チョコタルト
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「はぁ、またやっちゃった」
アパートで一人暮らしを始めて2ヶ月ほどが経った頃。大学1年の立川里奈は黒く焦げた卵焼きを前に落ち込んでいた。
「なんでいっつも失敗しちゃうんだろ?」
焦げの少ない部分を口に入れる。
(うっ……、中は半熟だ……)
[おはようございます。朝の8時になりました。今日のニュースをお伝えします]
「えっ!? もうそんな時間!? 早く食べなくちゃ」
焼かれた食パンとカフェオレ、それから不恰好な卵焼きを食べる終わると急いで準備に取り掛かる。
「いってきまーす」
里奈が勢いよくドアを開けると隣の部屋のドアも同じく開いた。
「おう! おはよ、里奈」
ちょうど同じタイミングで家を出てきたのは里奈の隣に住む同じ大学1年の前田隼人だった。明るく前向きな性格が顔にも出ているいわゆるムードメーカーのようなタイプだ。
「おはよう! 前田くんも1限から?」
「そうだよ、里奈もだろ? 一緒に行こうぜ」
二人とも学部は違うが隣の部屋同士ということもあってすぐに仲良くなった。
「今日ね、卵焼きが食べたくなって作ってみたんだけど、外は焦げてて中は半熟の卵焼きが出来ちゃって……」
「あはは、それは災難だな。 美味しかった?」
「美味しいわけないでしょ!」
二人は笑いながら楽しそうに歩いている。
「そういう前田くんは料理できるの?」
「あー、まぁ実は俺の実家ケーキ屋やっててさ、お菓子なら作れるけど、料理は人並みぐらいだな」
「えっ! そうなの!?」
はじめて聞いた話に里奈は目を見開いている。
「そんなに驚くか?」
「だってすごいもん! いいなぁ憧れちゃう」
そうか?っと隼人は照れているが嬉しそうだ。
ふと里奈は何かを思い付いたような顔をした。
「ねぇ、一つお願いがあるんだけど……」
「ん?」
少しもじもじとする里奈に隼人は少しドキッとする。
里奈は顔の前に手を合わせて言った。
「私にお菓子の作り方を教えてください!」
「……えっ?」
*・*・*・*・*・*・*・*・*
(俺の部屋に里奈が来るなんて…… いや、俺が里奈の部屋に入るよりはまだましだよな)
隼人がドキドキしていることも気づかず里奈も落ち着かないといった様子だ。
「ごめんね、私がお願いしたのに部屋にまで上げてもらっちゃって」
「あ、あぁ別に、気にせずゆっくりしてよ。 それより何作るんだ?」
「あ、うん、チョコタルトを作りたくて……」
少し恥ずかしそうにはにかんだ顔で里奈は言った。
「材料は買ってきたから、教えてください」
ぺこっと頭を下げてお願いする里奈。
「わかった。 じゃあやるか!」
「生地はあまり練りすぎたら焼いた時にタルトが固くなってしまうから気をつけるんだ」
「……うん、わかった」
「よし! ここから生地を一時間寝かせる!」
「一時間も⁉︎」
「あぁ、これがないと生地が縮んでしまうから。 まぁゆっくり待とうぜ」
待っている間、二人はのんびりとテレビを観ていた。
「……なぁ、里奈はなんでチョコタルトを急に作りたいと思ったんだ?」
隼人はいつもより落ち着いたトーンで聞く。
「うっ、それは……」
少し言いにくそうな里奈だったが顔を赤らめて言った。
「好きな人にチョコタルトをプレゼントして告白しようと思って……」
「……うん。どんな人?」
変わらないトーンで隼人は聞く。
「えっ、と、バイト先の先輩なんだけどね、チョコが好きな人で……」
「……そっか」
顔を赤らめて恥ずかしそうに話す里奈を見て、隼人は少し不満げな顔をする。しかしそんな顔は一瞬で、すぐにいつものように明るく振る舞った。
