さがしものはどこ?
寒くて長い冬のある日。
真っ白な雪がふわりふわりと降りつもる道の向こうから、小さな男の子が歩いてきます。
赤い毛糸の帽子とマフラーに、雲みたいにもこもこのコート。
可愛いまゆげをしょんぼりと垂らして、なんだか困っているみたい。
立ち止まってしゃがんでみたり、きょろきょろ辺りを見回したり、何かを探しているようです。
そこへ、うさぎがやって来て尋ねました。
「ねえ、どうしたの?」
「さがしものがあるんだけど、見つからないの」と、男の子が答えます。
「手伝ってあげるよ。何を探しているの?」
「小さくて、柔らかいもの」
「なぁにそれ。何色をしているの?」
「ごめんね。ぼくも分からないの。黄色かもしれないし、緑っぽいかもしれない。もしかしたら桃色かも」
うさぎがぴょんぴょん飛び跳ねながら、小さくて柔らかいものを探します。
「ねえ、これはどう?」
うさぎが道の上に何かを見つけたようです。
男の子が見てみると、子ども用の桃色の手袋が落ちていました。
「とっても可愛いけど、これじゃないや」
「ちがったかぁ」
男の子とうさぎがガッカリしていると、いぬがやって来ました。
「ぼくもお手伝いするよ。どんなにおいがするの?」
「優しくて甘い匂いがするの」
「なんだろう。お菓子かな?」
いぬがクンクンと匂いをかいで、優しくて甘い匂いを探します。
「ねえ、これはどう?」
いぬがベンチの横に何かを見つけたようです。
男の子が見てみると、いちごジャムのクッキーが落ちていました。
「とっても美味しそうだけど、これじゃないや」
「ちがったかぁ」
男の子と、うさぎといぬがガッカリしていると、ねこがやって来ました。
「私も手伝ってあげる。どんな場所にありそうなの?」
「雪の下とか、木の枝でキラキラ光って見えるみたい」
「なにかしら。そうだ、鳥が拾っているかも」
ねこが木の上にのぼって、鳥の巣の中を探しました。
「ねえ、これじゃない?」
ねこが鳥の巣に何かを見つけたようです。
男の子が見てみると、ねこがくわえていたのはガラス玉のついた小さなリボンでした。
「とっても綺麗だけど、これじゃないや」
「ちがったかぁ」
男の子と、うさぎといぬとねこはガッカリしました。
「なかなか見つからないね」
「雪が積もってるからね。あぁ寒い」
「早く春になって雪が溶けたらいいわね」
うさぎといぬとねこが、くっつきあって暖まります。
「ごめんね。ぼくが上手にさがせないから……」
男の子が悲しそうな顔で言うと、うさぎといぬとねこが男の子にくっついて、なぐさめてくれました。
「大丈夫だよ。もういちど、さがしてみよう」
みんなで歩き回ってさがしていると、雪をほっていたうさぎが「あっ!」と声を上げました。
「ねえ、小さくて柔らかいものがあるよ」
「優しくて甘い匂いもするね」と、いぬが言いました。
「キラキラ光ってるわね」と、ねこが言いました。
男の子が近づいて見てみると、星のようにかがやく黄色い花のつぼみがありました。
「見つけた! これを探してたんだ!」
男の子が嬉しそうに笑いました。
そして、つぼみに近づいて、ふうっと息を吹きかけます。
「おはよう。起こしにきたよ」
すると、つぼみはキラキラと光りながら花を咲かせ、中から蝶々のような羽の生えた可愛らしい女の子が出てきました。
女の子は「ふわぁ、たくさん寝ちゃった」と、目をこすります。
男の子が「遅くなってごめんね。ぼく、探すのが初めてだから下手っぴで……。動物さんたちに手伝ってもらって、やっと見つけたの」と謝りました。
女の子は、男の子の頭をなでながら優しく言いました。
「謝らなくていいんだよ。初めてだったんでしょう? よくがんばったね」
「怒ってないの? ぼく、一人で見つけられなかったし……」と、男の子が言いました。
「怒ってないよ。誰だって初めてのことは難しいもの。それに、一人でできないことは手伝ってもらっていいんだよ。ちゃんと見つけてくれてありがとう。動物さんたちも、この子を手伝ってくれてありがとう」
女の子がそう言うと、男の子と動物たちは「どういたしまして!」とにっこり笑いました。
それを見て女の子は満足そうにうなずくと、綺麗な羽をパタパタと羽ばたかせました。
「冬の妖精さん、動物さん、わたしはそろそろお仕事に出かけるね。これからこの国を暖かい春にしてくるわ」
「うん、がんばってね、春の妖精さん。ぼくも、もうお家に帰らないと」と、冬の妖精の男の子が言いました。
「君たちは妖精さんだったんだね」と、うさぎが言いました。
「いつもより長い冬だったけど、たくさん雪遊びができて楽しかったよ」と、いぬが言いました。
「春が来るのも楽しみだわ」と、ねこが言いました。
冬の妖精と春の妖精が、手を振って別れます。
うさぎといぬとねこは、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、二人の妖精を見送りました。
もうすぐ寒い冬が終わって、暖かい春がやって来ます。
お読みくださってありがとうございました。
こちらの童話は、年中〜年長児向けをイメージしています。
冬が長びいて、なかなか春にならないなぁというようなとき、人知れず一生懸命に頑張っている妖精さんがいるかもしれない。そんな風に想像したら、もうちょっと我慢してあげようという気持ちになれるんじゃないかな、と思って書いた作品です。