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第83話 「人間の一撃」

「ぐっ、ぅぅ……!」


 カイムからの一撃を受けたオズキは、その場に膝をつき、突かれた箇所に手を当てる。


「おいおい、俺は指で突いただけだぜ? こんなんで悶絶してちゃ、先が思いやられるぜ?」


 うずくまるオズキをあざ笑いながら、カイムは指を動かし挑発する。

 追撃をしようと思えばできるものを、余裕からかその場で見下すだけにとどまっている。


「早く立てよ、観客のみんなが待ってっぞ? それとも、もう終わりってことはないよなぁ。ひゃはは!」


「言われんでも、立つさ」


 オズキは地面に足を踏みつけ、ゆっくりとだが立ち上がる。

 荒い息を整え、再び魔力を体に巡らせ、さらに土の鎧をも顕現させる。


「ああ? 何考えてんだお前。バカなんか?」


 破られたばかりの土の鎧を再び身に纏ったオズキにカイムは呆れた目をする。

 意味のない行為、何の面白みもない展開に、カイムは嘆息する。


「はぁ、サンドバッグを殴るより、たくさんの玩具で遊びてんだけどな。ほかになんかねえのか?」


「生憎だが、俺はお前ほど器用ではない。ほかにできることと言えば、これくらいだ!」


 言葉とともに、オズキは手を天に掲げた。

 すると、オズキの手のひらから巨大な岩石を形成されてゆく。

 人など簡単にペシャンコにできそうなほど、重厚感のある巨大な岩石、こんなものをもらえばただでは済まないのは明白。

 その凶器を、


「砕いて見せろ!」


 叫びとともに、カイムに投げつける。

 人間の何倍以上ものサイズを誇る巨大岩石が眼前に迫り、カイムは口角を少し吊り上げる。

 そして指に魔力を集中させ、一点を狙う。


「ひゃはっ!」


 笑い声とともに繰り出された攻撃は岩石に直撃し、完全に勢いを殺した。

 ひびが全体に広がっていき、跡形もなく崩れ落ちる。


「そうそう、こういう風に違う攻撃をして来いよ。さあ、次は何やるんだ?」


 自らは攻撃をしようとせず、あくまでも迎え撃つ姿勢を崩さないカイム。

 それを見てオズキは手のひらを向け、再び岩石による攻撃を繰り出す。


「はぁっ!」


 掛け声とともに、無数の数の岩石がカイムを襲う。

 サイズは先ほどと比べると劣り、一つ一つの威力は大したことはない。

 しかしこれを全て撃ち落とすことは常人には不可能と思わせる程の弾数だ。


「数の暴力、そんなもので勝てると思ったか? オラオラオラオラオラ!」


 両手の指で迫りくる岩石を砕き、そのどれもがカイムの体には当たらない。

 すべてが砕かれるか避けられるか、攻撃が当たることは一度もない。


「ひゃっはっはー! 次はこっちから行くぜぇ!」


 攻撃を全て捌ききってから、カイムはオズキとの距離を一気に詰めてくる。

 それに対し魔法による岩石攻撃でけん制するオズキだが、何も意味をなさない。

 一瞬の足止めすらも許さず、二人の距離は一気に縮まり、すでにカイムの射程圏内だ。

 この距離では魔法の効果は薄く、オズキは肉弾戦に切り替える。土の鎧で覆われた巨大な右手を振り上げ、打ち下ろし気味でカイムの体を狙う。

 しかしオズキの拳は空を切り、地面を殴る結果となった。


「ひゃはっ、威力だけはさすがだな」


 地面に入ったひびを見て笑い、そう口にするカイム。

 しかし称賛の気持ちなど皆無だろう。いくら強くても当たらなければ意味がない、そうバカにしているだけだ。


「つええなあ、お前と比べると、俺は非力だなぁ」


 しゃべりながらオズキの攻撃をよけ続け、時おり人差し指をオズキの体に突きつける。


「ぐっ……!」


 指が体に触れるだけで苦悶の声を上げ、体が硬直するオズキ。

