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第98話 「魔石の一族」

魔石の一族、他にも輝石の一族や宝石の一族と言われる傭兵部族とは、およそ世界から完全に嫌悪された存在である。

 そもそも魔石の一族は、普通の人間と何ら変わらない。産まれた段階では魔力量に乏しく、この世界では雑魚と呼ばれるほどのポテンシャルしかない。

 しかしある一点において、この一族は誰よりも優れている。それが魔石の適合率だ。人は魔石を埋め込むことによって膨大な力を得ることができる。しかしその代償はあまりにも多く、ほぼ全ての人間は魔石のもたらす力に耐えきれず死に至る。

 魔石の一族は、この魔石の埋め込みに完全なる耐性を持って産まれる唯一無二の存在。産まれ落ちた瞬間に魔石をその身に宿し、赤子の頃から常人を遥かに上回る力を手にいれる。それゆえ、幼少の頃より傭兵として、数多の人間を屠ってきた一族こそ、魔石の一族だ。

 彼ら一族の殺した人間を数えれば、百万という数字では足りない。それほどまでに虐殺を繰り返してきた。あるものは傭兵としての仕事で、あるものは自由気ままに、ただ気分だったからという下らない理由で。

 力を持つゆえに好き放題してきた一族は世界より忌み嫌われ、それでもその圧倒的な力に恐れおののき、誰も逆らえない。

 対抗できる人間がいるとすればたった数人の家族構成である、とある傭兵一家くらいだと言われている。

 そんな一族の中に、異端者が産まれる。

 傷持ちの少女だ。

 魔石の埋め込みの際、あるトラブルによって魔石に傷をつけてしまった少女は、本来手にいれるべき力を失ってしまった。常人よりも少し強いくらいの、それくらいの力しか得ることはできなかった。

 少女は最強の一族に産まれた、最弱の存在。

 最弱に対する最強の扱いは、苛烈を極めた。


「おらスカー! サボってねえで早く運べ!」


 少女に発せられる怒号、男は少女に命令しながら、その頭を殴る。

 言うだけで済むこと、そこに暴力を織り混ぜられることが普通の出来事だった。


「う、うぅ……」


 痛みでその場にうずくまる少女。頭を押さえて、涙さえも流している少女に、男は容赦のない言葉と一撃を与える。


「サボんなっつってんだろうが!」


 少女の腹部に男の蹴りが直撃する。

 その光景を周りのものは嘲笑しながら見ている。

 中には少女の両親すらもいる。


「か、ハッ……!」


 痛み苦しみ、口から吐瀉物を撒く少女を見おろしながら、男はイラつきながらさらに言葉を続ける。


「ったく、使い物にならねえなぁ、クソが! おらスカー、早く立て!」


 男からの非情な言葉と暴力に耐えながら、少女は心の内を、息も絶え絶えに絞り出す。

 誰に聞かせるでもない、己の心を壊さぬように。


「スカーじゃない、私の、名前は……」


 スカーとは、埋め込んだ宝石に傷があるものに対する侮蔑の言葉。最強の一族にふさわしくない弱者に対する忌み名だ。

 少女は物心ついたその時にはすでに、スカーと呼ばれていた。

 本当の名は別にあり、一族内の記録により知り得た本当の名前。

 誰にも呼ばれたことのない、意味のない名前。

 それを心の頼りに、自分の名前はスカーじゃないとつぶやく。

 その鼓舞すらも、強者から見れば弱者の反抗に見えたのか、更なる暴力が飛んでくる。


「雑魚が口答えしてんじゃねえ!」


 苛烈な暴力は人を殺してしまうほどに凶悪なもの、傷持ちとはいえ宝石を埋め込んでなければ、とうに死に果ててもおかしくないほどの暴行を、5才の少女はその身に受け続ける。


     *


 強者として振る舞い、その日も弱者をいため続ける魔石の一族、世界から憎しみを受け続けた一族が、滅びを迎える。

 突如として一族の集落に襲撃してきた人間の軍勢、彼らは瞬く間に集落を包囲し、逃げ場を完全に塞いだ。誰一人として生きては返さない、その意思を体現するように。

 普段であれば一蹴できていたであろう軍勢に、魔石の一族は蹂躙を許した。攻め混んだ軍勢が歴戦の戦士たちであったことを差し引いても、あり得ないはずの出来事だった。

 一族の人間は知らない。身内に憎まれ、牙を向かれたことを。

 毒を盛られたことに気づかず、今日このときに力を引き出せないことに、ただ困惑するだけだった。

 そして次々に殺されていく魔石の一族は、死後、額の宝石を剥ぎ取られていく。

 血みどろの、だが光輝く宝石は回収され、それが魔石の一族であった証左は失われていく。

 凄惨な光景を、女の目は呆然と眺めている。


「石が……」


 石を剥ぎ取られていく同胞、その光景に何を思うのか。

 その答えかのように、言葉が吐き出される。


「ざまあみろ」


 その言葉を吐いて、滅ぼされる一族に背を向け、姿を消した。

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