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「召喚して猫ってなんだよ……逆にビビるわ」
しかし流石に調子に乗りすぎたかな。
想像したからといって何でもできるわけではないということだ。
それこそ神というわけでもないしな。
俺が使えるのはあくまで魔法だけということだ。まぁ当たり前だ。
「しっし、あっちいけ」
猫は可愛いが飼いたいわけでもないので、野原に放出する。
「どうしよ、じゃあもう飛んでいくか」
風魔法で風に乗って空を飛べないかと想像したところ、体が宙に浮いた。
「ま、流石にこれくらいはできますよね。よっしゃ! 空の旅だ!」
ビュン! と俺は大空に躍り出る。
俺がいた草原地帯と、遠くの方に見える森や山々たちがダイナミックに視界に飛び込んでくる。
はは、凄い景色! 風が気持い!
俺は気持ちよくなりながら複数人の反応があった地点へ向かった。
「お、あれだな」
俺は早速反応があった場所に辿り着いた。
探知魔法を使いながら飛んでいたのだが、近づくにつれ詳細な情報が分かるようになっていった。
体の造形などがより明確に把握できるようになっていくのだ。
「お、やっぱり人間だ」
それゆえなんとなく分かっていたことだが、上空から見下ろした先に見える生命体は、どっからどう見ても人間だった。
魔法で眼球の目の前に双眼鏡のようなフィルターを生成し、視界を拡大して見通してみる。
「うーん、なんだか金属の鎧やら弓やらを装備してるな……馬車と一緒に歩いてるのか?」
その人物は森の中にできた簡素な道のような道を歩いていたのだが、その横にはほぼ同じ速度で馬車も並走していた。
「移動の最中っってわけか。うおー、この世界の人類との初接触だな。緊張してきた」
早速降りてコミュニケーションを取ってみよう……と思ったところで異変に気づいた。
馬車を囲むようにして、トカゲのような生物が複数体現れたのだ。
「ええ! なんだあれ魔物ってやつか? リザードマン的な? 数体ってレベルじゃないぞ。十数匹は確実にいる」
人間たちも流石に戦闘体勢を取っていた。
あー、ワンチャン仲間同士なのかとも思ったけど、これは襲われてますわ。
大丈夫なんでしょうか。
「うお、凄い」
人間陣営のローブを着た女の人が、杖から光る槍のようなものを放ってるのが見えた。
数本の槍が、何体かのリザードマンに刺さっている。
「あれが本場の魔法……興奮してくるな」
その後両者入り乱れた戦いになっていった。
リザードマンたちは隙を見てひたすらに攻撃してくるのだが、それを皆うまい具合に捌いている。
「凄い……剣や盾の使い方がプロだ。これが戦闘ってやつか」
俺は思わず見入ってしまっていたが、流石に多勢に無勢ということか、ローブを着た女の人がリザードマンの槍で突かれ倒れてしまった。
「うわ、多分胴体にクリーンヒットしちゃったかな。これ大丈夫か?」
リザードマンは数匹地面に倒れてはいるが、まだ何匹も残っている。
一人失った人間陣営はとても苦しそうに見えた。
「このままだとあの人たち死んじゃうんじゃないか? 俺の魔法で助けてやるか? でもこれも世界における宿命ってやつなのかな……弱肉強食ってやつ? 俺が助けて歪ませるのも違う気がするな。リザードマンたちだって頑張って生きてるんだ。部外者の俺が手出ししてしまうのもな」
俺がどうしようか迷ってる内に、人間陣営がまた一人倒れた。
これで戦ってる人間は二人になってしまった。
リザードマンたちはまだたっぷり残ってる。
「はぁ、まぁこれだと流石にアレだよなぁ。見殺しにしたっていう経歴が付くのも嫌だし、世界は違うくとも同じ人間同士だしな。助けてやりますか」
流石にしびれを切らした俺は、現場へと降りていく。
「そこまでだ!」
地面にひたりと着地した俺は、高々に宣言した。
「しゃるうううぅう!?」
トカゲたちが反応してくる。
うお……近くで見ると思ったよりデカいな……二メートル近くはあるんじゃないか?
「いや、怯むな! 俺はこの世界で生きていくんだ! もう前世の俺とは違うんだよ! いけ俺の魔法!」
そうは言ってもあまり余裕のなかった俺は先制攻撃で終わらせることにした。
敵がたくさんいるから、やはりここは範囲攻撃だろう。
瞬時にそう判断した俺は竜巻を起こすことにした。
これなら間違いない。
ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
俺の体から何か放出される感覚と共に、目の前で暴風が吹き荒れた。
「うお!?」
俺自身も持っていかれそうになったので、慌てて上空へと飛び退く。
「…………」
少し離れて見てみれば、自然災害もかくやのとんでもない竜巻が完成され吹き荒れていた。
何故かそれまで晴れていた空も灰色の雲で淀んでいる。
「や、やりすぎたあああああああ!!」
俺は慌てて魔法を解除するイメージを送る。
竜巻は、バン! と跳ね、霧散した。
空にもそれまでの青さが戻った。
「ふ、ふぅ。完全にやらかした……外国で見るようなハリケーン的な災厄的なのを想像しちゃったわ……」
ふわりと現場に戻ってみると、そこには当然リザードマンの姿はなかった。
そして人間の姿もなかった。
ついでに馬車もいなかった。
「…………」
俺は晴れ渡る空を見上げた。
ふっ、今日も平和が、続くといいな。