守ったもの
キング・オブ・ゼロ 7話「守ったもの」
カジノを崩壊させ、残った財産は豊富にあり、しばらく街に滞在していたが、俺たちはカジノを崩壊させた存在として良い、悪い、両方の意味で目立つ存在となってしまった。
よって、すぐに街から旅立つための準備をする。
「必要なものはだいたい買い揃えたな」
「次はどこに飛ぶ?」
「いや、もうローキットの飛行には乗りたくない」
凄まじい風圧を思い出し、しっかりと拒否する。
「そ、そうか……」
ローキットは少し残念そうな顔をする。
しばらく街に滞在し、他にも様々な人々を観察したことから、少し人格、いや神格か?
どちらにせよ、ローキットという存在が少し分かってきた。
好奇心と残酷、いわゆる子供の特徴だ。
「とにかく、歩いていこう。地を歩いて見てみるのも様々な発見があると思うよ」
「……ロックが言うなら分かった」
何故か、俺のことは全面的に信頼しているおかげかかなり助かっている。
だけど、もし、俺から興味を失ってしまうとどうなるのだろうか?
それを考えると背筋が凍る思いだ。
……だが、そうなれば仕方ないか、何故なら、俺はこの神の気まぐれで延命しただけの存在だから。
そんなことを考えていると、背後から地面を駆ける音が聞こえる。
確実にこちらに向かって来る。
命を狙うには白昼堂々過ぎる。
俺はすぐに振り返り、迫って来た両手を掴む。
しかし、その瞬間、迫って来た人物が誰か分かって掴む手を放す。
そのまま、その人物は俺に抱き着く。
「お兄ちゃん!」
「ニ、ニルス!」
「無事で良かった! 行方不明って聞いて、てっきり死んだものとばかり……」
そう、そこにいたのは俺の妹のニルスだった。
「……ロック、誰だ、そいつは?」
「ああ、ごめん、妹のニルスだ」
「なるほど、血縁者か」
「えっと、お兄ちゃん、この人は?」
ニルスは少し訝しげに問う。
「えっと、この人は……俺の命の恩人だ」
■実家
「さあさあ、恩人さん! どうぞ、わが家へ!」
ニルスはローキットの手を引き、久しぶりに帰る家の戸を開ける。
なぜこんなことになったかと言うと、ニルスは俺が言った命の恩人という言葉を信じてローキットをもてなしたいと言って聞かなかったからだ。
「感謝する、ロックの妹」
ローキットはニルスに軽く頭を下げ、連れられて行っている。
ローキットが他人に感謝するなど、凄い成長だと感じる。
そして、久しぶりに我が家に帰った。
もう、ここには戻ることはないと思っていたが、こんなこともあるもんだ。
すると、奥から松葉杖をついて、左脚を引きずる若い男が出て来る。
その若い男は眼を丸くして俺を見る。
「ロ、ローキット義兄さん! よく、ご無事で!」
「ジット、君が無事で本当に良かった。ニルスには君が必要だ」
そう、彼は妹の婚約者だ。
しかし、彼も戦争に駆り出されていた。
妹のために生きていて欲しかったが、それが叶って良かった。
「何を言います、あなたこそニルスには必要です、唯一の肉親ではないですか」
「……そう、だな」
「それにしてもよくご無事でしたね? 僕はまだ、後方の部隊だったので命は助かりましたが、ローキットさんは敵を引き付ける一番危険な部隊でしたよね? 実際ローキットさんの部隊は全滅したと聞きましたので、てっきり……」
「それは、彼女に」
俺はローキットの方を指す。
「こんな少女に? だとしても、五体満足で元気なご様子、流石です。流石、蒼き目の鬼神だ」
「……」
俺はジットから目線を外す。
「すみません、そう呼ばれるのは嫌いでしたね、軽率でした」
ジットは頭を下げる。
「いや、気にしなくていい」
「あ、あはは、え、え~っと、それではカルナには会いましたか?」
ジットは話を逸らすため、カルナの名を出す。
ただ、その名は色々な意味で聞きたくなかった。
「ま、まだだ」
「だったら、今すぐ会ってはどうですか?」
「そ、それは……」
「あなたの部隊が全滅したと聞いてからカルナはそれはもう、酷い有様で、あなたが生きていると分かればきっと……」
「ジット!」
ジットの話す言葉をニルスは遮り、ジットを引っ張る。
「ちょっと、ニルス!」
「ダメ、まだ……ダメ」
「だけど、それではカルナが浮かばれない!」
「お願い」
ニルスはジットに抱き着き、懇願する。
「分かった、ごめん」
「……少し、外の空気を吸って来る」
俺はその場に居られなくなって、玄関から出ようとする。
しかし、それよりも先に戸は開く。
そこには濃いクリーム色のセミロングの女性が立っていた。
「ローキット?」
その女性は呆然とした様子で尋ねる。
俺は、気まずい表情で答える。
「ああ、カルナ」
その女性、カルナは目にたっぷりの涙を浮かべると、俺に抱き着く。
「良かった、帰って来てくれて」
「……」
「ロック、誰だそいつは?」
とてもバットなタイミングでローキットは俺の後ろからひょこっと顔を出し、カルナを見る。
「……誰?」
カルナは抱き着く力を強くし、少し低い声で尋ねる。
非常にまずい状況だ。
「俺の命の恩人だ」
「そう……」
妹と違って、カルナまだ疑い深く、ローキットを睨む。
「ロック、我の質問の返答がまだだ、この女は誰だ?」
「カルナは俺の、元、婚約者だ」