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「だ、だだだ大丈夫。人間誰だって失敗はあるさ! そうだ、切り替えていくのが大事なんだ。だから過去のことは全て忘れよう。そもそも俺しか見ていない。何もなかった、いいな」
俺は記憶を消去した。
「さーて。街に行きたいから人間を探していきますか」
俺は再び探知魔法を行使した。
とにかく人間を探すのだ。
「お、いたいた。結構離れてるけど、この反応は人間だろ。一人かな?」
どうやら一人で移動しているらしかった。
距離があるのでどんな人かはよく分からないが、一人というのならコミュ障の俺でも話しかけやすい。
「この世界で初めて会う人間だな。気分転換に穴を掘っていこう。穴を掘ることは何よりも大事なことだ」
俺は土魔法的なので地面をかき分けながら進んでいけるのではと考えた。
地面をモグラみたいに進んでいくのは、俺の夢でもあるからな。
誰だって抱く夢だ!
「モグラのイメージモグラのイメージ……俺の魔法! 発動!」
俺は競泳選手ばりのダイブを地面に決めた。
ズボっ。
地面にすっぽりと埋まった。
よ、よーしとりあえずは埋まったぞ、ここから魔法を駆使して、そうだ、推進力は風魔法で生み出すとしよう。
土をかき分けるのは土魔法で、推進力は風魔法に頼りモグラを再現しにかかる。
ぐおおおおおおおおおおお
おお、いい感じに前に進んでる感覚がある!
俺今土の中を進んでるんだよな? 完璧だよなこれ!?
「ぐ、ぐるしぃ……」
だが息が苦しかった。
当たり前だ、土の中に酸素があるわけない。
「やばじゅぎ……発動」
俺は死にかけながらも、空気を生み出す魔法を発動させた。
空気の膜でシャボンのように俺の周囲を覆うイメージだ。
「ぷ、ぷはっー、生き返ったー……ガチで死ぬかと思ったぜ」
魔法は成功したらしく、息が戻った。
「魔法も慣れてしまえば簡単だな。完全にコツを掴んできたわ。俺は天才だな」
怖いものがなくなり、どんどん穴を掘り進め先へと進んでいく。
「しかし視界が暗すぎてイマイチ爽快感がないんだよぁ」
そう思った俺は、探知魔法を駆使し、俺がどの地点にいるのか分かるようにしておいた。
今の俺はだいたい地表から二百メートルくらいの地点を斜め下に進んでいる。
「穴の中も暇だなぁ。でも地面を進むのもいいけどこのペースだったら空を飛んだ方が早いという話になるぞ。もっとスピードを上げるんだ。うおおおおおおおお!!」
俺は加速した。
地表に対し平行に、凄まじ速さで穴を掘っていく。
「ハハハハッ! 確かに人間は空を飛んだ! 飛行機ができ、誰でも自由に空の旅をすることが可能となった。そして空ほどではないにしろ海中も同様だ! しかし地面はどうだ!? これほどまでの速度で進んでるのは俺が人類初だろ? そうだろ!?」
調子付きながら進んでいくと、あっという間に目的の人物の近くまで到達した。
ふふふ、どうしてやろうかなぁ? いきなり目の前に現れたビビらせてやろうか? いや、でもそんなことをしちゃったら確実に異常な奴と思われちゃうよな。そうなったら始末するしかなくなっちゃうから、ここは少し離れた所に出て徒歩で近寄ろう。
「おいしょ」
スポンっ。
俺は目的の人物より少し進んだ林の中で地表に飛び出した。
「しゃーない、ここから話しかけにいくとするか。うん、あの人か」
林のすぐ近くは平原になっていて、そこをその人物は進んでいた。
「なんかちょっと速いなと思ったら馬に乗ってんのか。そこまで追えてなかったな。てか女じゃね?」
魔法で片目にフィルターを掛け見通してみると、やはり小柄の体躯の女のようだった。
金髪のポニーテールを揺らしながら、悠々と平原を駆けている。
「よーし、近くまで来たな、話しかけてみよう。おーーーい!!」
俺は全力ダッシュしながら、その人物のもとまで駆け寄っていった。
「おいおいおーい!!」
俺は馬の真横まで駆け寄り、手を振る。
「え?」
かなりびっくりしてる様子だな。
近くで見るとやはり若い。
俺とおんなじくらいの年齢なんじゃないかな。
俺の存在もあってか、流石に馬を減速させていた。
「いやー、すみません、急に話しかけちゃって」
「え、いや、ええ……?」
少女は完璧に戸惑っているようだった。
「まぁ戸惑うのも無理はないとは思いますが、ここはどうか落ち着いて貰って」
俺の言葉に少女は一旦馬をいなし、静止させていた。
とりあえず話はしてくれそうだな。やはり俺のコミュ力が為せる技だ。
「うん、いや、落ち着けるわけないというか、あなた今完全に私とおんなじ速度で走ってたわよね? 今私馬に乗ってるんだけど、何かの見間違いってことなの?」
「見間違いだと思いますよ、流石に馬と人間が同じ速度で走るわけないですからね」
「そ、そうよね流石に……ってやっぱりおかしいでしょ!? 絶対走ってた! 私とおんなじ速度で走ってた!」
「全く仕方がない子猫ちゃんだな……まぁ君がそう言うのならそういうことにしといてあげるよ」
いい感じに話は進んでいるっぽかった。
なんだ、俺もやればいけるじゃねぇか。