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僕は猫を拾った

僕は猫が好きだ。ふわふわとした毛並みに、クリッとした目。

ぷにぷにの肉球に、可愛らしい鳴き声。


そんな可愛い生物を、僕は小学2年生の時に拾った。


その子は真っ白な毛並みのメスの白猫で、幼い僕は『シロ』と名付けた。


最初は怯えていたシロも、何度引っ掻かれようと、何度噛みつかれようとも、根気強くお世話を続けているといつの間にか、自分から僕の方に寄ってきて、ぺろぺろと僕の指を舐めてくれた。

それからは、ものすごく懐いてくれたようで、家の中どこにいても着いてくるようになった。お風呂に入れば入口で待機しており、寝ようと布団に入ればお尻をこちらに向けて寝る。


そんな生活が高校になっても続いた。


傷でいっぱいの僕の体を舐めてくれたり、一人で泣いている時もずっとそばにいてくれた。眠れない時などは、まるで大丈夫だよ。というように、前足を僕の手に乗せながら眠ってくれた。どんな辛いことがあってもシロがいればへっちゃらだった。



しかし、そんな日々も長くは続かなかった。


親が共働きで、夜遅くに帰ってくることをいいことに、高校の奴らが家まで押しかけて来たのだ。

帰りを尾行され、集団で押さえつけられ、合鍵を奪われて。


そこからは酷かった。家は荒らされ、金目の物はほとんど盗まれた。


そして・・・こいつらはシロにも目をつけた。


「おい!この白猫ってこいつの待ち受けのやつじゃね?!」


「本当だ!よっしゃ捕まえて俺ん家の物にしてやるよ!」


「感謝しろよなひ・ろ・や・く・ん?」


そこで初めて僕はこいつらに反抗した。近くの奴に掴み掛かり、頬に一発いれた。


「いてぇ!?てめぇ!なにしやがる!」


多vs 1なんて結果は分かりきっていたが、やはり数人に取り押さえられてしまった。


そんな僕を見て、シロはリーダー的存在の奴に噛みついた。

・・・噛みついて、しまった。


ここから先はあまり語りたくない。


ーーーーー


程なくして、僕は目を覚ました。周囲には散らばった何かの破片だったり、割れた花瓶などが落ちていて家は悲惨なことになっていた。


痛んだ体をどうにか起こして、親が帰ってくるまでに片付けようと掃除用具を取りに行った。


「えっと・・・確かここに箒があったはず・・・」


そこで僕は奥の方にタオルに包まれた『何か』を見つけてしまった。薄く、赤みがかった『何か』を。


恐る恐る、中身を見た僕は


「おぇぇぇぇぇ━━━━」



苦しむような顔で死んでしまったシロがいた。


亡骸となったシロを抱え、僕はたくさん泣いた。どんなにいじめられてきても、暴力を振るわれても、泣かなかったのに。


親の説明を求める声も、僕を心配してくれている声も、全部無視して泣き続けた。



それから1週間がたったが、僕は抜け殻のような生活を送っていた。

母は、いじめられていたことに気づけずごめんね。と言って泣いているし、父も学校側に色々な要求をしてくれている。

優しい家族だ。それはとても嬉しく思う。だけど、シロはもう帰ってこないのだ。立ち直れるはずなんて、あるはずも無かった。


だけど、僕は死ぬわけにはいかない。あいつらに復讐するためだ。それまでは死ねない。死ぬわけにはいかない。そして、あいつらを絶対に許さない。許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない━━━


次の日、しばらく休みを取っていた両親が流石にまずいと仕事に出た。まさにこのときを待っていたかのように、あいつらは家に来た。そして、奪った合鍵で僕の家に入ってきた。


だけど、僕はこのときを待っていたのだ。あいつらは絶対ここにくる。その確信があった。だって、父が学校へ話したから。それなりに罰を受けたんだろう。その顔は明らかな殺意があった。まぁ、そんなの関係ないけど

そうして、僕は包丁を持ってクローゼットへ隠れた。


ドッドッ。ドッドッ。心臓の音がうるさい。早く来い。

早く来い。早く━━


しばらく待っていると、僕が待つ部屋へ1人入ってきた。


来た!チャンスだ!幸運なことにあいつらは分散して探すことにしたようだ。これならば、確実に殺やれる!


