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「いやいやそもそも何も分かってないですから。えっと、神様とかどうとか言ってたけど、どこまでが本当なんだ? というか俺が死んだってどういうことなんですか」
よく分からない部屋で、よく分からない老人と対峙していた。
「言葉の通りじゃ。神である儂が異なる世界間を繋ぐ作業でケアレスミスをしてしまってのう。お主のおった家屋に雷を降らしてしもうたんじゃ。ケアレスミスはお主も良くするじゃろ? 主にテストとかで」
「いやいや、そんな適当なこと信じると思ってるんですか? 冗談か何かか知りませんけど、僕が死んでるわけないじゃないですか。現にこうして喋ってるし」
その通りだ、今の俺の状況こそが、俺が死んでいないという一番の証拠になりうる!
「じゃあ頭の上のそれはなんじゃ」
「え?」
そう言われ頭の上に手を伸ばしてみる。
何かが手に当たった。
掴み、顔の前に持ってくる。
それは天使の輪っかだった。
「ええー!? 天使の輪っかが頭に付いてたあああーー!?」
「わかったか、お主は死んだんじゃ」
「いやいや、こんなもの!」
俺は輪っかを勢いよく投げ捨てた。
輪っかは遠くに飛んでいき、ブーメランのように戻ってきてスチャリと俺の頭上に装着された。
「戻ってきたああああーーー!?」
「そりゃ死んでおるんじゃからな戻ってくるじゃろう」
えええ、どういうことか全くわかんないんですけど。
だが俺の頭に変な物体が付きまとってるというのは事実らしい。こんなもの死んだ人間の頭に付いてる以外で見たことがない。
「そもそもこんな訳の分からん場所におって、訳の分からん人物がおって、もう自分が死んどるくらいしか可能性は追えんじゃろう」
「え、俺マジで死んだの? じゃあ雷に打たれて死んだってのも……」
「本当じゃな」
「俺の家族は!?」
「その日はお主しかおらんかったじゃろう。両親共働きとデータにあるぞ」
確かにそもそもが三人暮らしで、両親はほぼ毎日仕事に出てるので日中は必然的に俺一人だった。
「その通りだ……えぇ、これ信じないといけないの?」
「残念ながらそういうことになるの」
悔しいが、いつまでも駄々をこねていたってしょうがない。人生そういうものかもしれなかった。
「く、もういい。それで異世界というのは?」
「そのままの通り異世界転生じゃよ。剣と魔法のファンタジー世界に転生するんじゃ。オタクを極めとるお主なら分かるじゃろ? まぁオタクというよりかは友達ゼロの惨めな性格の持ち主でオタクにならざるを得なかった奴と言う方が正しいかもしれんがの」
「言い換える必要ありましたかね……!」
しかしそれが本当だとしたら随分急な話だ。
正直頭が追いついてこない。
「というわけじゃ、早速能力を選ぶとよい。能力と言っても、当然強くなりすぎないようにその力には上限がある。よく考えて選ぶんじゃ、……と言いたいところじゃが正直もう疲れたから早く選んでくれ」
神様は鼻くそをほじり投げやり気味だった。
「ちょ、ちょっと待ってください、能力って言っても色々ありますよね? そもそもどういった世界観なんですか? 魔族がいて、魔物もいる感じですよね? やっぱり勇者と魔王が対立してる感じの設定なんですか? やっぱり生きていくには戦闘系の能力にした方がいいですか?」
「いきなりきしょいのう。まぁ概ねお主の想像するとおりじゃよ。魔物がおって、魔法が使える。銃などの兵器もほとんど無いゆえ、日本より確実に個人武力至上主義が成り立っておるのう。というかお主がぐだぐだやるせいでそろそろ園児たちの帰宅の時間になってしもうたわ。もう儂が適当に決めてよいな?」
「なんでそうなるんだよ。能力が選べるってのならせめて自分で決めたいです。というか園児の帰宅時間に何するつもりだよ!」
納得いかなかった。
そもそもこの人のミスで俺は死んだんじゃないのか? まぁそれもこの人の自己申告だからよく分かってないけど……それにしても色々雑すぎるわ! 適当すぎる!
「もう適当に耳をでっかくする能力でいいの。限界まで強化しといてやる」
「待って! せめて魔法を使わせてくれ! 異世界と言えば魔法でしょ!?」
「しょうがないのう。ホントは転生者には力の上限が設けられておるんじゃが、今回は完全に儂のミスじゃからの。身体能力と全ての属性の魔法適性を際限なく適当に強化しといてやるから。これで文句のつけようがないじゃろ」
「なんか凄そうだけど、めちゃくちゃ適当だな! 本当に大丈夫なんですか?」
「もういいわ。どうなろうが知ったことじゃない。お主と会うことは恐らくもうないじゃろうからな。じゃあもう転生させるからの。ああ、早くてぃあらちゃんに会いに行かないと……大門くんもなかなかにいいんじゃよなぁ」
聞きたくもない言葉を発しながら、神は目の前からはけていった。
同時に、俺の体も光に包まれ始める。
ええ、訳わかんないんですけど……ほんとにこんなんでいいの?
転生だ! という気分にもならず、一抹の確かな不安を抱えながら、俺の意識はずるずると闇に呑まれていった。