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第91話 「初めての仕事」

 ついにここに来てから初めての仕事をすることになった。

 料理自体はできるほうだと思うけど、200人分の料理を作るなんて経験がない。

 いつもは4人分の食事を作るだけだったし、うまくできるか少し不安がある。

 それに、接客の仕事などと違い過度に誰かに干渉することはない仕事だけれど、僕と同じく仕事をする人はいるんだ。

 その人たちに迷惑をかけないよう、うまく立ち回らなければ。


「あ、あの……今日からここで働くことになりました、ユイ・イチホシです。よ……よろしくお願いします」


 目の前にいる10人ほどに深々とお辞儀しながら挨拶をする。

 見たところみんな、30歳以上に見える。僕よりは全然大人な感じで、妙に緊張してしまって、おどおどと挨拶してしまった。

 ……この態度はどんな人でも変わらないか。


「あらよろしくね。あなたの話はアストさんから聞いてるわ。今日から一緒に頑張りましょうね」


 挨拶した僕に女性が微笑みながら声をかけてくれた。

 それに続いてほかの人たちもよろしくと笑いかけてくれて、和やかな雰囲気が流れる。

 本当にここで働いているのはみんな奴隷なのかと、疑ってしまうほどだ。

 なんにせよ、優しそうな人たちで安心した。


「それじゃあなたには、野菜の皮むきでもお願いしようかしら」


 そう言われ、僕は指定された仕事に取り掛かる。

 さすがに200人分というだけあって、かなりの量だ。これを終わらせるだけで今日が終わるんじゃないかと思うほどだ。

 ……あれ、僕一人でやるの?


「いやー助かったわ。あの作業一人に丸投げしていいなんて、アストさんはいい子を寄こしてくれたわね」


 どうやら僕一人でやらなければいけないようだ。

 というか、アストさんが一人でやらせるように指示をしたのか。なら、気を遣ってくれたということなのだろう。

 できるだけ人と関わらないように、一人で黙々とこなすだけの作業を僕に割り振ってくれたと。

 その心遣いは素直に嬉しい。けど……。


「終わるかなぁ」


 1人で終わらせられるかどうかもわからない量の野菜を目の前に、僕は椅子に腰を落として作業を始める。


     *


「終わったぁ」


 用意されていた野菜の皮むきをすべて終え、包丁を置く。

 結構大変な作業だったけど、ただ黙々と同じ作業を繰り返してその都度、質を上げて速度をあげる。

 どんどんと素早くなってくる僕の手に、楽しみを覚える。

 次はもう少し早く、綺麗に、そう思いながら皮むきを続けていくと、想像以上に早く作業を終えてしまった。

 どうしよう、他に何かした方がいいのだろうか?

 他の人はまだ作業をしているし、指示を仰いだ方が……。

 と、話しかけようかどうか迷っていると、そんな僕の様子に気づいてくれた女性が声をかけてくれた。


「どうかした?」


「あ、作業が終わったんで、何かしなきゃなって、思って……」


「え、もう終わったの!?」


 女性は驚いた声を上げて、皮の剥かれた野菜をまじまじと見つめる。


「えー、本当にもう終わってる。しかも私がやるより綺麗だし。マジですご」


「そ、それで、他に何かやった方が……」


「あー、そうね。それじゃこの野菜、一口大に切っていってもらえるかしら?」


「わかりました」


「こっちの作業が終わったら私も手伝うから、頑張ってね」


 そう言って、女性は自分の作業に戻っていった。

 どうやら今日は野菜スープと米、それに魚を焼いたシンプルな物らしい。


「さて、これを切ればいいのか」


 山のような野菜を前に、僕はちょっとワクワクしていた。

 こういう単純作業をするのは、結構好きらしい。


     *


 そして野菜を切る作業を長い時間かけてようやく終わったころに、


「お待たせ。こっちの作業が終わったから、手伝いに……来たんだけど……」


 女性はすでに切られた野菜を見て絶句している。


「え、これももう終わってるの? こっちがスープづくりと米を炊く間に、これ全部終わらせたの?」


「あ、はい、一応……」


「てことは、あとはこれをスープに入れて煮込めば完成か……ありがとうユイ君、君が来てくれたおかげで、私たちの自由時間がとてつもなく増えるわ」


 そう言って女性は僕の手を取り、微笑んでくれた。


「いやー、正直1人増えただけじゃそこまで変わらないと思っていたけど、こんなに有能な子が来てくれて、お姉さん嬉しいわ。今日のところはもう休んでいいわよ」


「え、いいんですか?」


「いいのいいの、もともと君の仕事はここまでの予定だから」


「ここまで?」


「そ。皮をむいてもらうのが君一人の仕事で、そのあとに手の空いた人から野菜を切っていって、それが終われば仕事は完了って流れなの。そのあとの仕上げはうちの主力3人の仕事だし、食器の片づけなんかは清掃担当の仕事だから、私たちの仕事はもう終わりなの。というわけで、私の仕事ももう終わり。本当にありがとうね。あ、剥いた皮はあそこにダストシュートがあるから、そこにまとめて入れてね」


 そう言って、女性は作業道具を片付けてこの場を去っていった。

 どうやら本当に今日の仕事は終わりらしい。時刻はまだ15時、これからの時間はもう休みとすると、結構持て余してしまう。

 今日は初めてということもあって夕飯の準備のみをしたけど、明日からは朝食の準備をしなきゃいけなく、朝は5時起きだ。

 ……はっきり言ってすごい楽だ。

 5時起きなんていつものことだし、しかも数時間も寝れない環境の中でだ。

 なのにこれからの時間は自由時間で、なんなら夜9時に寝ることだって可能なのだ。

 奴隷として働かされているのに、超低賃金とはいえ今までと比べると天国とも言える仕事環境に思える。

 仕事も他の人とあまり関わらなくていい内容だし、理想的すぎる。

 最初はどうなることかと思ったけど、なんとかやっていけそうだ。

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