そうして、僕はクローゼットから飛び出し、この男の首を後ろから━━━



あれ・・・?どうして、、、?


・・・足に力が入らないのだ。


まともに食事を取らなかった影響が、最悪な形で現れた。


ああ、終わった・・・シロの仇も取れず、親に迷惑をかけたまま、こいつらに殺されるんだ。


拳を振り上げる目の前の男、バタバタとこちらへ走ってくる音。


・・・せめて、僕を殺したことでこいつらが苦しむことを心から願━━━━。



『━━ん。━━ゅじん。ご主人!』


えっ、、、?


『詳しいことは後です!時間がありません!説明を聞いてください!』


どういうことだ・・・?時間が・・・止まっているのか?

いや違う、ものすごく遅い。

それより、説明・・・?


『これより、そちらの世界の猫たちがご主人を救いに来ます。しばらくの間、その男たちに殺されることはないかと思います。』


『しかし、猫たちも長くはもたないでしょう。早くしなければご主人がお亡くなりになるかもしれません。ですからその間に、ご主人には選択をしていただきたいのです!』


猫たち・・・?選択・・・?何を言ってるんだ?


『猫たちが足止めをしている際、一匹の黒猫があなたの前へ現れます。もし、まだ生きたいと思っているなら、その黒猫の前足、どちらでもいいので握ってください。もし、もう死にたいと思っているならそのまま何もしないでください。』


さっきから、頭に響くこの声はなんなんだろう。

でも、なんだか不思議な気分だ。なんだか落ち着いてきた。


『そろそろ、時間が普通に戻るでしょう。

どうか、良い選択を。

・・・待っていますよ。ご主人。』


次の瞬間、


「「「「「「ニャー!ニャー!」」」」」」


数多の猫が入り口から飛び出してきた。


「うわ!なんだこいつら!」


「クソッ!いてぇ!引っ掻くな!」


「いでででで!!」


その猫たちは、僕を飛び越えクソどもに襲いかかった。


リンッ━━!


ふと、鈴の音と共に先の声の通り、僕のすぐ横へキレイな黒毛の猫が現れた。


するとその猫は目の前まで来ると、スッと右前足を差し出してきた。


答えなんて、決まっている。まだ死ぬわけにはいかないんだ。ここまできて、このチャンスを逃すものか。


迷わず差し出された右足を掴んだ。

瞬間、周りを光が包み込んだ。


「━━━!」


あぁ、何か言ってる。でも、何も聞こえない。瞼が重い━━━


そして、僕の意識はそこで途絶えた。


ーーーーー


・・・・ん。


目が、覚めた。

まだ意識が朦朧としている。ただ一つ言えることは、生きている。

でも、僕は確か黒猫の前足を掴んで、、、。


はっ!そういえば!

ここはどこだ?少なくとも僕の家じゃない。


あの黒猫は?声の主は?