「……じゃあ、何としてもうまく作らないとな! まぁ、俺に任しとけば男子がイチコロのうまいお菓子なんて余裕だ!」
「あはは、ほんとに? じゃあお願いね、パティシエさん?」
「おう! 任せとけ! じゃ、続きやるぞ!」
いつもの楽しい雰囲気に戻った二人はタルト作りの続きを始めた。
「あぁ焼く前に本当は重石を乗せるんだけど、まぁそんなのないしお皿で代用しよう」
「なくても別に良さそうだけど……」
「あるとないじゃ全然違うからな、まぁ見とけって」
「チョコは出来るだけ細かく刻んで」
「うん」
「生クリームは沸騰させないように温める」
「わかった!」
この後2時間ほどかかって、タルトが出来上がった。
「よし! 完成だ!」
机には綺麗にできたチョコタルトが置かれていた。
「美味しそう!」
これには里奈も目をキラキラさせている。
隼人はタルトを半分に切って取り分ける。
「さあ、どーぞ!」
「いただきます!」
里奈は一口サイズに切ったタルトを口に運ぶと、目を見開いた。
「美味しい! すっごい美味しいよ!」
隼人の方を見てぱあっと笑う里奈。
「だろー?」
隼人は食べずに、にこにこと美味しそうに食べる里奈を優しい目で見ている。
「これならうまくいくかも! ありがとう!」
「うん、うまくいくといいな」
このとき隼人が少し悲しそうな笑顔を見せたことに里奈が気づくことはなかった。
帰り際ーーーー
「今日はありがとね!」
「いいよ、気にすんな! ……うまく作れるように頑張れよ」
「うん……!」
隼人は一瞬寂しそうな顔をしたが、明るくじゃあな!といって扉を閉めた。
*・*・*・*・*・*・*・*・*
数日後……
夜を前にした時間に里奈は隼人の家の前に立っていた。
「里奈どうした?」
いつもと少し違う里奈の様子に隼人は違和感を感じて優しく聞く。
「あのね、先輩にね、彼女がいたの」
里奈の顔は笑っていたけど悲しそうだった。
「今日チョコタルトを渡そうと思ってたんだけど、偶然お店に先輩の彼女さんが来てね。 結局渡せなかったかった。 だから隼人がせっかく教えてくれたのにごめんねって言いたくて……」
里奈は落ち込んでいることを気づかれないようにいつものような明るい声で笑う。
「……なぁ、そのタルト今持ってんのか?」
「えっ?うん……」
そんなことを聞かれると思ってなかった里奈はきょとんとしている。
「じゃあ、俺にくれよ」
「えっ……?」
里奈は真剣に見つめてくる隼人に戸惑っている。
「だって里奈が頑張って作ったんだろ? 里奈が気持ちを込めて作ったタルトを食べたいんだよ……ダメか?」
隼人は赤くなった顔を隠すように横を向く。
「別に……いいけど……」
いつもとは少し違う隼人に里奈は少し困惑しつつもラッピングされたチョコタルトを手渡した。
中には少し型が崩れてしまったタルトが入っている。
「……えへへ、やっぱり、前田くんが作ったみたいにはうまくいかなくて…… 少し崩れちゃった。 やっぱり渡さなくて正解だったのかも」
里奈が話している間に隼人はなにも言わずに口にタルトを放り込んだ。そんな隼人を里奈は見つめる。
しっかり味わうと、優しく笑って
「……うん、うまいよ、うまい!」
そう言って隼人は里奈の頭を撫でた。
「ほんとに? ……うん、でも嬉しい。 ありがと!」
隼人に元気づけられて里奈はいつもの笑顔を見せた。
すると隼人は唐突にいつもの調子で言った。
「あー なんか今俺、パスタでも作りたい気分だなー」
「あはは! なにそれ!」
「食ってくか?」
「……うん、食べたい!」
「美味しすぎて惚れても知らないよ?」
「それはどーかなー」
この後二人で笑いながらご飯を食べたのは言うまでもない。
お読みいただきありがとうございました。