とある少女への追憶①
「阿久津、お前の顔面ってゴリラに似ているよな」
「唐突に何? 殴られたいの?お前」
「いや、ふと思ってさ」
「ふと思うな、そんなこと」
「なぁ、太一。阿久津の顔って猿だよな?」
「まぁ、猿の中でもボノボ(注)だね」
注)サルみたいな動物。もうサル。
「………泣いていい?」
「ボノボって人間と同じで不特定多数とsexするんだって。よかったな阿久津。ボノボから選び放題だな」
「……ボノボに謝れ」
暖かい風の吹きこむ教室で、俺はいつものアホども(太一&阿久津)と喋っていた。
4月。
中学2年。
クラス替えで新しい面々が揃い、これから新たな1年が始まる、そんな予感。
まぁ、新しい面々とは言ったけど、今回のクラス替えで一緒になった奴らは偶然、昔馴染みが多かった。
住吉中学校。通称『住中』。
一クラス40人。一学年6学級。全校720人強というマンモス学校であるため、去年のクラスでは全く喋ったことのない奴とかもいたけど……。
今年はなかなか、楽しくなりそうだ。
――――――結果から言うと、楽しかった。
楽しかった、が。
…………。
***
「フフフ………」
とある休み時間。
俺の席の後ろの女子が肩を震わせて笑っていた。
なんだろう。
阿久津の顔がおもしろかったのだろうか。
「阿久津、笑われてるぞ。顔が面白いってさ」
「何で俺なんだよ……」
「いや、ほんとにごめんなさい…………! 顔が面白くて……!!」
「顔が面白いのかよ!! 失礼!!!!」
おもろい女の子だなぁ、とこの時は思った。
もう阿久津イジりを心得ている。
詳しい話を聞くと、休み時間や空き時間に俺らの会話を聞いてて、笑うのをずっと我慢していたらしい。
そんなに面白いことを話していた覚えはなかったけど、まぁ、笑顔になってくれていたなら悪い気分はしない。
前髪は少し長く、どこか大人しめな印象。
真っ黒で綺麗な黒髪。
……どこかのギャルとは違うな。
声を押し殺して屈託なく笑う様子は、なんか……少し新鮮だった。
「3人って昔から仲良しなんですか?」
「あぁ……、まぁ、正確にはあと一人ギャルがいるんだけど、全員同じ小学校なんだよ」
「へぇ……。……あっ、もしかして、このクラスの舘坂さんですか?」
「あぁ、そうそう。目立つよね、あのギャル」
反応に困っているのか、苦笑い。
「どこの小学校だったんですか?」
「下台小」
「えー、人数少ないところですね。全校は?何人?」
「俺らの頃は全校15人?とかかな」
「え。それほんとですか?じゃあ、住中に来てびっくりしたんじゃないですか?」
「すごいビビったよ。クラスにこんなに机と椅子があるのが気持ち悪いもん」
「へぇ~、じゃあ………――――――
何気ない会話。
その女子は自然に俺らに溶け込んでいった。
「佐々木ぃ、たいちっち、帰ろぉ」
「おっ、雅。……お前またそんなに髪巻いてんの? 生徒指導の赤石に目つけられてんだろ??」
「可愛いからしょうがないじゃーん。…………あれ? その子は??」
「後ろの席の~~~~さん、最近ずっと話しててさ。結構面白いこと言うんだよね」
「そうなんだぁ、~~ちゃん、ウチ舘坂雅って言いますぅ、マジよろぴっぴ☆」
「ギャル語きめぇ……。~~ちゃん、こんな人になっちゃ絶対にダメだ」
~~は突然のギャルの登場に面食らっていたが、舘坂が嫌味のないさっぱりした奴だと分かると、緊張は解けたようだった。
「~~ちゃーん、帰りにスタバ寄ってこ。新作出たらしいんだよねぇ」
「えっ、ほんと!? 行く行く!!」
2週間も経つ頃には、雅とも自然になじんでた。
スタバ、羨ましい……。
この頃、俺たちはごくごく自然につるんでいた。
太一。阿久津。たまに雅。そして――――――。
――――――木本七海。




