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第82話 「10位対7位」

今回は三人称視点です。

 学生同士が争う闘技場の中心に、2人の学生が立ち尽くしていた。

 方や、学内序列第10位、偽物の指と呼ばれ、周囲からは決して神の十指にはなれないものと称される男、オズキ・クラン。

 相対するは、神の十指と数えられる、学内序列第7位、カイム・サーズ。

 両者の序列の差はたったの3、この学園国家の学生の総数が万を優に超えることから考えれば、その差はわずかなものと見えるかもしれない。

 しかし、10位と7位には、決して埋まらないだろうと誰もが確信するほどの、絶対的な差がある。

 人間と、それ以外の人外、そう隔てることすら納得されるだけの、生物的に異なるとさえ思わせる絶望的なものだ。

 誰もが序列7位、カイム・サーズの勝利を疑わないこの状況で、オズキ・クランは真剣なまなざしを対戦相手に向けている。


「おいおい、何やる気になっちゃってんだ? これから起こるのはただの殺戮だぜ? んな怖い顔すんなっての」


 真剣な表情のオズキとは対照的に、カイムはへらへらと笑っている。

 明らかな格下を見る目で、自身の敗北など夢にも思っていないのが見て取れる。


「殺戮などと、神の十指が物騒なことを言うものだな」


「はっ、んな異名、雑魚どもが勝手に言ってるだけだろ? まあ実際、俺とその他の有象無象じゃ、神と崇めたくなるのもわかるけどな」


「みな、恐れているだけだろ」


「お、じゃあお前も俺のこと怖いの? そんなに怯えるなって。おーよちよち、殺したりはしないよー。お兄さんが遊んであげるよー。ひゃはははははは!」


 腹を抱えて笑い出すカイムを横目に、オズキは自身の心臓の部分に手を当てる。

 魔力を十全に行き渡らせ、これから行われる戦闘に一切の油断をしない。

 真剣そのもの、この一戦にオズキがどれだけの思いをかけているのか。

 それに対し、


「ひゃはっ、やる気満々って感じだな。いいぜ、ぶっ殺してやるよ。ひゃーっはっはっは!」


 カイムはなおも高笑いを続け、魔力も体に巡らせていない。

 今から始まる遊戯を、どのように楽しむかのみに注力し、戦うという思考には至っていない。


「準備はいいか?」


 対照的な両者の様子を確認した教員が、戦闘開始の準備をする。


「いつでも」


「なんならお前からの一発を開戦の合図にしてもいいぜ?」


 始まるその時まで余裕の笑みを崩さないカイムは、構えすら取らない。

 それどころか視線を空へと移し、オズキを見ようともしない。

 教員は開始の合図をすべきか一瞬だけ考えるも、すぐに問題ないと考えを改め、腕を天に掲げ、地に下ろす。


「始めっ!」


 合図とともに、オズキが魔法を展開する。


「はぁっ!」


 魔力が放出され、オズキの体に纏われていく。

 その魔力はオズキの体全体を包み込んだのちに、強固な岩へと姿を変える。


「叩き潰してくれる」


 岩の鎧を身に纏ったオズキはゆっくりとカイムに迫る。

 一歩、また一歩と歩みを進め、あと少しで拳が届くところまで来たところで、一気に駆け出す。

 鈍重な岩を纏っているはずのオズキの動きは鋭く、カイムとの距離は一瞬のうちに縮まる。

 そして岩に包まれた右こぶしを振り上げ、カイムの顔面に向かって全力で振りぬく。

 いまだにオズキを視界にとどめようとしないカイムに、迫りくる岩の拳が今にも当たりそうな、その時、


「ほいっと」


 見ていなかったはずのオズキの拳を、こともなしげに軽々とよける。

 空振りに終わったオズキの拳は地面に突き刺さり、石でできた頑強な闘技場の床にひびが入る。

 そして人差し指一本を突き立て、その指をオズキの纏う岩の鎧の、中心部分へと突く。

 指先が岩に触れた瞬間、見ただけでかなりの強度を誇ると予想できるオズキの鎧の全体に、亀裂が走る。


「ひゃは、やっぱ脆いわ」


 カイムは突いた指をさらに力を強め、押して見せる。

 するとオズキの岩の鎧はそこを中心に崩れ落ちていき、ボロボロと無残に砕け散る。


「くっ、一撃か」


 歯噛みするオズキ、対し余裕の笑みを崩さずにカイムは、二度目の攻撃に転じる。

 先ほどと同じく人差し指一本による攻撃、そこまでの威力がないように見えるその一撃はオズキの腹部へと直撃する。


「ぐう、ぅぅっ……!」


 たった一度の攻撃、それだけで苦悶の表情を浮かべるオズキ。

 10秒にも満たない攻防の中、オズキは悟る。

 