 しかし自身へのダメージも意に返さず、カイムへの攻撃を繰り出し続ける。

 何度も何度も拳をふるい、まるでカイムの攻撃が効いていないんじゃないかとも思う。


「ひゃっはー! 丈夫なサンドバッグを殴るってのも、楽しいな!」


 もはや数えきれないほどの攻撃がオズキの体に刻まれ、痣だらけ、箇所によっては血すら流れている。

 そしてそんな光景がさらに十分ほど続いてから、カイムはオズキから距離を撮った。


「飽きた!」


 そう言いのけ、退屈そうにあくびをするカイム。

 先ほどまでの楽しそうな表情は鳴りを潜め、オズキを見る目に好奇の感情はまるで宿っていない。

 まるで壊れたおもちゃを見る子供の様だ。


「次で決めるから、ちゃんと倒れろよ?」


「ぐっ、くぅぅ……!」


 すでに満身創痍のオズキは膝を震わせ、今にも倒れてしまいそうだ。

 子供が突いただけで、気絶してしまいそうなほどには傷つき、自慢の土の寄りはもはや崩れ落ち、身を守る鎧は見る影もない。

 しかしそんな傷だらけの状況でも、まだ諦めていないのか、体に魔力は張り巡らせているままだ。


「そのタフさだけはすげえって思うよ」


 そう言い、カイムは構えを取り、思い切り地面を蹴った。

 カイムとオズキの距離は一瞬にして縮まり、常人では黙視することすら困難なほどの速度だ。

 それはオズキも例外ではなく、おそらくは万全の状態であっても今の会務を黙視することは不可能だっただろう。


「死ね!」


 カイムの叫びとともにオズキを葬るための一撃が繰り出される。

 この戦いを観戦していた観客も、教員も、皆がオズキの敗北を確信した。

 繰り出された攻撃はオズキの左胸を完全に捉え、直撃する瞬間、


「捕らえたぞ」


 カイムの右手が体に届く前に、オズキはその右手をわしづかみにした。


「なっ……!」


 ここで初めて、カイムの表情が驚愕へと変わる。

 圧倒的格下のはずのオズキに攻撃を阻止されたのがよっぽど気に食わないのか、歯を食いしばり、額に欠陥を浮かび上がらせている。


「てめえ……離しやがれ!」


「離すわけがないだろう。この時の為に、耐えていたのだ」


「くそ……なんで、俺様の攻撃が……離せ!」


 オズキの腕を引きはがそうと腕を振るカイムだが、その拘束から逃れることができない。


「無駄だ。力だけなら、俺を超える人間などいない」


 鍛錬に鍛錬を重ね、魔法ではなく体をとことんまで鍛えぬいた、人間の力。

 おそらくは魔法の発達していない世界でも、オズキに匹敵するほどの力を持った人間はそういない。

 そんな男の手を振りほどける道理など、一切ない。


「喰らえ、神の十指」


 オズキは握りこぶしを作り、渾身の力を込める。

 攻撃力だけならこの学園の誰も比肩しないほどの威力を持ったオズキの拳、それはカイムに、今まで感じたことがないほどの危機を感じさせた。


(やばいやばいやばいやばい)


 迫りくる脅威を何とかすべく、カイムは初めて頭を働かせる。

 どうせれば逃れられるか、この攻撃を回避できるか、この腕を振り払えるか。

 そして1秒にも満たない思考の末、単純なことに気づく。

 オズキの手の魔力の穴を突けばいい。

 そうすれば拘束から逃れられる。


「くっ……!」


 考えに至ったカイムはすぐに実行に移すが、すでに遅い。

 オズキの手に攻撃が当たるのと、カイムの顔に攻撃が当たることは、ほぼ同時だった。


「ぐえっ!」


 声を上げ、カイムの体が宙に浮く。

 十数メートルもの距離を飛び続け、カイムの体は壁に思い切り叩きつけられた。


「あ、ああ……」


 悲痛な声を上げ、カイムの体は地面に崩れ落ちていった。

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