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第77話 「幻覚魔法」

「ハァ、ハァ……」


「もう終わり?」


 戦いが始まってからまだ10分ほどしか経っていないが、理解した。

 僕とアイラさんには圧倒的な力の差がある。

 放つ魔法はすべて悉く無効化され、アイラさんの余裕の笑みを崩すことさえできない。

 僕の方が魔力量は多い。腕力だって僕に分がある。

 それがこの10分だけのやり取りで理解できたのに……勝てる気がしない。

 圧倒的な魔法技術の差、単純な力では埋めようがない、底すら見えない絶望的なまでの差がある。


「そろそろ終わりにしようかしら」


 アイラさんは退屈そうな顔をし、僕にゆっくりと近づいてきた。

 一歩、また一歩と、僕に勝つために歩みを進める。

 攻撃のそぶりを見せないことから、彼女が何をしようとしているかはすぐに分かった。

 幻覚魔法、ありもしない現実を脳に直接見せる、アイラさんにしかできない正真正銘の神業。

 今までの観察から幻を見る時間は一瞬。魔法をかけられた側がどれだけ長い時間、幻覚を見せられているのかはわからなかったが、魔法がかかってから1秒も経たずに現実を見始めたのは傍目からでも分かった。

 その一瞬のうちに、抱いている戦意は喪失させられてしまう。

 自ら敗北を宣言されるまでに、対戦相手の心を砕いて……いや、癒す。

 その魔法が今、僕に対して使われようとしている。


「あなたに最高の愛を教えてあげるわ」


 瞬間、甘い匂いが僕の鼻腔をくすぐる。

 アイラさんから放たれる言葉が、匂いが、視線が、すべてが僕を魅了するようで、頭が天に昇っていく感覚に陥る。

 必死に抗ってみるも、徐々に失われていく意識。

 薄れゆく意識の中、最後にアイラさんの言葉が、脳内に響き渡る。


「幸せな夢に溺れなさい」


 その言葉を最後に、僕は意識を失った。


     *


「何か作戦があるっぽかったけど、ユイ君ももう終わりか。なあ、お嬢様。こっから逆転があると思うわけ?」


 アイラとユイの試合を眺め、すぐ横のライが気やすく話しかけてくる。


「さあ? あいつの幻覚魔法にかかったことないし、どうなるかなんて知ったこっちゃないわよ」


 何度も何度も私の対戦希望を跳ね除け無視し続けやがったあいつの魔法がどんななのかなんて、私には知る由もない。

 まあ、戦おうと思った相手だから多少の戦い方は想像していた。

 その想像では、アイラの幻覚魔法にかかった時点でゲームオーバー、敗北濃厚だ。

 やるのなら先手必勝、アイラの魔法にかかる前に勝負を決めるというもの、だったが、


「初っ端に何か手を打てれば勝ち目はあったかもしれないけど、何かをやる素振りはなかったからなぁ。何を考えていたかは知らないけど、作戦ミスだね」


 ライの言う通り、勝負を決めるべき時は初っ端、そこに全精力を注ぐべきだったのに、それをしなかったのがユイの敗因だ。

 何かをやるそぶりは見せていたから期待はしていたけど、やっぱり序列2位のアイラ相手は、小細工が達者なだけのユイじゃ荷が重かったわね。

 もう負けは確実、あとはユイが必要以上に傷つかないように、いつでも乱入できる準備をしておくだけね。

 アイラの今までの戦闘傾向を考えれば、そんな必要はないだろうけど。


「それにしても、ユイ君は今、どんな夢を見ているんだろうね?」


「幸せな夢を見てるんじゃない? アイラの対戦相手はいつも幸せそうだし」


「そっか、そういえばそうだったか。ユイ君は傷つきやすそうだから、心配だったんだよね」


「そうね。あの子には極力、傷ついてほしくないし」


 ユイの記憶を見た私は、あの子が幸せになることを結構本気で願っている。

 今回の対戦だって本当は止めたい気持ちもあったけど、ユイ自身の希望で、対戦相手もあのアイラだったから、ギリギリ納得できた。

 あわよくばアイラの見せる幻覚によって、ユイが少しでもいい風に変わるんじゃないかということも期待している。

 ダメだっとしても、あの子が傷つく可能性は極端に低い。


「ま、見守ってやりましょう」


「そうだな。負けて弱音でも吐いたら、友達として慰めてあげようかね」


 そんな会話を交わしながら、私とライはユイの勝負の顛末を見守っていた。

 ちなみにこいつと一緒に観戦しているのは、ただの偶然。

 見通しのいい高い位置を選んだら、こいつがすでに陣取っていただけの話だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] あ、なんとなく察した ネタバレになるから伏せ字にするけど 多分、主人公とアイラの魔法の○○じゃね? 自分もリアルにイジメ受けたし 七転八倒の人生歩んでるから察してしまった…
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