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2.カースト上位者の秘密

 すっかり夜に染まった廊下を、俺は歩く。


 数時間前、日暮れまで時間があるから〜なんて思って清掃委員会に顔を出した俺だったが、何やら今日は学期に1度のの大掃除の日だったらしく、校内の隅々まで清掃させられる羽目になった。


 きっとあのクソアマどもはそのことも知っていて、俺に清掃委員会を任せてきたのだ。


 しかも清掃委員会の奴ら、俺がカースト下位なのをいいことに、仕事を任せて日が沈む前に帰りやがった。


 結局清掃委員会でもなんでもない俺が日が暮れるまで掃除を強いられ、終わったのは20時過ぎだ。


「はぁ…誰もいねえし…」


 1人になった廊下で、小さく呟く。


 今の生活に不満はある。


 そりゃそうだ。誰だって雑用を押し付けられるのは嫌だろうし、カースト下位になってしまえば否が応でも自分の時間は減る。


 幸い男子はそこそこ良くしてくれるから俺を奴隷のように扱おうだなんて考えていないようだが、女子たちはストレスが溜まるとすぐに俺を的にして色々と文句を言ってくる。


 正直言ってぶん殴りたい。顔面にクレーターができるくらい殴ってやりたい。小惑星にしてやる。


「アイツらの顔面ジャガイモにしてやろうか?」


 そんな物騒なことも考えてしまう。

 ただ、そんなことは実行しない。


 俺には高校生活で何としても隠さなければならない秘密があるのだから。


 それを隠し通すためなら、スクールカースト下位だろうが雑用だろうが大人しくこなしてやる。


「でも腹立つ!」


 溜まりに溜まった鬱憤を晴らすように大声で叫び、下駄箱から靴を取り出す。


「だいたい、なんであんなブスがカースト上位なんだよ?どうせイケメンとちゃっかりパコっておこぼれでカースト上位に上げてもらったんだろ?」


 それしか考えられない。


 それ以外に考えられることがあるとするなら、あの玲奈とかいう女の前で全裸でオットセイの真似でもしたんじゃねえのか?


 あんな顔面も平均値で性格ドブスな女、どうせ高卒でうっかり妊娠バッドエンドだ。


「ふぅ…やっぱり愚痴ると落ち着くな。あとはモクでもありゃ最高だ」


 すっかりと夜になってしまった空を見上げながら、校門を抜ける。


 この辺りは住宅地ばっかりで人通りも少ないから、夜になると不気味なくらい静かだ。


 聞こえてくるのは家の中から微かに響く談笑とテレビの音くらいのもので、そんな中を1人で歩く自分を惨めに感じない日はない。


「はぁーあ…何してんだろ…俺」


 もうちょっとマシな生活になんねえかな?


 入学して1年と少しが経つからカーストは揺るぎないものになってしまっているが、もう少し…ねぇ?


 願望ではあるが、できれば女子の奴隷はもう懲り懲りだ。


 面と向かって拒否れば有る事無い事噂されるから厳しいが、1軍の男子にそれとなくお願いしてみるべきだろうか?


 奴らは1軍と言う割に俺にプリントを見せてとお願いしてきたり、たまに話題を振ったりしてくれるから、多分やんわりと注意してくれるはずだ。


 現にあのブスどもが俺に命令してくるのも、決まってカーストの上位の男子たちがいなくなった後だから、それは間違い無いだろう。


 明日それとなく話してみよう。


 そう心に決め、何でもない残りの高校生活も何でもなく過ごすと決意する。


 気づけば随分歩いていた。

 いつも1人で帰る時は周りに同じ学校の奴らもいてぼっちの俺は浮いていたが、人がいないとなればぼっちは強い。


 アイツ1人なんだwなんてそもそも思う人がいないし、夜はぼっちに優しい。


 そんなことを考えていると、耳障りな怒鳴り声が俺の耳に入ってきた。


「早見さぁん、困るよ!もう今月で3ヶ月目だよ?」


「そうそう、もう120万も滞納してるんだから、そろそろ待ってくださいじゃ済まされねぇぞ?」


 まるで昼ドラのカツアゲのような借金取りの声が、夜の住宅街に響く。


 この辺りはそれなりの収入者が住んでいるはずの住宅街だと噂されていたが、うっかり保証人にでもなってしまったのだろうか?


 全く関係のないことなのだが、野次馬根性というのはどうやら俺の中にもあるようで、ついつい声のした家の中を覗き込んでしまう。


「だから…すみません。あと1ヶ月待ってもらえませんか?」


「それは聞き飽きたつってんだろ?つか父親出せよ。仕事辞めたんだろ?返すアテあんの?」


「父は…今職探しをしていて…必ずお金は返しますので、どうか今月まで待ってください」


「そうはいかねえよ。俺らだって金返して貰わねえと怒られるんだよ。2ヶ月は我慢したけど、流石に見ず知らずの家庭のために俺らが怒られる筋合いはもうねえだろ?」


 ごもっともだ。

 返済能力があるにしろないにしろ、借りた金はきっちり返すべきだし、それができないなら迂闊に保証人になんてなるべきじゃない。


 良心があったにしろなんにしろ、お金がないのに保証人になるのはバカのすることだ。


 それに借金取りも2ヶ月待って3ヶ月目らしいし、そろそろ嫌がらせをしてでも滞納金を巻き上げることだろう。


 俺は勝手に借金取りの気持ちになりながら、複数人の男に囲まれる女性の方を見た。


「っていうか、嬢ちゃんが高校辞めて働けよ」


「え…いや…それは…」


「このままだと力尽くで家も何もかも失うことになるけど、嬢ちゃんが働くってんなら今月は待ってやってもいいよ?もちろん、来月には160万の支払いだけどな」


「わ、私1人働いてもそんな金額には…」


「若いんだしいけるっしょ。その身体使えば」


「っ…」


 雲行きが怪しくなってくる会話の中、ひとりの借金取りが動いたことによって、俺の視界には女性の姿が映った。


「あっ…」


 そして思わず、声を出してしまう。


 その理由は可愛い女性と少女漫画さながらな運命的な出会いをしたとか、過去に約束を交わした親友と劇的な再会を果たしたとかそんなものじゃない。


 ただ…


 ただ単に、スクールカースト上位の早見玲奈が、借金取りに囲まれているだなんて思いもしなかったからだ。


「ぁあん?誰だお前?」


 俺が声を漏らしたことによって、一斉に振り返った借金取りがガン飛ばして近づいてくる。


 まぁ、近づかれたところで俺はこの女と関わりがないし、通りすがりだと言えば何をされることもないだろう。


 そう油断していると、早見玲奈とバチっと目が合い、玲奈は俺を指さして、まるでお化けを見たように裏返った声を上げた。


「真面目ガネ!?」


 こらバカ!余計なことを言うな!

 真面目ガネというのは、カースト上位の女たちが命名した俺の蔑称だ。


 成績では常にクラス上位にいるくせに、体育はいつも見学で、眼鏡をかけている上に何でもするから真面目ガネ。


 誰が付けたのかまでは知らないが、そんな蔑称を人前で使ったこのアマは、とりあえず地獄に落ちるといい。


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