 ああ、こいつは強い。今の俺よりも、圧倒的に。


 決して埋まりようがない差を、この数瞬の間に確信してしまった。

 戦う前は、もしかすれば、という気持ちを持っていた。

 まるで宝くじでも買うかのような気持ちで、今回こそは、今回だけは……そんな気持ちで。

 しかし淡い希望は即座に砕け散り、眼下に転がる岩の破片は、まるでオズキの心を表しているようだった。


     *


「やっぱり実力差は圧倒的ね。いったいあと何分持つかしら」


 カイムとオズキの戦闘を観戦する、序列第3位、セウル・シュテルがつぶやく。

 まだ勝負が始まってから一分も経っていない、にもかかわらずすでに勝負は決したかのように口ぶりだ。

 ……おそらくはセウルのみならず、他のすべてのものがそう確信している。

 しかし一人だけ、まだ勝負はついていないと、真剣に観戦している者がいる。


「まだ終わっていません。これからです」


 ユイ・イチホシ、ついさきほど序列2位を降し、現在戦っているオズキ、カイムよりも高い序列に位置している存在。

 単純な戦闘能力では、10位以内の中では最弱、下手をすれば100位以内にすら入れないほどの実力しか持っていない。

 その男が、二人の戦いはまだ終わっていないと断ずる。


「これから何が起こるって言うの? さすがに無理でしょ。ユイは、カイムの能力を知らないからそんなことが言えるのよ」


 セウルの言う通り、この学園に所属し日が経っていないユイには、神の十指と言えど、詳しい情報など持ち合わせてはいなかった。


「そうだね、オズキちゃんはユイちゃんと仲がいいみたいだから勝ってほしいと思うけど、さすがに無理そうかな」


 傍らで、アル・クールもセウルと同じ感想を抱いている。


「あの二人じゃ、相性が悪すぎるものね」


「相性、ですか?」


「ええ、カイムの能力はね、魔力の穴を見つけることよ」


「魔力の穴?」


 聞きなれない単語に、ユイはセウルに聞き返す。


「魔法には、それを生成するにあたってどうしても、急所と言える穴が存在してしまうのよ。炎でも、水でも、風でも、土でも、どんなものにでも存在する。カイムはその穴が目視できる。そしてその穴を魔力を込めた指で貫けば、魔法の質に関係なくそれは霧散される」


 セウルの語るそれは、常人では決してできない芸当であった。

 魔力の穴、それは確かに存在する。しかしそれが目に見える存在など、カイム以外には存在しない。

 カイムよりも序列が上のセウルも、序列1位のアラムでさえも、その存在を認知することは決してできない。


「クランの強みは、身体に土の鎧をまとわせての接近戦よ。強固な鎧と鍛え抜かれた体が合わされば、隙のない攻防一体、単純な攻撃力、防御力は誰よりも上回っているわ。けど、肝心の強度がカイムには関係ないの。だってそうでしょ? 穴を突けばどんな魔法も壊すことができる。鉄の硬度を持とうが、薄っぺらな強度であろうが、何も関係ないのよ。しかもそれ以外に、カイムは体内に充満させた魔力でさえ穴を見つけ出す。その部分を突かれたら、防御力0の部分に魔力を込めた一撃をもらうってことよ。接近戦で言えばカイムは最強に近い。クランが勝てる道理はないわ」


 セウルの説明を聞き、ユイはなるほどと思った。

 確かに聞いた限りでは相性は最悪、オズキが勝てる可能性は限りなく薄いだろう。


「カイムさんに勝つには、何が有効でしょうか?」


「選択肢は二つよ。穴を突かれないようにハイスピードで動き回る、もしくは魔法による多方向からの絨毯爆撃で処理しきれないほどの攻撃をくらわす。けど、クランにはそれができない」


「できない?」


「クランの土の鎧は攻撃に防御、両方を併せ持つ。けど重量のある鎧を体に纏わせることにおり、スピードを損なってしまう。プラス、クランの魔法は一撃に重きを置いたものよ。多方向から、そのすべてにカイムを倒しうる威力を持たせることは技術的に無理ね。そんなことができるのは、私かアラムぐらいよ。以上、クランはカイムには勝てない」


 そこでセウルの説明は終わった。

 最初から最後まで聞けば、どちらが勝つかを予想するのはあまりにもたやすい。

 この情報を知っている人間からすれば、オズキの勝利など想像できないだろう。

 しかし、


「まだわかりません」


 ユイはカイムの力を聞いてなお、勝負はわからないと見ていた。

オズキとカイムの話は、三人称視点で進めていきます。

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