新番組!マジカル戦隊ラブレンジャー、カラフルレインボーファイブ!お仕置きしちゃうぞ!に出演している、キュートピンク役の葵君は身の危険を感じている。
決まったぞ!売れないアクション俳優をやっている俺、そして共に貧乏暮らしをしているマネージャーがこの前受けたオーディションの結果を知らせてくれたのは、ある日の午後。
「いやぁ!おめでとう!アレ受かった!レギュラーだぞ!やったぞ!頑張ろうな!キュートピンク!」
春から始まる新番組。戦隊ヒーロー物の番組だ。二人で喜んだ。役どころを聞けば少々不安だけど、取り敢えず収入に直結する喜びに、ただ喜んで……たのを少しばかり悔やむ俺がいる。
何故なら、一度終わりを迎えたこの作品は、視聴率が良かった為に、当然の流れで続編になった。俺は頑張った!彼女も作らず頑張った!ひたすら頑張った!
そして今、ようやく終わりの台本を受け取り、ほっとしていた時、なんと社長が狂喜乱舞して、俺に恐ろしい事実を伝えに来たのだ。
「決まったぞ!ついに映画化だ!おめでとう!我社の金の玉子ー!ボーナスやる!」
……はひ?ようやく最終回なんだぞ……まさか、ここまで人気番組になるとは思わなかったかった、今や俺は一部界隈並びに、ちびっ子達に憧れの的な存在。
何ぃ!今度は映画化だと?映画化……嘘だと言ってくれ。さっさと最終回を迎え、奴らとおサラバしたいのに……。
♡♡♡♡♡
振り返える過去
某月某日、某市内、某居酒屋にて、出演メンバー揃う。
「今日は顔合わせだから、気楽に飲もう、赤井です、これからよろしく」
そう話すリーダー役『ファイアーレッド』こと、赤井さん。
「そうよ!食べて飲みましょう、黃谷徳次郎ですぅ、とくちゃんって呼んでねぇ」
何故かオネエ言葉の『ゴールデンイエロー』こと、黄谷さん。
「そうだね。初めて会だよーね、緑川だよん、みどりっちって呼んでおくれ」
面白そうな『オアシスグリーン』こと、緑川さん。
「よろしく、青田だ」
寡黙な『クールスカイブルー』こと、青田さん。
「お願いしまっス!えと、高校生位にしか見えませんが!二十四歳、男!桃谷葵です。よろしくお願いしまっス!」
そして俺『キュートピンク』こと、桃谷葵、彼女募集中。ちなみに全員男である。
じゃ、飲み放題のコースにしてるから好きなの頼んで、と赤井さんが音頭を切った。俺は最初は生ビールにしようとしたら……
「じゃあ最初の乾杯は皆んなビールよね、頼んどくわ」
テキパキと黃谷さんが手配をしてくれた。メニューを見ながら適当に、飲み放題コースの料理をチョイスしている。
一番年下の俺は座っていればいいみたい、なので待っていると……先ずは突き出し的な小鉢が人数分運ばれ、そして
「お待たせしました!生ビール4つにカクテルですね!」
バイトの少しばかり好みの女の子が運んできのは、生ビール4つにとカシスオレンジ……。黃谷さんが飲むのかな?女子好きだけど……まさか?
「はーい!えと、じゃあ葵は、あ、あ、お、い、って呼んでいいわよねー。はいカシスオレンジ」
「……、はい?あ、どもです、えと……とくちゃんさん」
ジョッキよサヨナラ……、なんで俺がカシスオレンジなのか?俺の戸惑い等放置され、赤井さんが仕切る。
「うん、じゃあ皆手にとって!これからよろしく!いい番組にしよう!乾杯!」
かんぱーい!とグラスをカチン、ああ……麦芽酒……次はそれ頼もうと思いながら甘い酒を飲んだ。
「お待たせしました〜」
そして運ばれてくる料理、唐揚げ、モツ焼き、揚げだし豆腐、枝豆、ホルモン焼きそば、フライドポテト、海老アボカド、じゃがチーズ……、なぜに俺の前には海老アボカドとじゃがチーズ?
