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手紙と、言霊  作者: kyo^ju
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プロローグ

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 絶叫と共に、僕は目を覚ました。記憶には無いが、悪い夢でも見ていたのだろうか?ふと時計を見ると、5時間目の授業が始まってから40分が経過しているのがわかった。あぁ、この時間は欠席扱いかな…


「びっくりしたぞ、急に叫び声をあげるものだから何事かと心配したじゃないか。身体に異常はないか?」

「はい。特に何もありません。寝たらスッキリしました」

「そうか、ならいい。…今の時間だと、6時間目からの復帰になりそうだな。次は何の教科だ?」

「社会です」

「お前の担任の教科か。なら安心だな。今保健室の使用記録の紙書いてやるから、お前の担任に渡しとけ」

「ありがとうございます」

「5時間目が終わってから出ると良い、水でも飲め」

そう言うと、先生は記録を書きに自分のデスクへと戻っていった。



「山本君、もう体調は大丈夫なのかい?」

「はい。もう大丈夫です」

担任の野村先生が、授業が始まる前に声をかけてきた。若い男性教師で、温厚な性格な故か生徒からの評判も良い。それに、僕の”病気”に対する理解もあるので、本当に感謝しかない。

「今度はなんでまた、保健室に行ったの?」

「数学の栗原先生に声をかけられて、そこで…」

「あぁ、なるほどね… まぁ彼女にも悪気はなかったんだし、許してやってくれよ。だからさっき職員室で落ち込んでたのか…」

「す、すみませんでした。…と伝えておいてください」

「はいはい、言っとくよ。じゃあ、そろそろチャイム鳴るから座りな」


 栗原先生というのは、僕のクラスに来ている数学教師だ。教師歴は1年らしく、また美人で優しいため主に男子生徒からの人気が高い。その先生が、はっきり言えば僕が今日保健室に行った理由である。彼女は、特に何かひどいことをした訳ではない。ただ、僕がこの前提出した数学の問題集に不備があったからそこを直して欲しいと、個人的に僕に声をかけに来ただけである。しかし、僕にとってそれは恐るべき行為であったのだ。


 信じられないかもしれないけど… 僕は『女性恐怖症』なのだ。早い話、家族やある特定の女性以外が僕に近づくだけで激しい頭痛やめまいがし、心臓が締め付けられて、最悪今日みたいに気絶する。原因は…僕の人生における最大のトラウマが関わっているから今はまだ言いたくない。どこの病院に行っても『治療法不明』と言われて終わった。もうこの病気とは長い付き合いになる。極力僕は、女性と接するのを避けて今まで学校生活を過ごしてきた。しかし、どうしても女性の方から僕の方に向かってくる場面があるため、かなりの回数僕は保健室にお世話になっている。


 うちの中学校の保健室の先生、大島先生は女性だ。だから僕も最初は保健室に行っても身や心が休まることなんて無かったけれど、先生が献身的に僕に接してくれたおかげで、だんだんと僕は先生に対する恐怖感は薄れていった。今となっては、普通に話せる間柄である。僕の病気は学校中の先生が共有している情報だけど、真の意味でそれを理解してくれているのは、きっと野村先生と大島先生だけだと思う。


 無事に何事もなく、僕は6時間目の社会を受け終わった。僕の所属している”パソコン部”は今日は顧問不在で休みなため、僕は早々に帰宅することとした。この病気のせいもあるだろうが、僕にはこれといった友達がいない。だから、登下校はいつも一人だ。別に寂しくない、慣れているから。さっさと帰宅してゲーム三昧、下手に外に出ると危ない僕にはこれしかやることがない。


 いつも通り寄り道なんかせずに家に向かっていると、僕は奇異な光景を目にした。猫耳のパーカーを着ている人が、僕の家の近所にあるアパートの前で座り込んでいる。

「…?」

僕は近づいてそっと覗いてみると、寒気が走った。その人は若い女性だ。年齢は分からないが、背は僕と同じくらいだろうか。まずい、さっさと立ち去らないと…!


