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『逆襲 肆』

 




 ゴロン、と蒼汰の体が横たわった。

 荒い呼吸。

 喉を絞って息を吸い、吐いているような、そんな息づかい。

 もう既に抗う気力は無いのか、目線はどこを見ているのか分からないほど虚ろ。


 いい加減バットを降るのにも疲れた。


 ーーーーーーこんなことに快楽を見出す奴の気が知れない。



「佐々木、大丈夫?」


 七海を介抱していた雅が、心配そうに俺の方を見ていた。

 この計画の最終的な行く末まで、雅たちには共有している。

 今更、心配に思うことなんて無いと思うけど.....。


「全然、大丈夫。.....そんなにしんどそうに見えた?」


「だって、()()じゃないじゃん。こんなの.........」


「.........」


 辺りを見ると、自分の行いを否が応でも思い知らされる。

 散らばった髪の毛や注射器。

 飛び散った血痕。

 そして俺の手には殴った衝撃で変形したバット。


「.....確かに」


 こんなのはこれまで阿久津の仕事だったけど。

 今回ばかりは、()()()()()()()()()()()()()()()()

 まぁ、奴なら荒事も二つ返事で引き受けてはくれそうだが、()()()()巻き込んでしまうのも気が引けた。





「うぅ.........」


「.......!」



 不意に。

 精神的にも身体的にもダメージを負ったはずの陽菜から呻き声が聞こえた。


「...ろす.......、ぜっ.....、ぬのは.....」


 初めは何を言っているのかは分からなかったけど、次第に意味を持った言葉の羅列になっていく。


「お前ら.....、だ。こんなこと.....して、タダで済むと.....思う.....な」


「.........」


「そうだ。パパに頼めば死刑だ、死刑」


 瞳に力が戻ってくる。


「お前らだけが罰を受けろ、クソが.....! 私にこんなことして、悠々と生きていけると思うな!!」


 ギリィッと言う歯ぎしり。

 偽り、恐れ、虚飾、憂い。

 塚原陽菜と言う人間を構成する全ての要素が、その瞳には込められていた。


 .........その精神力には脱帽する。

 この後に及んで、まだこの女は『自分は負けていない』と言いたいんだ。

 父親という希望にすがり、まだ俺らに罰を求めようとしている。



 では。




 ()()()()()()()()()()()()()





 ーーーーーーこの女はどんな反応をするのだろう?





「ざまぁみろ、クソ童貞が! 死んで償え!!!」



 足元で何か吠えているが、別段気にする必要も無い。

 そんなことよりも.....。


 制服の袖を捲り、腕時計で時間を確認した。



「.....もう少しで7時」



「このまま生きていけると思うな!! 死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!」



「.........」



「死ねよ! お前なんかが生きていいわけがない...! 死んで償えよ!!!!」


 唾を飛ばしながらまくし立てる姿には、かつての学園のマドンナの面影はない。

 思い返せば、散々な目にあった。

 .......こんなクソ女でも、俺の初めての彼女だったんだよな。


「.......」


 耳をすまして見ると、小屋の外が騒がしい。

 ()()もどうやら上手くやったようだ。



「っ!!」



 小屋の扉が開き、外から光が差し込んでくる。


 暗かった室内が急激に照らされ、その場にいた全員が固まる。





 ーーーーーーーーーーーー長かった復讐が、終わろうとしていた。





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