イカサマ
キング・オブ・ゼロ5話「イカサマ」
「それでは、チップは互いに50つずつ」
ローキットの前にコインが10枚ずつ塔になったものが5つ置かれる。
「勝てないと判断すれば途中で降りることは可能だが、半分のチップしか帰って来ない。1ゲームに賭けるチップは10となっている。それではシャッフルいたそう」
オーナーはシールのついた新品のトランプを取り出しシャッフルしようとする。
「待て!」
俺はオーナーのシャッフルをしようとする手を止める。
「何か?」
「あんたがシャッフルすればどこでイカサマされるか分かったもんじゃない!」
「ほう、この私がイカサマをすると?」
「そうだ、誰か代わりにやってもらわなければ」
「いいでしょう。お好きに指名しては?」
「そ、そうだな……」
俺は周りを見渡す。
しかし、カジノ側のディーラーは信用出来ない、かといって他の客が確実に白と決まったわけじゃない。
そもそも、ここの客のローキットを見る目はクソだ。このカジノがローキットに回るより、ローキットが堕ちる方を好むはずだ。
ならば、どうすればいい?
「……ローキットがやるのはどうだ?」
「……構いませんが、それではあなた方がするイカサマを私が受けることになります。フェアではないでしょう?」
「ローキットはトランプすら初めてなんだぞ!」
「関係ありません。この子は才がある、直ぐにでもイカサマが出来るでしょう」
「うぐぐ」
「ふむ、でしたら、交代にシャッフルするのでは如何です? もしもイカサマを見抜くことが出来ればその勝負は見抜いた側の勝ちですが」
「……出来るか?」
俺はローキットの方を見る。
「可能」
「分かった。それで行こう」
「互いの落とし所を見つけることが出来て良かったです(ふふふ、バカめ、この私のトランプさばきはとても人間の肉眼で見抜けるものではない。それに比べ、超ド素人の少女のイカサマなど、見抜くことは容易い。真にフェアにしたかったら、この私にトランプをシャッフルさせないことだ。だとしても、私は勝つがね)ではまず私から」
オーナーはトランプを超高速の早業でシャッフルする。
「(クソ、速すぎる! 通りで自信満々なわけだ! いつイカサマをしているかどうかわからない)」
「(ふふ、あっちの男、しっかり私を見ているな、しかし、私は触れた感触だけでどのカードかが分かる。お前たちは今私の手のひらの上だ。今まで破産させて来た富豪たちのように転がしてやる」
そして、オーナーのシャッフルは終わる。
「それでは、私、お嬢さん、私、お嬢さん」
交互にカードを二枚ずつ配る。
そして、配られたカードをローキットは確認し、横から俺も数字を確認する。
ローキットに配られたカードは9と8で合計17、21から4も離れていて手札としては判断が難しい。
だけど、ここで引いたとしてもバーストする可能性の方が高い。
どうするローキット?
その時、オーナーは表情を崩さなかったが、内心ほくそ笑んでいた。
「(ふふふ、この勝負、私の勝ちだ。私は既に10とQで合計20、そしてトランプの束の一番上のカードはJだ)私はここでスタンドにいたします」
「……もう一枚くれ」
「ヒットですな? よろしい(まずは1勝)」
オーナーはローキットに一枚カードを渡す。
「な⁉」
俺は思わず声を上げる。
「さあ、オープンしましょう」
互いの札を見せる。
オーナーは10とQで20、対してローキットは9,8とJで27、バーストだ。
「ほほほ、私の勝ちですな、ではこのチップは私のものです」
オーナーは10枚のチップを取っていく。
オーナー60チップに対してローキットは40
「ローキット、まだ大丈夫だ。気を取り直していこう」
「ああ」
「お嬢さん、あなたのシャッフルの番です」
オーナーはトランプの束を渡す。
「了承」
そう言うと拙い手つきでトランプをシャッフルする。
とてもイカサマが出来るようには見えない。
「終わった、では配る」
ローキットは互いにカードを二枚配る。
ローキットの手札はKと4、合計14。これでは弱すぎる。
「ヒットだ」
そう言い、ローキットは自身にカードを一枚配る。
ローキットの手札に加わった数字は6、合計20だ。
さっきのオーナーの合計と同じでかなり強い。
「うむ、私もヒットだ」
ローキットはオーナーに一枚配る。
「ここで終わる」
「私もここでスタンドだ」
そして手札をオープンする。
「なに⁉」
盤上の光景に言葉を失う。
「ははは、運が良かったですなぁ」
オーナーは2と8とAの21、ブラックジャックだ。
偶然とは思えない。だが一体、どこで、いつ、イカサマをしたさっぱり分からない。
「では再びチップをいただきますぞ」
「……」
ローキットはチップを取られ30、オーナーは70だ。
「次は私の番ですな」
オーナーはトランプを再び高速でシャッフルする。
「(クソ、どこでイカサマしているか分からん!)」
「シャッフルは終わりました。では、お配りしましょう」
互いに二枚ずつカードを持つ。
ローキットの手札は10と7で17、次を引きたくなる手札だ。しかし、引くことは大きなリスクを伴うだろう。
それとも、オーナーのバーストに賭けるべきか?
そう戦況を見ていたとき、オーナーは勢いよく手を上げ、自信満々に一言。
「ダブルダウン」
「な、なにぃぃぃ!」
衝撃の言葉に想わず声をあげてしまう。
「ロック、ダブルダウンとは何だ?」
「だ、ダブルダウンとは、必ずもう一枚カードを引かなければならないことと引き換えに掛け金を倍にするシステムだ」
「なるほど」
「勝負を降りろ、ローキット! この自信、きっとあいつの手札は強い。もし、この勝負に負けてしまえば、もうチップは10しか残らなくなるぞ!」
「……いや、もしかするとブラフかもしれない」
「やめろ! 奴に限ってそれはない!」
すると、オーナーは机を強く叩いて俺を睨む。
「お兄さん、この勝負を続けるか否かの決定権はあなたにはない!」
「くっ!」
「私ももう一枚」
ローキットは新たにカードを貰う。
「スタンドだ」
「分かりました、ではオープンしましょう」
互いに手札を見せる。
ローキットが新たに引いたカードは5で合計は22でバーストだ。
対してオーナーの手札はKに2と4で合計16、追加で引かなければローキットが勝っていた。
「ほほほ、運がいいですなぁ」
オーナーはニチャリと笑う。
「(あ、ああ、こ、この勝負、負ける)」
俺は絶望で膝をつく。