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それは素粒子よりも細やかそれはあやとりそれは贈り物

作者: 武下愛

暗闇だけの頃、触れ合い擦れる感触、肌に伝わる振動、煮詰められた咆哮、手探りした香り、譫言の熱、が、頼りだった。予めでは無い空間。空間を含めた全て、妖精の尻尾を掴むのと一緒。持ち寄った種は無駄を嫌う。存在する事だけ、ではなかったから、認識が可能な位の微光草へ。知らなくても、駆けていく言葉を問わなかったね。


丸く縁取られた湖面の平面だけを泳ぐ潜れない湖面鯨。潜って見上げても見えない鯨。知らないから、表面だけしか知らないのだろうという人々は子供。一つだけしかない流星の最後を鯨に捧げると、無数の割れないシャボン玉を鯨が飛ばしてくる。受け止められるだけ、ありったけの穴で飲み込み隙間が無くなって溢れ出て浮く、星を飛ばしてしまう。


しぼんだり膨らんで気ままに空間を泳いでいる透けた白い宙母。透明な万色糸を垂らす母。知らないから、糸が見せかけの飾りだという人々は盲目。白夜の花束を捧げると、身を貫通する光色を母が放ってくる。過去と現在と未来の影で咀嚼し、吸収しながら循環させ、光陰を放ってしまう。


鮮やかさも陰にする光がない兆陰花。吹かれては兆ある陰を微細に変える花。知らないから、影だけだという人々は色盲。くるみの代わりに入れる殻を捧げると、暮れない白昼のベールを花がかぶせてくる。産まれる前の細胞で隠して、眠っていく夕日、夜の帳をかぶってしまう。


空間に同じ色は一秒もなくて多色を構築している極華鏡。隙間すらも埋めて回る鏡。知らないから、成りたがる人々は不知案内。鼓動が止まない鼓動色のハイヒールを捧げると、砕けないガラスの雪を鏡が積もらせてくる。熔解しなかった円やかで揺るがなかった雪景色と重なり合って、透明だった吐息も白くなり、白を積もらせてしまう。


闇を寄せ付けず陽には頼らず輝く飾りでは無い晶月。欠けない満ちたままの月。知らないから、美しいという人々は残酷。掴めなかった木陰の光を水にして捧げるとティアドロップの結晶を月がこぼしてくる。硬質さえも受け止める瞳で余すことなく溶かしたら、投合した溶岩の、ティアドロップをこぼしてしまう。


こごえないほどの熱を空間に授ける黒陽。今は黒だけど昔は違っていて変わらないのはトワイライトゾーン。知らないから、寒いという人々は鈍感。一つも流さず抗い続け失えなかった湧き続けるマントルを捧げると、翼が生える拳銃を陽が堕ろしてくる。吸い込む拳銃と装填される銃弾、吐き出して撃ち込んだら、硝煙を堕ろしてしまう。


雲が集まり漂って降る雨花。雨色は地面に染み込んで残るのは無色の花。知らないから、見つけて珍しいから拾って渡そうという人々は無慈悲。帰れる柔らかい小さなつむじ風を捧げると、朽ちない時の隙間を花が舞わしてくる。秘めていたオーロラ・ピンクの口紅で、色を付けて秘密にしたら、密かだけを舞わしてしまう。


境界が分からないほど空間をなみなみと満たす空気水。蹴り上げれば浮遊する動けば緩やかにさせる澄んだ水。知らないから、何も感じない思わない考えないという人々は無関心。核が無くても泡という真珠だけを産む貝を捧げると、核が無くても沫という水晶だけを産むスペクトラムを水が染み込ませてくる。現象のパレットにスペクトラムを絞り出して、教養の絵筆でスペクトラムを。子供。盲目。色盲。不知案内。残酷。鈍感。無慈悲。無関心。な。知らない人々に染み込ませてしまう。


それぞれに透明糖を投げる。気に入らないと自作の透明糖が返ってくる。糖だからって甘いわけじゃない。


微光よりも、ほのかな微光だった頃、私達が滴らせた全素。それぞれの全素がゆっくりと一つになってティアドロップ。空間に落ちて輪を伝えて私達をなぞる。冷たくて噛み砕ける硬さではなかった。輪郭でなめて溶かし、流れ出るほど溜め込んだエネルギー。微光草。湖面鯨。宙母。兆陰花。極華鏡。晶月。黒陽。空気水。雨花。草は種だった。鯨は泣き虫だった。母は溺れていた。花は光っていた。鏡は曇っていた。月は死んでいた。陽は冷たかった。水は石だった。花は茨だった。これからも駆けていく言葉を、問わずにいますように。

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