「うおん!美味しそー!食おう!飲み物追加ー!」
みどりっちが箸を取る。ビール一気飲みかよおっさん、俺もその流れにのりべく、グラスを開ける。
「あ!あおいっちも頼む?ええと……レモンサワーに、生チュー!」
ついでに頼んでくれたのは良いが、なぜに俺に運ばれてくるのはレモンサワーなのだ!それを見てとくちゃんが突っ込んだ。
「だめよぉ!あおいは、カル○スサワーじゃないとぉ♡ね!」
はい?女子が好きだけどさぁ、さあ、俺男なんッスけど。そりゃ子供の頃は女の子の様にかわいいと、言われてさ、だけど世知辛い世の中でさ、女の子にモテたんだな、すると、それが気に入らない一部野郎から嫌がらせされて……、だから俺は鍛えたのだ!女みたいな野郎って言われたくなかったから。
そして、鍛えるうちにアクション俳優に憧れたんだ。カッコよく悪を成敗するような。役者になりたいと思ったきっかけでもある。
そして成人式を終えた後、夢を叶えるべく小さなプロダクションに入った。しかし鳴かず飛ばず、オーディションを受けては落ちを繰り返していた。そんな時……
「社長が戦隊ヒーロー物のオーディション受けてみないかって、アクション出来る若手探しているらしいんだ」
受けた、通った。役どころは、戦隊ヒーローだ。しかもピンクなのでかわいいドジっ子と台本に書かれていた。
「お前……。顔に似合わずガサツだからな……俺も台本読んだけどお前の役どころ『男の娘』だぞ、こういうドラマはイメージが大事だ!せっかく掴んだチャンスを無駄にするな!これをきっかけにブレイク目指そう!」
二人してアルバイトに励んでいた、マネージャーの声が聴こえる。そこで俺は気がついた!周りの出演者の先輩は、そこそこ売れている有名人なのだ。
赤井さんはドラマにキャスターしている、黃谷さんはコメディ番組やコメンテーター、緑川さんは子供向け番組の司会や舞台に出ている、青田さんは、シリアスな映画や社会派の番組に引っ張りだこだ。
……、そうか!俺を女子扱いにするのは……『役作り』の為なんだ!ヒーロー物でも普段の生活の演技はいるし、俺は彼らにしてみたらズブの素人同然。ろくに演技した事が無い。
「どうした?そういえば君は連ドラ初めてだったね、役作りをしっかりとしておかないと、撮影に入れば大変だよ」
生チューを飲みながら、赤井さんがアドバイスしてきてくれた。
「そうだね、普段の生活から心得たらいい、君はメインはこれ一本なのだろ、それにヒーロー物はイメージが大事だ」
熱燗を呑みつつ青田さんがポツリと呟く。
「そうそう、NG出したら最初は良いんだけど、後々続くとねぇ、頑張って!」
ジョッキ片手に黃谷さんが励ましてくれた。
「なぁに!大丈夫だよ!リラックス、リラックス、ハハハ!君の役どころは青っちみたいに渋っ面してたらダメじゃん!」
緑川さんがほら飲めと盛り上げてくれる。
先輩達からの重くて優しいアドバイスに、俺は迷惑かけてはいけないと、心に決めた!普段の事をから気をつけるんだな。よし!
「はい!俺、え、キュートピンクって確か『僕』キャラ……、いや、僕頑張ります。先輩♡よろしくお願いしますね」
にっこり笑って言ってみた。ぞわぞわと気持ち悪さが走ったが……慣れなくてはいけない。そうだよな、小さい時に見た戦隊ヒーローを思い出す。演じている役者さんは、その役そのものって信じてたもん、俺……頑張ろ!
そんな俺を先輩は、皆んな笑顔で見ていた。
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ああ、懐かしき過去の俺。その時から普段の服装も、言葉使いも役に沿うように頑張った!そうすると演技にリアルをもてた。評価をされ俺は学園ドラマに声がかかり、そうなればラブコメやらホームドラマにも、メインのキュートピンクの撮影の傍ら、次々に仕事が入ってきた。
今では『可愛い系俳優』としてそこそこに売れている。それは良いんだ。俺が売れたおかげでマネージャーも結婚出来たし、俺彼女いないけど、事務所も潤ってるみたいだし、ボロアパートからセキュリティバッチリのマンションに引っ越せたし。独り暮らしだが。
良いんだ、うん、それは良いのだけど。最近さ、いけない事に気がついたんだけどさ、番組の最後は必ずファイアレッドがドジをやらかしたキュートピンクを助けて、その後必殺技が出てくんだよな……。
マジカル戦隊ラブレンジャー、カラフルレインボーファイブ!お仕置きしちゃうぞ!映画版、大丈夫なのか?だってヒロイン出て来ないぞ、ほぼ男ばっか出てんだぞ。
最後に抱き上げて、笑顔を魅せる赤井さんの視線が何故か熱く甘く……とてもリアルなのだが、そして残りのメンバーがいいなぁ!て声を上げるのがお約束なのだが、それがとても真実味があるのだけど……。
何かザワザワと、いけない妄想をし俺は心が騒いでいるのである。そして……
映画撮影は泊まり込みになるのだが……大丈夫なのか。俺。
個室である事を切に願う。
〜終、わ、り。