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13.動き出す歯車

「えっと…これはその…」


 やけに寒い。今日は冬かな?7月なのにこんなに寒くなるなんて、まったく天気予報はクソの役にも立たないな。


 最近は予報も発達してるから〜なんて親父が言ってたが、あれは嘘に違いない。


 俺は沙羅の質問を耳にして、冷や汗を流しながら背中を隠す。


 見られてしまった。1番見られちゃいけないやつを!

 ち○こを見られるのはまだ良い。どうせ沙羅と付き合うことになったらちんぽこを見せる機会くらいそのうち出てくるだろうし、そうなる前に顔合わせしておいて慣らすのも重要だからな。


 しかし背中はダメだ。

 俺は小学校に通っていた頃、雨龍を真似て背中に刺青を入れてしまった。


 背中に結構でかいサイズの、龍のヤツを。

 当時の俺は自分も親父の跡を継いで極道の頭になるなどと息巻いていたから仕方がないと言えば仕方のないことなのだが、その刺青は消えることなく、今も俺の背中に残っている。


 それを好きな人に見られてしまった。


 きっと幻滅されることだろう、俺だってクラスメイトが背中に龍の刺青を入れてたら引くと思うし、きっと反社の方だと思って距離を置く!


「それ…刺青?」


「こ、これは!小学生の時の若気の至りというか…!カッコいいなと思って彫ってしまっただけであって、決して反社会的勢力に属しているとかそういうわけでは決してありません!」


 いや、反社会的勢力なんだけどさ。


 弁明になっていないような弁明をする俺は、沙羅が徐々に無表情になっていくのを見て顔を青くする。


 引いてる引いてる。これまでにないくらい引いてる。


 さっきまではそれとなく友達のような眼差し…というか、家畜を見るような眼差しで俺のことを見てくれていたのに、今ではもう完全に未知のエイリアンを見るような眼差しだ。


 こっちに近寄らないでください。と言いたげな眼差しを向けてくる沙羅を見て、俺の青春は30分弱で終わったのだと理解した。さらば俺の青春!また会う日まで!


「服…着てくれない?下着からソレ…出てるんだけど…」


「えっ……あっ」


 俺は沙羅から言われ、恐る恐る下半身を見る。するとそこには、俺の立派なエレファントがパンツの隙間から顕現していた。いや、ここは盛ってエクスカリバーとでも言っておくべきか?


 引いてたの、刺青じゃなくてパンツの隙間からちん○ん見えてたからなのね。


 明日から俺のあだ名はちんぽこ見せ太郎だ。



 ***



「それで、露出狂の工藤くん」


「ちょっと…そのあだ名はやめてほしいです…はみ出てただけで決して見せようとしたわけでは…」


 風呂を上がると待っていたのは、修羅場だった。


 俺の目の前に座る沙羅は、2階に戻ることもなく俺を貶して楽しむつもりなのか、タオルを片手に革製のソファに足を組んで深く腰掛けている。


 その姿は華やかという言葉が相応しく、ワンピースを着ていることも相まってどこかの令嬢にしか見えない。綺麗に背筋を伸ばし、高校生だというのに色っぽい雰囲気を醸し出す彼女を見ていると、耳が熱くなる。


 俺、この人のパシリになりたい。奴隷契約も結ぶ。


 俺のことを露出狂などと罵るキツい女の子ではあるものの、やっぱり美人に罵られると腹が立たないから男って生き物は不思議だ。


「それじゃあ工藤くん。さっきのは一体なに?聞くか迷ってたけど、やっぱり貴方のことが気になるわ」


 貴方のことが気になる!

 無表情で真っ黒な瞳が俺を覗き込んでいる。


 まるで蛇のように、逃げたり油断をしたりしようものなら一気に絞め殺してきそうな彼女の瞳が痺れるほどに美しい。


 そして何よりも、俺に興味を持ってくれていることが嬉しすぎる!さっきのはナニ?と言うのはおそらくち○このことだろう。


 彼女はぼっちだから、男性のアレを生で見るのが初めてでわからないのだろう、彼女が今後大きな過ちを犯さないためにも、ここはきっちり俺が性教育すべきだ。


「そ、それは…あれは男性器ですよ」


「…そっちじゃない。背中の方」


 違ったみたい。

 俺が恥ずかしい気持ちを抑えて、顔を熱らせながら男性器と口にしたのに、沙羅は全く動じることもなく、無表情のまま突っ込んでくる。


 目が怖いよ沙羅さん!別荘前で微笑んでた天使はどこに行ったの!?


「私、お世話になる身だから貴方のこと深く詮索しない方がいいかなって思ってたけど、そんな背中見せられたら気になるじゃない。貴方何してる人なの?」


 沙羅は興味深そうに俺の顔を覗き込んでくる。

 きっとこの別荘を目にした時から、俺という人物がどういう生い立ちの人間なのか気になっていたのだろう、お世話になる身だから遠慮して質問を控えた彼女だったが、やっぱり質問したくなったようだ。


 しかし俺だって言いたくないことはある。


 俺は沙羅の視線から逃げるようにして、中央にあるテーブルへと視線を落とした。


「そう。言いたくないなら勝手に決めるわ。暴力団幹部ね」


「違うから!!クラスメイトを暴力団扱いはやめよう!?」


 結構近いけどさ!?流石に暴力団幹部だったら迂闊に進学校なんて通えてないと思うよ!?


 あっさりクラスメイトを暴力団扱いしてくる沙羅に俺は驚きを隠せない。


「じゃあなに?そんなに不名誉なことなの?ご両親の職業が」


「ちが…」


 違う。俺は別に、父親の職業を恥ずかしいだなんて一度も思ったことはない。…ただ、小学生の時に言われたクラスメイトの一言が嫌で、俺は自分の親父の職業を口にすることをやめた。


 しかし沙羅は、俺が言い訳をしたところで会話の本質を忘れてくれるほど馬鹿な女じゃないだろう。


 俺は心の中にある様々な葛藤が渦巻き、ドロドロになっていくのを感じながら目を瞑った。


 もうどうとでもなれ。

 このままズルズルといくのは簡単だが、そうなればなるほど、俺は後で大きなダメージを負うことになる。


 俺の親父が極道をやっていることは、沙羅と付き合うことになれば必ず知られる事態であって、事を先延ばしにしたところで、最後に惨めに苦しむことになるのは、俺だけなのだ。


 それならば一層、早いうちに切り出したほうがいいのかもしれない。


 俺は意を決して、口を開く。


「…親が極道の頭やっててさ…」


「なんだ。やっぱり暴力団じゃない」


「…宮本さんからしたらそうだね」


 世間から見れば、極道もヤクザも暴力団も全部等しく反社会的勢力で、煙たがられる存在なのだろう。


 俺が暴力団じゃなくて極道だと言っても、世間から見れば俺たちは一括りに暴力団なのだ。


 きっと彼女も、あの時のアイツと同じようなことを言うのだろう。


 俺は項垂れたまま、沙羅と目を合わせることができなかった。

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