・・・とりあえず、ここを出ないとなにも始まらない。

ひとまず人を探そうと外に出たのだが。


「え、、、?」


眼前に広がる景色はなんとも不可思議なものだった。


そこに溢れかえっていたのは、ぴんと伸びた長い耳。

可愛らしい形をした鼻。そして、撫で心地の良さそうな髪の毛。まさに猫のような容姿の人型生物がいた。


マジで、どこなの、、ここ、、、。


皆友みなと様!!ここにいらしたのですね?!」


困惑していると、背後から僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。

恐る恐る振り返ると、長い黒髪を後ろでまとめた、猫耳メイドさんが立っていた。


いや、え?なんでメイド服、、、。てか様って


「皆友様、、、?」


そうして不思議そうに首を傾げる猫耳メイドさん。


「・・・はっ!・・・えと、どなたですか・・・?」


こんな人、知り合いにいたっけ。全然記憶にない、、。


「あぁ!申し訳ございません。私、ロキシーと申します。以後お見知り置きを。」


そしてキレイなお辞儀を見せてくれるロキシーさん。


「さて、皆友様。いきなりこの世界へ来て、困惑されているかと思います。詳しく説明致しますので、私の後をついてきてください。」


ふむ。確かに何が何だか分からない世界で路頭に迷っても仕方がない。ここは素直について行こう。


僕は急いでロキシーさんの後に続いた。


その間、周囲の様子を見てみたのだがまさにロキシーさんのような猫耳の生えた、(この場合、獣人と呼ぶのだろうか)人たちが人の言葉を使って話している。


これはあのとき聞こえてきた『声』に関係があるのだろうか。むしろそうとしか考えられない。


そうしてしばらく歩いていると、


「・・・到着致しました。」


そこは、少し大きめの屋敷だった。どうして僕がこんなところに連れてこられたのか、疑問は深まるばかりだが、どうぞ、中へ。と促されしぶしぶそれに従った。


その後は、応接間も見られる部屋へ案内され「椅子にかけて、しばらくお待ちください」と一人ぼっちにさせられた。

うーん。ちょっと色んなことが起こりすぎてる・・・。


確か僕は、クソどもに殺されそうになって、そしたらいきなり声が聞こえてきて?それに従ったら辺りが光出して?そしたら、猫みたいな獣人がいっぱいいるし、ロキシーさんみたいな猫耳メイドさんとか出てくるし。


早いとこ、説明してほしいものだな。と考えながら暇を持て余していると、扉がノックされた。


思わず背筋を伸ばし、


「は、はい!だ、大丈夫です!(?)」


いや何が大丈夫です?お入りくださいとかで良かったのでは?


そんな感じであたふたしていると


「失礼します。ご主人・・・」


とどこかで聞いたような声が聞こえてきた。


そして中へ入ってきたのは、キレイな白髪にクリッとした目。思わず撫でてしまいたくなるような頭。そんな猫耳女性だった。


するとその女性は


「お久しぶりです・・・・・・。ご主人。ずっと、ずっと、お会いしたかったです。」


嬉しそうな表情をしながら会いたかったとそう言った。


お久しぶり、、、?何が何だかマジでわからない・・。


でも待てよ?なんだかこの人を見ているとすごく撫で回したくなる。それに、この声はあの子の鳴き声に少しだけ似てる気がする。

・・・まさか、、、!


いやでも、あの子は・・・。


そうだ。そんなはずがない。あの子がこんなところにいるはずがないんだ。


「あの、、、ご主人、、、?」


「・・・!あぁ、ごめんなさい。ちょっとぼーっとしてて。・・その、どうして僕に会いたかったんですか・・・?」


恐る恐る聞いた質問に


「あら、、、もしかして、気付いていないのですか?

そうだとしたら、少し悲しいのですが、、、。」


めちゃくちゃ落ち込んでしまった。

そんなシュンとしないでくれよ!ぼくが悪いみたいじゃない!てゆうか気付くって何?


でも、そんなわけないと思いつつもやっぱり長く過ごした時間からか、どうしてもこの子がシロとしか思えなくて。


「あの、もし違ったら本当に申し訳ないんですけど・・・あなたの名前って、『シロ』?」


そう言った瞬間、その女性は目をピカーンッと光らせ、もの凄い勢いで突進してきた。


「グボァッッ!!」


ジヌッッ!!


「そうです!そうです!シロです!ご主人!!あぁ、ずっとこうしたかった!!」


そう言いながら、泣き出すシロ。


あぁ、そうか。ほんとに、シロなのか。泣き声までそっくりだ。いや、そっくりじゃないか。だってこの子はシロなんだから。


不思議と驚きは無かった。それよりも、二度と会えないと思っていたシロに、もう一度会えたことの喜びの方が勝っていた。


「うん。うん。僕も、ずっとずっと君に会いたかったよ、、、。」


だけど、ならばどうして死んだはずのシロがここにいるんだろう。謎は深まるばかりだが、今はあり得ないと思っていた、思いがけない再会に涙を流すとしよう。



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