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ディザイアの卵  作者: 黒木 泪
犠牲者1
1/1

プロローグ

地の底で悪魔たちが暮らす悪魔界(あくまかい)

暗闇の中にモノクロの建造物が建ち並んでいる。

そこに四角く縦長な白い建物がある。

その建物の中の四階には休憩室と書かれた部屋があり、その部屋の手前の通路に立って二人の悪魔が話している。

「おい!今年の営業ノルマ聞いたか?寿命100年だってよ!」

太い悪魔が野太い声を荒げて言った。

「あぁ、上の連中は分かってねぇよな。今どきの人間は寿命5年ですらぁ、渋るんだ。一体、何人(なんにん)契約すりゃいいって話だよ。」

細い悪魔が乾いた声で応えた。

悪魔界(あくまかい)はいつか来たる天界(てんかい)との戦いに備えて、人間の寿命を集めては魔力に変換している。

しかし営業部にいる(とう)の悪魔達にそんな使命感はなく、寿命集めはほぼ彼らの趣味でやっているため、仕事としてノルマが課されることに悪魔達は不満を感じている。

「それにこの前なんてよぉ。人間界(にんげんかい)に行ったら、自分の寿命を1年やるから寿命を10年延ばしてくれ(なん)て言うふざけた野郎(やろう)がいてさぁ。」

細い悪魔が(いら)ついた顔で(つぶや)いた。

「おう!そいつをどうしたんだよ?」

太い悪魔がニヤつきながら話の先を(うなが)す。

「そりゃぁ、(かな)えてやったさ。オレはやさしいからよぉ。ギヒヒヒヒ。」

細い悪魔が口の端を吊り上げて意地悪そうに(わら)う。

二人の悪魔が愚痴(ぐち)で盛り上がっている(あいだ)に、通路にある扉がゆっくりと開き、今まさに階段を(のぼ)ってきた小さな悪魔がこのフロアにやって来た。

小さな悪魔は背丈(せたけ)が20センチ程で、ずっと地面を浮いている。小さな悪魔が扉に手をかざすと、直接触れることなく入って来た扉が閉まった。

二人の悪魔は話に夢中で小さな悪魔がフロアにやって来たことにまだ気付いていない。

小さな悪魔は二人の悪魔の方へとゆっくり近づいて行き、そのまま通り過ぎて誰もいない休憩室に向かった。

そのとき太い悪魔は自分の()(ひら)程のサイズしかない小さな悪魔を視界の端に(とら)えて思わずニヤリとした。

「よお!営業部の(もと)エースさま。2年もサボって何してたんだ?」

太い悪魔が高圧的(こうあつてき)に問い掛けるが、小さな悪魔はそれに答えず休憩室にある自販機を見ている。

太い悪魔はズカズカと小さな悪魔に近付いて顔がくっつきそうな距離まで詰め寄る。

「なあ!お前のノルマ知ってるか?寿命1000年だってよ!お前終わったな!」

太い悪魔は勢いよく(つば)を飛ばしながら言った。

小さな悪魔は太い悪魔に対してゆっくりと顔を向ける。

楽勝(らくしょう)だ。」

小さな悪魔は低い声で(こた)えた。

細い悪魔が小さな悪魔の隣にスルリとやって来た。細い悪魔は太い悪魔とは逆側に来たため、小さな悪魔は二人の悪魔に左右から(はさ)まれる形になった。

「部長怒ってたなぁ。そんな強がらずにさぁ、頭下げてこいよぉ?オレも謝るの手伝ってやるからさぁ。」

細い悪魔は()でるような口調で言った。

「何が手伝うだ。余計な悪戯(いたずら)考えてんな。」

小さな悪魔が吐き捨てるように言うと、細い悪魔は意地悪そうな笑顔を見せた。

小さな悪魔が自販機に手をかざすと、自販機に触れることなくボタンが2度押され、取出口(とりだしぐち)に飲み物の入った黒い缶が連続して2本落ちてきた。2本の缶は自販機の取出口から飛び出て、小さな悪魔の手に引き寄せられた。

「契約で人間を直接破滅させるのも、人間を悪の道に(いざな)うのも俺が本当にやりたいことじゃないと気付いた。」

小さな悪魔は両手に持った缶を振って(かた)り出した。

「俺は自分の手を汚さずに、人間を破滅させたい。」

そう言って、小さな悪魔は二人から離れて部屋の奥へ進んだ。

「そりゃぁ、つまり自滅か。」

数秒後、細い悪魔が(つぶや)いた。

「おい!そんなのどうやってやんだよ?」

太い悪魔が小さな悪魔に問い掛けた。

「この2年、俺は開発部で新商品の開発を手伝ってきた。それが"ディザイアの卵"だ。」

小さな悪魔は言い終わると、黒い缶を1本開けて中身を飲み干した。そしてもう1本のまだ開けてない缶を二人の悪魔の(あいだ)に向かって投げた。

太い悪魔と細い悪魔は咄嗟(とっさ)に半分ずつ缶を(つか)んだ。

「それやるよ。俺は早速(さっそく)、人間界に行くとするわ。俺の担当地域(たんとうちいき)は確か日本だったな。」

小さな悪魔は二人の悪魔の横を素通(すどお)りして、すーっと部屋を出て行った。

残された二人の悪魔は顔を見合わせた後、二人が(つか)んでいる1本の缶を激しく取り合った。

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