 その時だった、そのパーカーの女性は僕に勢いよく飛び掛かって僕を押し倒したのだった。すぐに、僕の意識は飛びそうになる。女性が僕の上に乗っている、という事実だけで僕はもうだめになる。自然と、僕の目はいつも通り閉じていって…


「…あきくん、あきくんだよね?」

その声で僕の意識はまた戻ってきた。

「私だよ私。(はる)だよ。久しぶり…えへへ~」

彼女は満面の笑みを僕に向けた。…あれ?なんで?僕はなんで彼女の前で平然としていられるんだ?彼女の前にいても、僕の身体には何も以上が見られない。

「は、春…?」

あろうことか、僕はこんな至近距離で女性と会話を繋げられていた。

「がーん!わ、私を忘れちゃったの?君の従姉だよ?確かに、会うのは何年振りか分からないくらいに久しぶりな気がするけどさぁ…」

「…えぇっ!?春ちゃん!?」


「お茶淹れるからちょっと待っててね~」

僕は彼女の家に上げられた。(どうやらここのアパートの一室に住んでいるらしい。近所なのに知らなかった…)

「部屋、汚くてごめんね?」

凡その人は、自分の部屋に他人を上げた時に決まってこれを言う。まぁそう言う場合に限って部屋は綺麗だったりするのだが、…春ちゃんの部屋は絶望的なまでに汚かった。カップ麺や弁当を食い散らかした跡、ペットボトル、脱ぎ散らかした服…とにかく色々なものが床一面に散乱している。足の踏み場もないとは、まさに今の状況そのものである。

「あぁ…うん」

擁護できないレベルで汚かったので、僕は曖昧な返事を返すしかなかった。


 それにしても…果たして春ちゃんはこんな人だっただろうか。見た目は…正直昔とあまり変わりない。背も僕くらいしかなく、それ以外も昔の印象と大差ない。でも、その中身は違っていた。昔はもっと、しっかりしていて僕を力強く引っ張ってくれるお姉ちゃん、というイメージだった。でも今は…

「あっつ!やかん触っちゃったよぉ…」

そして、春ちゃんは盛大にお湯をこぼしながら注いで(?)いる。

「おまたせぇ~」

…そして、持ってこられたのはただのお湯だった(しかも量は少ない)

「…えぇと、お湯?」

「あれ?私ちゃんと急須にお湯いれたよ?」

「春ちゃん… 葉っぱが入ってないよ」


 …ご覧のあり様だ。薄々感じてはいたが、すっかり春ちゃんは人が変わってしまった。

「えぇと…ごめんね。私、ここ最近ダメな子になっちゃったみたいなの」

「あのさ、そう言えばなんでさっき家の前で座り込んでいたの?」

僕は重くなった空気を変えようと、話題を転換したのだった。…しかし、それは仇となった。

「急に…やる気を失ったの。いつものことなんだ」

「…はい?」


 春ちゃんは、重々しい表情でぽつりと話し始めた。

「私ね、今大学二年生なんだ。一応ね。でも…もう数か月も学校に行ってないの」

「何か…理由があるの?」

「私ね…病気なんだ」

「…病気」

僕は思わず唇をかむ。自分の姿と、お姉ちゃんの姿をつい重ねてしまう。

「簡単に言うとね、全てにおいて無気力になっちゃったんだ。でもいつもそういうわけじゃなくて、何分かの周期で急にそれがやってくるの。だから、さっきはそれで座っていたんだ。何とかやる気を出してコンビニに食糧確保しに行ったのに、寸前で力尽きたの…」

…彼女の話が本当なら、確かにそれは大学どころじゃない。ここから一番近いコンビニは徒歩5分くらいの所にある。その距離すらもダメだとしたら、それは相当…

「こんなこと言っても、誰にも分かってもらえないよ。外にも出られないから誰かと話す機会も極端に減っちゃって、やがて会話そのものが怖くなっちゃった。でも、あきくんの顔見たらピンと来たんだ。急にやる気がメキメキと出てきて、思わず飛び込んじゃったよ。ごめんね?驚かせちゃって…」


 次の瞬間、今度は僕が、お姉ちゃんに飛びついた。(飛びついたといっても、お姉ちゃんの手を強く握っただけではあったけど)あぁ、まさか僕が女性に対してここまでできるなんて…驚きしかない。

「あ、あきくん…?」

「春ちゃん。僕も、病気を抱えているんだ」


 そしてあろうことか、僕は春ちゃんに自分の病気について語りだした。これまで保健の大島先生にしか話したことが無かった、病気の理由までも。

 初めまして&お久しぶりです。kyo^juです。


 文字には力があります。しかし、電子媒体の文字と、実際にペンで書かれた文字では纏っている”オーラ”に大きな違いがあります。それを表現していけたらと思います。


 実生活の都合もあるので更新頻度は不明ですが、できるだけ早い更新を目指します。



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