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第一話:策謀に嵌められて追放されてしまいました。



 聖樹ルクイアーダ。


 建国の祖、初代聖女ルクイアーダの自身の分身という伝説が残りルクイアーダ王国の崇拝対象となっている聖樹。


 聖女。


 聖女とは聖樹ルクイアーダから寵愛を受けた者たちの総称。


 寵愛。


 寵愛とは人に与えられていない魔法という才能を付与されること。


 つまりこの世界において魔法とは、聖樹から与えられた「奇蹟の体現」の意味。


 そして聖女の名のとおり、その奇蹟は女にのみ体現される。


 その奇蹟を体現した聖女達、それは国王と王子の直属の部下として聖女という爵位が与えられ国へ奉職しているが、、、。




――「なあ、あの吹上ユツキって聖女の噂、聞いたことがあるか?」




「お前は、最低な奴だな」


 私、吹上ユツキは、ルクイアーダ王国の顔だけイケメン王子トリアから詰問、いや糾弾されている。


「…………」


 もちろん、最低と言われても心当たりは、、、、。


 いや、あった、っと別に私自身の素行に心当たりがあるんじゃなくて。



 王子の横にいる女、聖女ノバルティスだ。



「ご、ごめんなさい、私、こんなに大ごとになるとは思わなくて」


 と顔を手で覆い、それをギュッと優しく抱きしめる王子に顔をうずめるノバルティスは嗚咽交じりに続ける。


「わ、わ、私と同じ回復魔法を持っていて、だから、仲良くしたいと、そう思っていたのに、わああ!」


 いきなり号泣する。


 大体の見当はついたものの、とりあえず状況をまとめると、、、。



1・ノバルティスは聖樹より回復魔法の奇蹟を与えられた聖女


2・私も同じ回復魔法を使える聖女


3・同じ回復魔法を使う聖女として仲良くしようとしたノバルティス、だけど類稀な才能を持つノバルティスに対して嫉妬、逆恨みをする


4・男友達を使って乱暴して傷物にしようとする、結果は逃げ出す事に成功、未遂に終わる


5・その男友達と私の密会の証拠を掴み告発


6・まるっと信じた王子は私を糾弾 ←今ここ



「……なるほど」


 もちろん事実無根、そもそも仲良くどころか犬猿の仲だったので「3」から全然違う、まあ表面上は仲良くしていたけど、聖女達の間じゃあ周知の事実。


(男はそういうの分からないからなぁ)


 高校の時、どう見ても喧嘩している2人なのに、見て周りの男は「仲いいよね」とか本気で言っていたし、そういう2面性は理解できないようだ。


「王子、密会の証拠について私に見せることは可能ですか?」


 しれッとした私に怒気に染まる王子。


「お、おまえ、反省の色が」


「私は真剣に問いかけています。この身の糾弾される証拠となれば見せて欲しいですし、それが道理かと」


「っ! おい!」


 側近に呼びかけると魔法石を手渡される。


 魔法石とは即ち、映像記録装置であったが、、、。


 撮影されていた簡単に説明すると、ノバルティスを傷物にするために、私が男の複数人と話している。


「…………」


 それを見て色々と気になる点があるが、、、。


「なんだ? 証拠を突き付けられて、言葉も出ないか?」


 っと、そうだ、この顔だけイケメン馬鹿王子の相手をしなければならない。


「私が申し上げることは一つ、この映像自体は捏造であり、傷物にするなどといった計画自体は事実無根です」


「ほう? この男達と面識はないのか?」


「面識というか、タダのナンパです。断ったら普通に他の女にも声をかけておりました」



「嘘をつくな、自供したぞ、この男達は」



「……自供?」


「ほほう、顔色が変わったな」


「自供したと言われても、繰り返すとおり」


「黙れユツキ、もううんざりだ」


「何回も申し上げる通り事実無根ですよ?」


「うるさい!! 男を使って襲わせるなど最底野郎だ!!」


 野郎じゃなくて女なんですけど、いや、女らしくないは認めるけどね。


 はい、てなわけで、終了。


 ここまでは良い、もう王子の中で結論が出ているのならしょうがない。こいつを見ていると糖尿病で苦しんでいた元上司だった剥げ親父を思い出すんだよな。


 そんな事を考えている私に王子が続ける。


「今問題なのは、回復魔法使いとしてのノバルティスはお前をはるかにしのぐ優秀さを持っているという点。つまりだ、どちらが仲間として大事かという事だ」


「…………」



 さて、ここでお決まりなら、国から追い出されて~という展開になると思うが。



 この馬鹿王子の場合は辞めさせない、飼い殺しにして恥をかかせ続ける。



 そういう知恵はまわる「野郎」だ、だから。



「分かりました、それでは聖女の爵位、返上いたします」


「な、なんだと!?」


「元より、聖女とは聖樹に認められた人物の総称であり、王国では世界から与えら得た「爵位という名の俗称」にすぎません。聖女の資格を返上したからと言って、私自身女の「能力」が失われる訳ではありませんから。今後はこの能力を王国問わず人の世に役に立てたいと存じます」


