武闘派はやっぱり嫌いです。
「っ.........!」
原田の顔が青ざめていく。
怒りなのか、動揺なのか、その手に握られたスマホが微かに震えている。
「コレはっ.....違っ、違うんだよ、ねぇ陽菜ちゃん。陽菜ちゃん一緒にこの日いたよね? 私こんなことしていないよね?」
道枝.....。
それは無理がある。
と言うか、悪手だ。
「楓.........」
驚いた表情を見せる陽菜。
道枝、お前はまだ気づいていないのか?
ソイツに同情を誘うな。
ソイツに助けを求めるな。
何故ならば。
お前のことをコマとしか思っていない奴だ。
「楓.........何で、こんなこと.....?」
陽菜はその大きな目に涙を溜め、唇を震わせている。
はいはい。
演技演技。
しかし、陽菜は表向きは『学園のマドンナ』と言う肩書きがある。
その涙の影響力たるや計り知れない。
「.........っ!! ねぇ、陽菜、私たち友達じゃん、友達だよね!? 陽菜ァ!!!!!」
もはやパニックだった。
道枝は。
陽菜のことを本当に友達と信じていたのだろうか。
この女の本性を知っていたのだろうか。
今となっては分からないが、この瞬間。
「私.....2人のこと信じてたのに.....」
完全に2人を切り捨てた。
「「...........っ!」」
そして。
一瞬。
時間にしてほんの一瞬のことだった。
陽菜と目が合った。
「.............!」
背筋に何か冷たいものが走った。
憎悪。
例えるなら、その言葉が1番しっくり来ると思う。
醜く顔を歪ませながらこちらを一瞥し、陽菜は教室の外に駆けていった。
多分このクラスの中で俺しか、陽菜の視線の意味に気付いていない。
明確な敵意。
.....さすがに分かった。
——————陽菜は、俺の仕業と気付いている。
昨日の会話からも陽菜は俺を警戒していた。
そして、今日。
新たに自身のコマを潰されたとなると、いよいよ本腰を入れてくるだろう。
さて、次に陽菜はどう出るか.....。
「あっ、ちょっと.........! いやっ!!」
クラスの女子の声が聞こえた。
転瞬。
———————視界が白く染まった。
それと同時にやってくる衝撃。
頭がグラグラと震え、背中が痛い。
何だ?
何が起こった?
ズキンズキンと脈に合わせて頭が痛む。
殴られた?
口の中が切れているのか、鉄臭い匂いがする。
周りを確認してみる。
どうやら机を巻き込んで床に倒れこんだ、らしい。
「お前がやったんだろ……!?」
眼前には凄い形相で俺を睨んでいる原田の姿があった。
「お前がやったんだろーが!!」
「うっ…………!」
腹部に一発蹴りが入る。
殴られ蹴られて気付いた。
やっぱり俺は暴力沙汰は得意じゃない。
阿久津ってスゲーな、と半ば現実逃避的な思考になるのは、この状況に対して別に危機感を抱いていないから。
あくまでも窮鼠に嚙まれたに過ぎない。
「お前こんなことして楽しいのかよ!」
「…………」
利己的な連中って一定数いるが、コイツもなかなかだな。
自分のしたことを棚に上げ、自分に不利益が生じたときにはこれでもかと発狂する。
……阿久津タイプだ。
「何とか言えよっ!!」
拳が振り上げられる。
「やったのは俺じゃない」
「…………!!」
「これ、一つ目の質問の答え」
原田の唇がわなわなと震えている。
「そして、二つ目の質問の答え」
さぁ、仕上げだ――――――。
「ざまぁみろ、バーカ」
俺は、原田に聞こえるくらいの声で囁いた。
「っ……お前っ!!!!」
拳が振り下ろされることはなかった。
「原田っ! 何してる!!!」
第三者の介入。
騒ぎを聞きつけてきたのか、はたまた、誰かが告げ口をしたのか。
クラスの担任が原田の腕を掴んでいた。
「…………!!」
不意に冷静になったんだろうな。
今この状況。
シンプルに俺への暴力行為もある。
停学は免れない。
まぁ、復学してもそのまま学校に来れるかどうか――――――。
「原田、話を聞かせてもらおう」
青ざめた顔で担任についていく原田。
これ以上の抵抗も何もかもが無意味であると気付いたのだろう。
Twitterの投稿の件は解決していない。
殴られた際に床に落ちたスマホが目に入る。
先ほどの3人の投稿は、瞬く間にリツイートされまくっていた。
人間って本当に救いようがない。
新しいおもちゃには食いつくし、周りに共有したがる。
――――――自分が、次のおもちゃになるかもしれないのに。
見たユーザーが運営に通報しない限りは、あの投稿は効果を発揮し続ける。
いずれは圧力がかかり、消されるかもしれないが、ネットの力は強大だ。
一度拡散されれば他の人間に保存されるなどして、永劫残り続ける。
まさに、インターネットタトゥ。
しかし。
雅のおかげで、露払いは済んだ。
あとは、本陣へと攻め入るのみ。
――――――陽菜。




