悲しくも美しい
ああ、何故悲しいのに悲しいのに、こんなにも、何故こんなにも、美しいのだろう?
私は骸と化した男を見て、そう思った。
時は遡る
私は生まれた。
どうして?
世界を管理するために生まれた。
どうして?
世界は正しくあればならないから
どうして?
……どうして、だろう?
分からない、分からない。それを、理解するために今、ここにいるのかもしれない。
私は何の変哲もないただの平原の上に生まれ落ちた。
自分が何者かは分かっていた、私は世界を管理する存在、ただしこの世界とは違うもっと先の世界を管理することが使命だ。
しかし、それだけだ、それだけ。
それだけしか知らない、何故管理するのか知らない。
おそらく、ここは私にとっての学びの場であるのだろう。
それから、私は少し辺りを見て回った。
そこには二足で歩く存在、人間というものがいた。
彼らは私を見て驚く素振りをしている。
どうやら、私の存在は彼らにとって奇異な存在なのだろう。
とりあえず、その場を離れ、再び平原へと戻る。
この姿ではいささか不相応だ。
彼らの姿はいつくか見た、機動力は落ちるが仕方あるまい。
そうして、私は人間の雌の姿へと変化させる。
進行具合(年齢)は彼らのリミットの約1/5
これくらいの年月を蓄積させた姿の方が好まれるであろう。
私はどこへ向かおうかと決めかねていると、辺りが騒がしくなる。
何があるのだろうか、金属製の何かを全身に取り付けた人間がこの平原に集まって来ている。
彼らは平原にて休息をとっているらしい。
すると集団を離れた一匹の雄が1本の木の下で寝転がっている。
コンタクトを取ってみよう。
「汝、ここで何をするか?」
「え? こんなとこでどうしたの?」
雄は突然現れた私に驚いている、人間への擬態は完璧、ならばタイミングが悪かったか?
「こんなとこと言ったな、ここに私がいることは不自然か?」
「不自然って言うより、危険だなここはもうすぐ戦場になる」
理解、この者は私が戦いの場に不相応及び、無関係、故にそれを知らせているというのか。
「承知した、我は人間の闘争に関わるつもりはない」
「え、あ、うん(なんだか、変わった子だなぁ)」
そう言って雄は何かを口に運ぶ。
「それは何だ?」
「これかい? ただのおにぎりだよ」
「ただのおにぎり?」
「……食べてみるかい」
そう言って雄は私にただのおにぎりと言うものを手渡す。
雄に見習い、我も口へと運ぶ。
「理解、穀物の一種を水につけ熱を加えた物を圧縮によってある一定の大きさへと固めたものか、こうすることで携帯し、エネルギーを接種しやすくしているわけか、利にかなっている」
「おにぎりをそんな風に解説する人は初めだよ。もっと美味しいとかそういう感想とかさ」
「……美味しい? なるほど、見た目こそ擬態出来ていても内部の機能は完璧には再現していなかったか」
「?」
「すまない、味覚のことはすっかり忘れていた」
「あ~うん、ならおにぎりを全部あげるよ」
雄は全てを私に差し出す。
「……それならば、汝の接種するものがないだろう?」
「いいんだ、どうせ俺はこのあと死ぬからさ」
雄は悟ったような表情をしている。
「……なるほど、理解、戦力差は覆すことは不可であるか、だかならば何故戦う? 人間は生きて自身の種を残すことが本能であろう?」
「そうだね、でも僕には守りたいものがあるんだ、だからある意味種を残すためにために戦うのかな」
「理解」
そう言って私は雄から離れる。
しばらくして、雄の言った通り戦いが始まる。
「ほう、なかなかやるではないか、あの雄」
我と話したあの雄は勇猛果敢に攻め入り次々と敵を薙ぎ倒していく。
しかし、戦力差は歴然、あの雄の周りの仲間は次々と倒れていき、持っていた槍も折れ、周りを囲まれる。
「(さすがにもうダメか)」
そう思った瞬間、雄の目は蒼く光る。
それからは明らかに動きが変わる。
素手で殴り殺し、敵の武器を奪い倒す倒す。
「まだ、俺はここにいるぞっ! 殺せるものなら殺して見ろ! 一人でも多く地獄に連れ込んでやる!」
凄まじい覇気で敵を圧倒する。
多勢に無勢、だと言うのに萎縮した敵たちは撤退を始める。
敵の撤退を見届けた後、糸が切れたように雄は死体の山に倒れ込む。
「な、何とかなったか」
雄は死期が近いのか目を閉じそうになる。
「おい、どうせ死ぬとか言っておきながら生き残っておるではないか?」
「あ、き、君は」
「だが、その傷と出血、おそらく長くはない」
「……ここまでやれたんだ、本望さ」
「そうか? 人の思考とは分からぬものだな、さっきの戦い、生き残るために必死な様であった。だと言うのに死の間際では満悦と言う。その心境の変化、理解し難い」
「……君は、一体?」
「生き長らえたいのなら、我を求めよ。私は汝が、人が何かを知りたい」
神は人を知り、人は神を知る。