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ギルドの中に入れば広々とした空間が広がっていた。
奥行きもそうだが、高さもかなりある。三階建てかと思ってたが、二階建てで一階が広い造りなのか。
俺が思わず感嘆していると、そんな俺をユイセが見ている事に気づいた。
「正面が受付で、右手にあるのが酒場。まぁよく稼いだ冒険者たちが夜中まで入り浸って散財してるわね」
ふーん、そうなのか……。
「正面の受付で登録できるから。行くんでしょ?」
「はい、感謝感激であります!」
「どういうこと……」
ギルドの中には昼間ということなのか少ないながらも、数人の人影が見られた。
テーブルに掛けジョッキを煽ってる連中もいる。どの世界にも飲んだくれはいるものなのか。
「お、ユイセ様だ」
「おい、誰か男連れてんぞ」
「誰だあいつ?」
「知るかよ、依頼人とかじゃねぇの?」
「ユイセが馴れ馴れしく話してたぞ?」
「え、てことは新しいパーティーメンバー!?」
「なわけねぇだろ、今更入れるなんてあるかよ」
なんだか席からひそひそ話が聞こえてくる……なに? ユイセって有名人かなにか? まぁ一応女の子だもんな。
「あらユイセさん! こんにちは! 早かったですね!」
「うん、こんにちはヴィヴィ。あ、これが依頼の証明部位ね、確認おねがい」
受付にいたのは中学生くらいに見える女の子だった。
一応制服を着ているので、職員の一人なのだろう。
藍色の髪をツインテールでくくった可愛い感じの子だった。
「かしこましましたー! あれ、そっちのお方は?」
「ああ、この人はえーっと」
「ユイセの母です」
「ええ!? ゆ、ユイセさんって凄い複雑なご家系を……」
「違うから! この人は帰りがけに出会った関係のない人! 冒険者登録したいって言うから連れてきたの!」
「そ、そうだんたんですね……まぁ流石にそうですよね」
なんだかこの世界の人たちってすぐに人の言葉を信じる気がする……流石に偶然が重なってるだけか?
「実はそうなんだ。だからそっちの用が終わったら俺の方の手続きを頼む」
「あ、はい。分かりました。冒険者登録をご希望ということですね。それでは少々お待ち下さい」
ということで待つことにした。
机には何かの生き物の角か牙か分からないものが何個か転がっている。
きたねぇな。なんだよあれ。
「はい、お疲れ様でした。それじゃあえっと、お母さーん!」
俺の番になったらしい。
「やっとか。それでどうしたらいいんだ?」
「ご登録ということでしたね。それではこちらの水晶に手をかざしてください」
そう言われ差し出されたのは、丸い水晶玉だった。
ボーリング玉くらいの大きさで、透明感のある高級そうな代物だ。
「占いでもしろってこと? むむむ! どりゃー!」
「違いますよ。この水晶に魔力を通すことでその人の適性が分かるんです。人間の体には常に微量な魔力が流れてるらしく、それを読み解くんだとか」
はぁ、なるほどな。まぁよくあるあれだな。
その人の適性を自動でカードに書き込んでくれたりするやつだろ。そして凄すぎる力を持ってたりしたら、凄まじい光を放って割れたりするんだ。
「凄いな、初めて見たし知った。どういう仕組みなんだ?」
「そんなの知りませんよ。魔導具の一つということらしいですが」
「魔導具ねぇ。まぁいいか。かざせばいいんだろ。ほっ、ほっ」
俺は手を出したり引っ込めたりして、かざしたと言えるかギリギリのラインを攻めてみた。
「あの、何してるんでしょう……?」
「これで、反応しないのかっ、くっ」
「うーん、今のところ駄目みたいですね」
「ヴィヴィにまで迷惑掛けないで! 私が恥ずかしいから!」
様子を見ていたらしいユイセに横から突っ込まれた。
「仕方ないな。ちゃんとやってやろう」
俺は今度は至って真面目に適当にかざしてみた。
「これでどうやって分かるんだ?」
「少々お待ち下さい。情報がどんどん紙に書き込まれていってますので」
よく見てみれば、水晶玉がうっすら発光しているような気がした。
そして水晶玉の下には小さな専用の紙が敷かれている。
なんだよ、全然地味じゃん。爆発とかしないのか?
「やばい、くしゃみでそう」
「じっとしていて下さい。うまく読み取れませんので」
「因みにこれが合格かどうかも兼ねてるんだっけ?」
ユイセが質問していた。
「そうですね。一定以上の適性がなければ残念ながら冒険者になることはできません」
ヴィヴィというらしい受付の子が答える。
ええ、それって大丈夫なの? 俺が物凄い力を持っているのは確定している事実だが、それがうまく伝わらなければ不合格もありえるってこと?
「待ってくれ、もし適性が基準以上に満たなかった場合救済処置とかはないのか?」
俺はにわかに焦ってきた。
「なんですか? もしかしてそんなに実力がなかったりするんですか?」
「うそ……すごい身体能力持ってそうだったしなんだか余裕っぽい雰囲気出してたから、てっきり余裕なのかなって……やっぱり私の勘違い?」
「確かにこう言ってはアレですが見た目めちゃくちゃ弱そうですもんね。古傷の一つもありませんし、お坊ちゃんって感じ? でも太ってはないですよね」
「これで不合格とかってなったら、仮に笑われても文句言えないというか……ま、流石に大丈夫でしょう?」
二人にめちゃくちゃな言われようをされている。
くっそ、見返したい! なんならここでハチャメチャに魔法を連発でもしてやろうか? いや、それは流石に俺の美学に反するよな。イキるためにも力はできるだけ温存しておきたい。しかしいざという時は……
「……ッ! 結果! 出ました!」
水晶が一瞬強く発光したかと思うと、すぐさま受付の子が紙を抜き取った。
「結果はどうなんだ!?」
「結果は……結果は……」
少女は紙を真剣に見つめていた。
ど、どうなんだ? なんなんだその顔は。どんな表情だ? 早く何とか言ってくれ!
「結果はどうだったの!?」
ユイセまで食いついている。
「結果は………………
………………分かりませんッ!!」
分からなかった。
ズコー!