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3.遠のく平穏

 …というわけで俺は現在、昼ドラさながらの借金取り立てシーン目撃してしまい、ガラの悪い兄ちゃんたちに囲まれています。


 どうすればお兄ちゃんたちは許してくれるでしょうか?


 1.兄ちゃんたちと一緒に早見玲奈から借金を取り立てる。


 2.一礼して走って逃げる。


 3.イキって早見玲奈の彼氏役してみる。


 もちろん、俺が取るべき行動はひとつだ。


「おい早見、借りた金はきっちり返せよ。お兄さんたち困ってるだろ!」


 そう、俺が選ぶのは1。

 とりあえず借金取りの兄ちゃんたちの味方に回って、俺が敵ではないことをアピールする。


 最悪なことにこのアマが俺を知っているような素振りを見せてしまったせいで、変に警戒されている。


 借金取りの奴らは俺が警察を呼ぶのではないかと警戒しているようだし、走って逃げたところで追われるのがオチ、彼氏役をしたところでなんの得もない。


 特に早見玲奈には思い入れなんてないし、勝手に退学して風俗嬢でもやってくれるなら俺の高校生活に害はないってワケよ。


 借金取りの兄ちゃんたちは、まさか俺が加勢してくるなんて思ってもいなかったのか、目を白黒させながら顔を見合わせている。


 玲奈も俺の発言に数秒呆気に取られていたが、暫くするとすぐに強気な表情になって息をスゥッと吸い込んだ。


「アンタクラスメイトでしょ!?」


「なんだよ。クラスメイトだからなんなんだよ!?」


「そこは助けなさいよ!?」


「は?助けるぅ?冗談言わないでくださいよ早見さぁん?僕みたいなガリ勉陰キャが立ち向かって敵う相手だと思いますぅ?今立ってるだけでも精一杯でチビりそうですぅ!」


 そもそもテメェみたいなスクールカースト上位のクソアマ助けるわけねぇだろ!百害あって一利なし、退学してくれた方が俺にとっては喜ばしいんだよ!


 もちろん心優しい俺はそんなこと決して口にしない。


 きっと借金取りの兄さん方も、俺が敵ではないと認識してくれたことだろう。


 そう思い、俺が玲奈から視線を外し借金取りの兄さん方を確認すると、彼らの目は変わっていなかった。


「あるぇ?」


 彼らの目に残るのは、疑惑の視線。


 思ってたのと違う!!


 逃げるのも早々に諦め、玲奈の味方もしないと決め込んだ俺は、借金取りのお兄さん方の味方についたつもりだったのだが、なんだか雰囲気が違う。


 歓迎されていないというか、警戒されているというか、明らかに敵対しているような眼差しで俺の方を見ている。そんな目で俺を見るな。


「どうしたんですか?お金…返してほしいんですよね?」


「おいガキ、騙そうたってそうはいかねえぞ」


「は?騙す?」


 何言ってんのこの人たち!


 せっかく協力してあげようと思ったのに、俺が訊ねるや否や騙すなどと訳の分からないことを言い出した金髪の男は、借金取りの中から出て俺に一歩近づくと、威圧的な表情で睨みつけてくる。


「危うく騙されるとこだったぜ。下手な演技はやめろよ。お前、協力するフリして警察来るまでの時間稼ごうってクチだろ」


「そんな訳ないじゃないですか。警察呼ぶなんて論外っすよ」


 てか警察呼んだら俺の方が危なくなるから呼べる訳ねえよ。…まぁ、俺の話は置いといてだな…


 何で警察呼んだことになってんの!?


 借金取りに協力して同級生を退学に追い込もうとしたら、逆に借金取りに目をつけられてしまいました。


 こういう時、世間の人々はどうするのだろうか?

 命乞い?土下座する?有り金全部渡す?


 まぁ色々と思いつくが、即効性のあるものはたった一つ。とりあえず1発失禁でもしてみようか?


