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「うぅ……眩しい…………へ?」
木漏れ日の光で俺は目覚めた。
体を起こしてみる。
どうやら俺は一本の木の下で寝ているようだった。
「うへー、そうだ、俺転生したんだっけ……」
周囲を見渡してみる。
草原地帯のようだった。
緑がよく生えた、良い草原だ。ちょうちょうも飛んでいる。地球と変わりないように見えるが、恐らく異世界産のちょうちょうなのだろう。
「どこだよここ……というか俺本当に転生したのか? 普通に地球のどこかって可能性はないか……って太陽が二つある!?」
びっくりして声を上げてしまった。
晴れ渡る空を見上げれば太陽が二つあった。
普通通りの眩しい太陽と、そこまで眩しくない青い太陽が重なるようにしてあるように見える。地球では見られない光景だろう。
「やばいどうしよう……マジで異世界だよ多分。いや、たしかに異世界転生しないかなみたいなのは常々思ってたよ? こんな毎日うんざりだって……でも実際異界の地に立ってみると不安しかないわ。心細すぎて死にそうだわ」
凄いひとりごとだと思われるかもしれないが、こうでもしないとやってられなかった。
心の内を言葉にすることで、多少不安が和らぐ部分もある。
「と、とにかくこうしてもいられない。街を見つけよう。村でもいい、とにかく人に会うんだ」
そう思い適当に歩き回ることにした。
五分くらい歩いてみる。
誰とも出会わなかったし、何も見つけられなかった。
「ずーっと草原なんですけど! どこに転生させてんだよッ!」
俺はブチギレそうになってしまった。
「このまま俺餓死するんじゃないか? 転生して何もせずに餓死って笑い事じゃ済まないぞ」
どうにかしなければ本格的にマズい。
「……あれ、そういや俺魔法が使えるとかどうとか言ってなかったっけ? いや絶対言ってたぞ! 使ってみよう!」
それ前提の草原なのかもしれない。
とはいえ何をどうすればいいのか分からない。
「ステータスオープン!」
ものは試しだ。
俺は豊富な異世界転生知識をもとに叫んでみた。
「…………」
何も起こらなかった。
「駄目だ、なんの反応もない……そりゃそうか、ゲームじゃないんだ、あくまで地球ではない世界ってだけでベースは現実なんだ。だったら――――我が内に眠る炎の精よ、我が呼び声に応え、現実へと馳せ参じよ! ファイアーボール!!」
手を前に突き出し、完璧なセリフを詠唱する。
自分でもよくこなペラペラ出るなと感心してしまった。
「…………」
何も起こらなかった。
「無理だ! 魔法なんて使えるわけない! いや、まだ諦めないぞ。地球での知識を活かしイメージを膨らませて放つタイプかもしれない。炎をイメージ炎をイメージ……熱々の炎をイメージする…………こう!」
俺は燃えたぎる炎のイメージで脳内をいっぱいにした。
そしてその炎が俺の手のひらの先からまっすぐに解き放たれるイメージをしてみる。
ボン!
俺の手から拳大の炎が勢いよく射出された。
「出るんかい! おお、しかも凄い!」
炎が通った位置にウキウキで駆け寄ってみると、草が焦げていた。
本物の炎を生み出せたようだった。
「魔法を使えた……これは凄すぎるだろ。やっぱりイメージが大事ってことなのか?」
異世界魔法ちょろすぎない? イメージするだけでオーケーなんて。まぁそれだけ俺の想像力がケタ外れてるということかな。日頃から妄想だけは極めてたからな。
「よし! 魔法が使えるんだったら話が早いな! 周囲を探索して人を見つければいいんだ。ということで探索魔法!」
俺は探索魔法を唱えた。
しかし何も起こらなあった。
「違う、想像を膨らませないと駄目なんだ。えー、この場合どうすれば」
魔法が使えると分かった瞬間完璧に調子づいた俺は、凄い頭が活性化していた。
凹む時は凹むが、調子のいい時はどんどん乗っていくタイプなのだ。
「魔法ってんだから魔力をベースにしてたりするんだろどうせ」
だから魔力を広げていって、第六感的な感じで周囲を補足すればいいのではと閃いた。
「まずは魔力を広げる感覚……おお、なんかいい感じに抜けていってる気がする……お、向こうに何かいる気がする」
感覚を研ぎ澄ませていくと、やはり何か生命体がいるのが分かる。形までもなんとなく分かるぞ……これは犬? いやブタ? 分からん、何かの生物が二匹いる。
「ブタに話しかけても意味ないからな。もっと他に人間ぽいやつは……」
どんどん索敵を広げていくと、ある程度離れた地点に複数人の反応を検知した。
おお、こいつらなんていいんじゃないか? これで本当にいたら俺の魔法完璧だな。こんなに便利なことあってもいいのか?
「ちょっと距離があるから乗り物に乗っていこう」
俺は炎魔法に探知魔法は試せたから、次は召喚魔法だな。
「いでよ、えーっと、超最強ライオン!」
いざ何を召喚しようと迷った時に浮かんだのは百獣の王だった。
とにかく黄金に輝く神々しいライオンを想像する。
しゅいいいいいいいいいい
俺が妄想を膨らませた瞬間、目の前の地面に黄色の魔法陣が発生した。
そこから一匹の生物が浮かび上がってきた。
「にゃー」
その生物は可愛らしい猫だった。
「なんでや!」
どうやらできる事と、できない事とがあるらしかった。