1
「ああ、やばい暇だなぁ」
俺は自室のベッドに横たわりながら思わずひとりごちてしまう。
俺がひとりごちてしまったのは、宿題も全部片付けてしまいとにかく暇だったからだ。
「夏休みが始まって三日が経過……あと四十一日も残ってる。これから一体どうやって過ごせばいいっていうんだ……」
現在高校二年生。
実家の畑の家業を継ぐことが確定してる俺からしたら、受験勉強なども程遠い存在だ。
ならば有り余った時間遊べばいいのではと思う人もいるかもしれないが、その遊び方がよく分からなかった。そりゃ漫画も読むし、アニメも見る。そんなのは当たり前で、それでもこんな無為で暇な人生じゃなく、もっといい生き方があるんじゃないかと漠然と思ってしまうのだ。
「どうしよっかな。いっそのことラグビーでも始めてみるか?」
そうは思ったがラグビーのルールを知らないので、断念することにする。
「どうしよ……こういう時に気軽に遊べる友達の一人でもいればなぁ。ボッチなのがこういう時に響くぜ」
本当に何をすればいいのか分からない。
暇すぎて憂鬱になってきそうだ。
あーあ……いっそのこと何かとんでもないことに巻き込まれないかなぁ。例えば、そう……異世界転生とか?
「あるわけない。もう悩んで仕方ないよな。昼寝しよ」
俺は今日のところは諦めてふて寝することにした。
あーあ、明日はいいことありますよーに……
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
「……うぅ……あ、あれ?」
俺は気づけば知らない場所にいた。
普通起きたら自分の部屋の天井が見えるはずだ。
しかし起きた先にあったのは、見覚えのない真っ白な天井だった。
「ここは……」
周囲を見渡せば、どうやら白い部屋で寝ていたようだった。
まるで意味が分からない。
「やっほー!」
「うお!」
どうしようかと思っていると、いきなり目の前に人影が現れた。
その人物は白いヒゲをたっぷり蓄えた、モジャモジャの枯木爺さんだった。
「こんにちは!」
「……こんにちは」
元気よく挨拶されたので、流石に返すことにする。
そのお爺さんは見た目はどっからどう見てもお爺さんなのに、どういうわけか裏声で喋っていた。美少女の声質などというわけでもなく、本当に耳障りな老人の金切り裏声だった。
「こんにちは!」
「もういいわ! なんなんだよ気色悪い、その喋り方やめてくださいよ」
「うむ、最近のトレンドは美少女の女神だと聞いたもんでな。儂もちょっと参考にしてみようと思ったんじゃが……難しいのう」
お爺さんは普通の喋り方に戻したようだった。
今度は普通にしわがれた感じのお年寄りの声って感じだ。顔と声がマッチしてる。
「妙なことしないでくださいよ、混乱しちゃうんで。それで、ここは一体どこなんですか? というかあなた誰なんですか? もしかして誘拐犯とか?」
「なんじゃ、儂は男なんて興味ないわ。あるとしても一桁年齢の女子じゃ」
「そんなきしょいこと暴露しないでくれますか?」
「つれないのう。ほんのちょっとした冗談じゃ。ゴットファーザージョークじゃ」
「意味分からないこと言ってないでそろそろ教えてください。ここはどこなんですか」
何がなんだか本当に意味が分からない。
目の前の人物は白い貫頭衣に身を通しており、なんとも古風な感じの装いだった。妙にしっくりくる感じもするが、ともかく異常者ということだけは理解できた。
「そうじゃの、それじゃあ教えるとしよう」
そう言って目の前の人物は、急にしゃがみこんだかと思うと、そのまま俺に対し土下座を決めてきた。
物凄い完璧な土下座だった。
「え?」
混乱する俺をよそに、お爺さんは立ち上がり、パンパンと服をはたき身を正す。
「と、いうわけじゃな」
「どういうことだよ!」
「なんじゃ、分からんか。お主も理解力が足りんのう。そんなんじゃから友達の一人もできんのじゃ。いいか? 今のは神である儂が誤って地球におるお主の頭上に雷を落としてしまい、お主を死亡させてしまった。そのままではいかんと、身勝手ながらもお主の魂をこの天界へと呼び出し、実体化させた上で正式に謝罪させて貰ったというそういうところまでが見て取れるじゃろうが」
「わかる訳ねぇだろ!」
「さらにはそこから命を奪ってしまったお詫びというわけでもないが、お主を地球ではない別の異世界に転生させ、そこで便利な能力と共に新たな生活を送って貰おうということで手を打とうとしてる儂の魂胆までもを察した上で、『まぁミスは誰にもありますよ』と大人の対応をすることで全てを水に流してやろうとするのがお主の今できる最良の選択じゃろうがい!」
「超能力者じゃねーか俺! 逆にそれを分かったら天才だろ!」
俺に何を期待しているのだろう。
言ってることもめちゃくちゃだが、なぜこの爺さんが逆ギレしているのかだけが本当に分からない。怒りたいのはこっちだよ?
「まぁともかくそういうわけじゃ。早速能力を選ぶとよい」
「えぇ……」
とんでもない爺さんだ。
俺は半ば感心してしまった。