ロック
キング・オブ・ゼロ 2話「ロック」
目を覚ます。
戦いの前に寝転がっていた木の根元に再び寝ていた。
事態が飲み込めない。
何故生きているのだろうか、あの時、流しすぎた血から命は溢れ落ちたはずた。
だが、今、俺の身体は綺麗に元通りになっている。
すると、伺うように、あの時の少女が俺を見下ろす。
「汝、起きたか」
「あ、き、君は!?」
思い出した、生を消する瞬間、俺の目の前に彼女が現れ、問答をしたことを。
「もしかして、君が俺を?」
「ああ、命を繋ぎ止めた」
「どうやって、いや、どうして?」
「私は人間を、そして汝を理解していない。汝の行動原理を理解したいならば、そのまま絶えさせることは出来ぬであろう?」
「き、君は一体何者なんだ?」
俺は目の前にいる異様な存在に素直に疑問を投げ掛ける。
「我か? さあ? 何者なんだろうな?」
少女の形をした何かは首を傾げる。
「自分でも分からないのか?」
「然り。ただ、世界を管理する存在として生まれ落ちたことは分かる。それ故に世を知らねばならぬ」
「もしかして君は神様、なのかな?」
「かみ? なんだ、それは?」
「え、えーっと(なおのこと、本物っぽいな)」
「まあ、我のことはどうでもいい、それよりお前のことを教えろ」
神様っぽい、白髪の少女はズイズイと俺に迫ってくる。
「ちょちょっ⁉ いきなり教えろって言われても」
「なんだ、汝も自身のことが分からぬではないのか?」
「そうじゃなくて、な、何から言えばいいか……そ、そうだ、まずは軽い自己紹介からしよう。俺の名はローキット・フリューメル。ラスカ出身のただの町民だ、君は?」
「我は、我だ」
「えーっと、自分の名前とかないのかな?」
「……コード名、536N35∀8:ホワイトだ」
何だそれ?
「……名前とかはないの?」
「必要ない」
「そんな、機械的な名前じゃあ可哀想というか、呼びにくいよ」
「じゃあ好きに呼べ」
「えぇ……だったら、白とかは?」
「好きに呼べと言ったが安直の極みだな」
少女は顔を歪める。
「そ、そうだよね、そんな拾ってきた犬に付ける名前みたいなのは嫌だよね」
「うむ、汝の名は少し複雑だ、ならその程度のものを求む。その方が紛れやすかろう」
「……それなら、君に俺の名をあげるよ」
「理解不能、動機が分からない」
「そうだね、さっき名乗ったけど、俺はもうあの時、あの場所で死ぬはずだった人間だ。だからもう俺には名はいらない。生者の名はいらない」
「それでは汝の名は無かろう?」
「君に拾われた命だ、だったら俺に名前を付けてくれよ」
俺は堂々と言い張る
「そう来たか、意趣返しめ」
少女は少し悔しそうな表情をする。
「アハハ、そうかもね」
「……汝、さっきの戦い、何度攻撃されても介さない様、まるで岩の如し。故にロックと言うのはどうだろうか?」
「……俺に安直と言っておいて、君も大概だなっ!」
「そんな昔のことなど忘れた」
少女はそっぽを向く。神様なのに大人げない。
だけどその様はどうして、無邪気で少し生意気な少女のようであり、彼女は機械ではないと理解させられ、自然と笑みが浮かぶ。
「……ふふ、分かったよ、俺の名はロック。そして、君はローキットだ」
「承諾」
しかし、そうこうしている内に辺りが少し騒がしくなる。
「そういえば、ここ戦場からそう遠くない場所か、色々と目につくな」
「問題か?」
「俺が生きていることが分かればここは再び戦場になる。そうでなくても、きっと戦いの場に駆り出されるだろう」
「……そう早死にしてもらっては困る。汝にはもっと情報を吐き出してもらわねば」
「了解、君に助けられた命だ、君のために使うよ。さあここから離れよう」
「承諾、緊急脱出に状態解除をする」
「え?」
少女は一瞬で全身が機械的な白い竜へと姿を変える。
「な、何これぇぇ⁉」
「我の本当の姿だ。乗れ」
「こんなので飛んだら余計目立つのでは?」
「否定、全身を透明化可能、早急に搭乗することを求む」
「わ、分かった」
俺は恐る恐るローキットの背中に乗る。
すると、背中から紐のような物が現れ、俺を縛って背中にガッチリと固定する。
「うわっ⁉」
「しっかりと掴まることだ」
「逆に離れる方が難しいよ!」
「……行く」
ローキットは一瞬で空へと飛び立つ。
凄まじい風の抵抗を受けるが、お構い無しである。
「アババ! バッゴブビードオドジテ!(ちょっとスピード落として!)」
「音声認知不可、近くの街に着陸する」
ローキットはこの辺りで一番の街付近に着陸する。
「スピードが速いよ!」
「了承、人間の想定耐久性には再考察の余地あり」
その時ロックの腹がグゥっと鳴る。
「忘却、汝はただのおにぎりを未接種のまま現在に至る、迅速なエネルギーの補填が必須と判断」
そう言うと、ローキットは少女の姿に戻り、俺の手を引き、街に入っていく。
「ちょ、ちょっと! 君!(全く、こんな感じで大丈夫かなぁ?)」