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ごわごわの紙を渡されたので、仕方なく記入することにする。
名前やら年齢やら出身やら、目的やらを書かなければならないらしい。
今更ながら異世界なのに文字が読めている。
異世界転生の特典というやつなのか。日本語に聞こえるし、見えるんだよなぁ。まぁ深く考えても無駄だろうな。
名前は本名で『安藤和平』と書くか迷ったが、おっさんぽい名前で昔から嫌いだったので、和平をもじってピースってことにした。このへんは抜かりなく前々から考えてたんだよな。新たな俺の出立だ。
「ピースくんだね。出身地は……『世界の果て』ってふざけてるのか?」
「い、いや、正直に書きたくないだけです」
おっさんから凄いオーラを感じて素で答えてしまった。
仕事には熱心なタイプか。気をつけよう。
「まぁ別に真を書かなければならないという決まりはないからね。しかし本当は見逃すわけにはいかないんだろうが、ユイセちゃんの手前だ。今回は目を瞑ってやろう」
ふぅ、なんとかなったか。ユイセっちのおかげだな。
「それじゃあ入場税の2500ドリアを払って貰うよ」
「ということでユイセ、頼んだ」
「……え? ええ、私が払うの!?」
「当たり前だろ。俺はお金を持ってないんだ」
「絶対おかしいって、何で私があなたなんかの為に」
「ピースくん。女の子にたかるというのは男としてどうなんだろう」
やばいな……そのドリアというのがどんな価値を持っているのか分からないが、そもそもお金というお金を一銭も持ってない俺からしたらどの道関係のない話だ。
おじさんにも詰められてるし……
ちっ、泣き落としでもするか。
「そうですよね……流石に僕の考えが甘かったみたいです。いくらユイセでも見ず知らずの人の為に通行料を立て替えるなんて器量の深さを見せるわけないですもんね。僕の見積もり不足でした……」
「……なんだろ。私が払ってあげないのが悪いみたいな空気感になってる……」
「ユイセちゃん、こうなったら仕方ない払ってあげるんだ」
「そうなの!?」
「ここまで言われたらもう仕方がない。男なら器量を見せなければならない場面もあるんだ」
「私女だけど!?」
「ありがとうユイセ。恩に着るよ」
「釈然としない…………ああもういいわ! 払えばいいんでしょ!」
ゴジットのアシストもあり、俺はなんとか入場の試練を通過できた。
「本当にありがとうユイセ。マジで助かったよ」
「はぁ。もう、別にそんな高額じゃなかったからいいけど、金額の問題じゃないからね。ちゃんと後で返して貰うから。私こういうのはしっかりするタイプだから」
どうやらユイセさんはご立腹のようだった。
「しかし流石は異世界だな……」
街に入ることができた俺だったが、なかなかの景観に感動しっぱなしだった。
例に漏れず中世ヨーロッパ感のある風情で道行く人々も異世界風の衣装に身を包んでいる。
外国にも行ったことがない俺からしたら、本当に全てが新鮮に映る。
この世界で俺は今日から生きていくんだ……
「あなたはこれからどうするつもりなの? 私はとりあえず馬を返しに行く予定だけど」
「俺は冒険者にでもなろうかな。マジで今一文無しだから、宿にもとまれない感じだし」
事実だった。
お金がない今何もすることができない。
餓死も嫌だし、汚い場所で寝るのも嫌だ。
まぁ最悪魔法があるからどうにかはなるのかもしれないが。
「そうですね、お金を稼ぐことはいいことだと思います。そして私の立て替え分も返してください」
「まぁ善処するよ。そんなことより冒険者登録する場所を教えてくれないか? ギルドとかがあるんだろ?」
「そんなことよりって……まぁそんなに遠くない場所にあるから特別に案内してあげる。ここまでするの私くらいだと思うからもっと感謝しなさいよね」
「そうかな? 案外優しい人って世の中いっぱいいると思うけど」
「言いたいことは分かるけど少なくともあなたの口から言うような言葉じゃないわよね!?」
「今日も平和だなぁ」
「何それは……はぁ、何してんだろ私……まぁ全部ついでだからいいっちゃいいんだけど……」
その後ユイセが馬を返しに馬小屋に行くというので付いていった。
馬は借りていたものらしい。
この世界での移動手段はと言えば徒歩か馬かのものらしい。まぁ最初に出会った人たちも馬車に乗ってたしな……あれ? なんだこの記憶は? よく覚えてないな。抹消! 消去! 破壊!
馬小屋というからどんなものかと思ったが、そこそこ大きかった。
ホームセンターは言い過ぎだが、敷地面積だけで言えばそれくらいありそうだ。
まぁ中で馬を飼ってんだろうな。
手続きを終えたらしくユイセが戻ってきたので、冒険者ギルドに連れて行って貰うことにする。
「ここが冒険者ギルドよ」
歩くことしばし、言われていた場所に到着した。
うーん、たしかに結構大きいかも。木造三階建てなのかな? 看板も剣と杖が交錯していて、凄くかっこいい感じだ。
「ふーん、大きいんだな」
「王都のギルドはもっと大きいらしいわよ。噂では十倍は大きいとか。まぁ見たことないから分かんないんだけど」
その言葉を残しユイセが扉を開け入っていったので、俺も慌てて後に続いた。