなで揃えてきたのが、、、。



「ふう、苦労しましたよ」


 と並べたカヴァン。


 彼が買ってきたのは、、、。



 ハートマークの瓶のメイク落としにハートマークの瓶のメイク落としにハートマークの瓶のメイク落としにハートマークの瓶のメイク落としだった。



(な、なにこれ?)


「あ、あのー。カヴァンさん、これ」


「いえ、恥ずかしかったのですが、女性専門雑貨店とは凄いのですね」


 とだけで凄い爽やかにイケメンな感じで言い切った。


(ここ、このハートマークに対しての執着心は何なの!! メイク落としだけ並べて何をしろと! しかもこのブランドは好みじゃないし!)


「私はよく分からないのですが、これでも妹を持つ身、ルミもよく高いくせに少量で分からない瓶をひたすら持っていて、色々な液体を色々と塗りたくって使っているのは知っているので、詳しいと自負しております」


 と再び凄い爽やかにイケメンな感じで言い切った。


「は、はは」


「まあ、ルミは一生懸命塗っていて、金と量の割には効果があるのか全く分かりませんでしたが、男にはわからない微細な違いが出るのでしょうね」


 よく分からない物を色々な液体を塗りたくってひたすら揃えましたって、あのね、うん、爽やかでカッコいいけどね、しかもその最後の一言は凄い失礼だぞ☆。


「それに、こ、このデザインは?」


「あ、はい、女性は可愛いものが好きじゃないですか」


 という台詞を疑いもなくすげー爽やかイケメンな感じで言われた(3回目)。


 ああ、いたなぁ、高校の時にクラスの女子全員がイケメンとか言っていたけど、このデリカシーゼロの失言を繰り出すお陰で全くモテなかった御子柴君、元気してるかな。


「キラキラ」←期待に満ちた目


「…………」


 ふっ。



「か、かわいいー!(棒)」



「やはり! 女性は可愛いものが本当に好きなんですね」


 とご満悦な様子。


 というか、どうして男は「女が可愛いと思う可愛い物はハートマーク」だと全員が思うのか。


 なんかモテの指南書でも書いてあるのか、ハートマークであの子もイチコロと書いてあるのか。


「キラキラ」←早速使って欲しいと訴えている爽やかイケメンの目


「…………」


 ど、どうしよう、凄い期待に満ちた目で見ている、えー、このゴミ、いや、処分に困る物を、、。


 でもなぁ、善意100%なんだよなぁ、これは言いづらい。


 うーん、うーん、唸っている時だった。


「ユツキ姉さま!」


と女の子が入ってくると、私の姿を認めると抱き着いてきた。


「あらあら、ルミちゃん、久しぶり」


 よしよしと頭を撫でる。


 この子がカヴァンの妹のルミちゃん、ちなみにこの子と最初に知り合って仲良くなり、その過程でカヴァンと知り合ったのだ、この世界での私の友人であり妹分でもある。


「心配していました! 聖女を剥奪されたと聞いていましたから! あの、国外追放されたって、本当ですか!?」


「そうなの、結局国はいられなくなったの、ただ出国まで猶予は与えられたから、そこまではカヴァンの善意でお世話になりますよ」


「国外追放、あのノバルティスですよね? 姉さまを追い出したの」


「流石我が妹分、まあね、してやられたわ」


「王子も骨抜きにされているという噂、本当だったんですね。男って本当にああいうぶりっ子女好きですよね!」


 憤るルミの言葉で首をかしげるのがカヴァン。


「ん? ぶりっこ? そうなのか? 確かぶりっ子というと舌っ足らずの話し方をするのだろう? そんな感じではないが」


「はいはい。男は分からないからね、特に兄貴は馬鹿だからね」


「ば、馬鹿って、お、お前は」


「はいはいはいはいうるさいうるさい、って、え?」


 と、このメイク落としの瓶を手に取りしげしげと見つめる。


「な、な、なにこれ?」


「お? お前も可愛いと思うか? 少しの間だが滞在することになったから、恥ずかしかったが日常品を買ってきたのだ、女性は可愛いものが好きだから」


「だっさ!!!」


「な!? ださいって!! ださいとは何事だ!」


「だっさ!!!!!!!」


「ま、また! そんなはしたない言葉遣いを教えた覚えはありません! どこでそんな言葉を覚えたの!!」


 とバッサリ切られてテンパってオカンになっているカヴァン。


「そもそもデザインもださいけど、ハートマークだけ統一感出してどうするの!? しかも同じメイク落とし!?」


「え? めいくおとし? お前だって色々な液体を色々塗りたくっているだろう? 全く変わりがないけど、男にはわからない微細な変化があるのだろう?」


「ちょ、超失礼! あーもうわかった、ユツキ姉さますみません、兄は知ってのとおり馬鹿なんです、だから許してあげてください」


「ば、馬鹿じゃない! ユツキ様も可愛いと」


「そんなの嘘に決まっているでしょ、しかもユツキ姉さまの使っている物と全然違うし、全く見てないよね。全部使えない、このゴミは要らないので如何様にしておいてくださいませ、お兄様」


「ゴ、ゴミ、そ、そんなことは、ユ、ユツキ様、え、これって(ウルウル)」


 そ、そんな涙目で言われても。


「…………」←目を逸らしている


「そ、そんな」


 がっくりと白く燃え尽きるカヴァン。


 その横でため息交じりに呟くルミちゃん。


「まーったく、そう言えばアイツもハートマークのネックレスとプレゼントしてきたなぁ」


 という言葉に飛び上がって驚いたのはカヴァンだった。


「アイツって、あのチャラ男だろう! 性懲りもなく妹に付きまとっているのか! いいか!? アイツは確かにイケメンだが色々な女に手を出す野郎だ! まあ別に知らない女がどうなろうがどうでもいいが、お前は大事な妹! も、もも、もちろんユユユツキ様も含めて、毒牙にかかるのは、まあ、これは、その、別に嫉妬ではなく友人としてなんですけどね! それとルミよ! 同じ男だからこそわかることがありそれをはっきりと言う! ショックかもしれませんがちゃんと聞く! あの野郎に限らずヤリチン野郎が付き合って真実の愛に目覚めるとか結婚だとかで大人しくなるわけないからな! 男の浮気性は一生治らない! 毎回毎回毎回毎回毎回言っているだろう!? お前は本当に二枚目に弱い面食いなのは、もう誰に似たんだが知らないが! 一番いい男は自分に一途で誠実な男が一番いい男なんだ!」




「って聞いているのか!?」



 と振り返った先。



 そこには誰もいなかった。



::後篇へ続く


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