 同級生の前でいい歳してお漏らしするのは気が引けるが、多分失禁すりゃあ俺が無害だって信じてくれるだろう。別の意味で有害認定されそうだけど。


 学校出る前に小便してきたからちょびっとしか出ないだろうが、やる価値はある。


 しかし俺が失禁しようと腹部に力を入れる寸前、金髪の男は俺にぐいっと顔を近づけると、まるで威嚇するように胸ぐらを掴んできた。


「お前の目見ればわかるんだよ。お前、さっきから全然ビビってねぇだろ。それに陰キャとか言う割に鍛えてんじゃねえか。この女に頼まれて助けに来たヒーロー気取りか?」


 胸ぐらを掴んだ男に顔をジリジリと近づけられ、俺はそっぽを向く。


 顔が近い!タバコの匂いがしんどいっ!


 残念だが俺は男とキスをしたくないし、顔を近づけられるのもごめんだ。BLは俺のいないところで俺を巻き込まずにしてほしい。


 とりあえずここは無難に、最適解で解決するとしよう。


 暴力には暴力という言葉があるが、俺は道端で人を殴るような非行少年にはなりたくないし、それよりももっといい解決法が今はある。


 この引くに引けなくなった現状、全てを丸く収めることができるのは…そう、金だ。


 俺は男に胸ぐらを掴まれたまま、ポケットから財布を取り出してお札の枚数を数える。今月はお小遣いを使ってないから、結構残ってるはずだ。


「8.9.10…11万あるんで、これで許してくれませんか?あ、もちろん玲奈(アイツ)は許さなくていいので俺だけ見逃してください」


「ちょっと!?なに自分だけ逃げようとしてんの!?」


「うるせぇ!こっちは巻き込まれていい迷惑なんだよ!」


 そもそも俺はただ通りすがっただけなのにどうして逃げる扱いなわけ!?


 言いたいことは山ほどあるしこのクソアマぶん殴ってやりてえが、流石に大勢の前で人を殴るわけにはいかないし、金髪の男の胸ポケットに11万きっちりと入れ、胸を軽く叩く。


 流石に11万も渡せば、俺に対する敵意はなくなることだろう。


 世の中で問題ごとを解決する最終手段ば、暴力ではなく金。

 やはり金だ。金は人を笑顔にしてくれる。例えば泣き喚く赤ん坊だろうが、大量の札束を見れば急にキャッキャするくらいだ。ったく、今時のガキは現金なヤロウだぜ。


 俺は今日は金を失う側ではあるものの、とりあえず金髪の男に対して優しく微笑んであげた。笑顔の陰キャの方が好印象だからな。陰キャの笑顔は需要ねえなんて言ったら殺すからな。


「落とさないでくださいよ?これ俺の今月のお小遣いなんで」


「待て待て待て待て。なぁに許可なく逃げようとしてんだ?」


「え?」


 そのまま立ち去ろうと俺が動くと、金髪の男は胸ぐらを掴む力を強め、俺を離そうとしてくれない。


 これは想定外だ。

 夏服のカッターシャツはボタンが千切れるのではないかと思うほど強く握られ、簡単に振り解くことはできそうにない。


 けどまぁ、これも対処法がないわけじゃない。

 人というのは相手がたくさんお金を持っていると知ると集る習性があって、年頃の兄ちゃんともなれば尚更。


 きっと俺がもっとお金を持ってるんじゃないかと思って、期待に胸を膨らませているのだろう。多分今月の給料が少なかったんだ。


 ムッとした表情で胸ポケットの札束に視線を向ける金髪の兄ちゃんを見れば、いくら鈍感な俺でもそのくらいわかる。結構がめつい奴だな。


「仕方ないですね、オマケに財布もプレゼントします。教材もセットにしましょうか?」


「いらねえよ!テメェなんなんださっきから!」


 金髪の兄ちゃんは、すぐに使える現金がもっと欲しいのか益々機嫌が悪くなってしまった。

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