 とにっこり笑う私に。


「っ! っ!!」


 と顔を真っ赤にするだけで、言葉が出ない王子。


 ざまあ、あの上司にも言ってやりたかったわ~。


「つまり逃げるということだな!?」


「逃げるのではありません、辞めるのです。繰り返し述べますが嫌がらせは事実無根、ですが殿下はそれを信じない。とはいえ王子の判断は適切だと思いますよ?」


「は!?」


「はっきり言えばこの映像があっても無くても、やっている証拠もないがやっていない証拠もないですから、後は王子がおっしゃったとおり、どっちを信じるかという話にすぎません」


 馬鹿にしたような言葉をえっへんと胸を張る私にカッとなって。


「お前その冗談笑えないんだよ!! 聖女の面汚しが!! お前はクビだ!! 出ていけ!!」


「(よし、言質取った)はい、お世話になりました、殿下」


 と楚々とした振る舞いで、城を後にする、私吹上ユツキ。


 その時だった。


「お待ちください王子!」


 とかのノバルティスが王子に話しかける。


「その、クビはあんまりかと思います、その、王子、私は、ユツキとは、本当に友達に」


 すっと皆まで言わせないとばかりに、王子はノバルティスを抱きしめる。


「お前は本当に優しいな」


「や、優しいなんて、だって、女性1人が何も持たずに放り出されるという事が、どういうことか、それを考えると」


「……ふむ、なるほど」


 聞く耳一切持たなかった王子が、考えている。


「ノバルティス、お前はどうしてあげたい?」


 少し考えてノバルティスは発言する。


「私も聖女である身、王子の決定は国の決定、私はそれが正しいことを何よりも知っています」


 という言葉に満足そうな表情を浮かべる王子。


「ですけど、今まで奉職してくれたユツキに対して最大限の配慮は必要だと考えます。国にいられないのならば、せめて次の生活が整うまでの最大限の猶予を与えるべきかと」


「……ノバルティスよ、その処分とやらは、お前を傷物にしようとしたことへの「咎」が抜いた状態の話だが」


「? 咎ですか? そんなの、私は気にもしてませんし、制裁なんて望んでいません、それでは駄目ですか?」


「え……」


「聖樹ルクイアーダは、聖女の分身という伝説、ルクイアーダは女性でありながら勇敢でとても聡明な方だと言われています。その偉大なルクイアーダから祝福を受けたことは、何かの運命であると思います」


「…………」


「聖女ユツキは、この力を世のためと言っていました。私はそれに大賛成です、王子がもしどうしても咎とおっしゃるのなら、世のために役に立てよ、では駄目ですか?」


 とにっこりと笑うノバルティス。



「聖女ノバルティス様、なんと慈悲深い」

「聖女ルクイアーダもそのような人物だと聞いている」

「ひょっとしたら、ノバルティス様はルクイアーダの生まれ変わりではないか?」

「それにとても美しく、楚々とした方だ」



 と周りは囃し立て、見惚れていた王子は我に返るとゴホン! と咳ばらいをすると。


「分かった、お前の言うとおりだ。ユツキ」


「……なんでしょう?」


「ノバルティスの優しさに免じて、お前の望みとおり聖女の資格はく奪の上、国外追放のみで許してやる。だがこの国を出ていくまでは好きに過ごせばよい、特に期限は設けないが、そこは常識の範囲内だ、それでいいか? ノバルティス」


「はい! 寛大なご配慮感謝します!」


「…………」


 クビだけの筈が、国外追放にまで発展している。


 それに女が1人に世界に放り出されることを危惧しているとか、何とかのたまっておいて、咎を許す形にもっていき、フォローは何もなし。


(そうか、それが貴方の意思なのね、ノバルティス)



 揚々としたと王子と話すノバルティスは、王子の肩越しに私を見ているけど、、、、。



 ここで「計画どおり」なんて表情していればまだ可愛げがあるんだけどね。



「ノバルティス」


 まさか私に話しかけられるとは思わなかったのか驚いた表情をする。


「貴方は私と友達になれると思っていた。そう言ったよね?」


「え、ええ、もちろんよ」



「私も一緒だよ、貴方とは友達になれると思っていた、そしてそれはね、今でもそう思っているの」



 ここで初めてノバルティスの表情が、ほんの一瞬だけ歪む。


「だから、ノバルティス」




「また会いましょう」




 と貴族らしくスカートを両手で摘まみ、優雅にお辞儀をする。



 そんな私に周りは圧倒された様子。



 そのまま悠然と城を後にする私。



 とそこまではよかったものの、、、、








「参ったなぁ」


 と行く当てもなく、慈善団体の炊き出しの列に並んだのであった。



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