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第5話 「他愛もないやり取り」

 壁から現れたアニスさんの傍らには、綺麗に梱包された箱がある。


「これ、つまらない物ですがよろしければどうぞ」


「あ、どうも……」


 箱を手渡され、僕は硬直する。

 アニスさんが僕のことをじっと見つめて動かない。

 赤い炎のような目で、僕を十秒以上ずっと見つめている。


「…………」


 何を言えばいいのかもわからないので、とりあえずは僕も見つめ返す。

 一言も発さず、微動だにせずに視線をアニスさんの目に集中させる。

 それからさらに30秒ほどしたのち、ようやくアニスさんが口を開いた。


「なるほど、そういう人間ですか」


「……?」


 良く分からないことをアニスさんが言ったので、僕は首をかしげる。


「失礼、私の癖でして初対面の人間に対してはついその方がどのような人間なのかを観察してしまうのです」


「はぁ……それで、僕はどんな人間でしょうか?」


「……珍しいタイプ、とだけ言っておきましょう」


 そう言って、アニスさんはメイド服のスカートをつまみながら、僕に頭を下げた。


「改めて自己紹介を。私の名前はアニス、ただのアニスです。これから同僚となる身の上、是非仲良くできたらと思います」


「あ、ご丁寧にどうも。僕の名前は一星唯です。こちらこそよろしく」


「イチホシ……ユイ……」


 瞬間、アニスさんは何かを考えるようなそぶりを見せたので、僕は一応説明を加える。


「あ、ユイが名前で、イチホシはファミリーネームです」


「……なるほど、ユイ君ですね。覚えました。それで、ユイ君は何をしているのですか?」


「いえ、特に何も。セウルお嬢様にここで待機しているように言われたので」


「なら、セウルお嬢様に呼ばれるまで私と親睦を深めるのはどうでしょうか?」


「親睦……ですか。いいですよ」


 特に断る理由もないので僕は了承する。


「ではさっそく、お風呂に参りましょうか」


「……なんでですか?」


「古来より親睦を深めるのは、裸の付き合いと相場は決まっています」


「はぁ、そうなんですか。まあアニスさんがそう言うのなら構いませんけど」


 誰かと親しい付き合いなどしたことのない僕は、アニスさんの言葉に従う。

 それが意外だったのか、アニスさんは驚いたとはいかなくても、それなりに意外そうな反応を見せる。


「珍しい反応ですね」


「珍しいですか?」


「ええ、君くらいの年齢の子なら普通、照れるかいやらしい顔をするか、他にもきょどったり気持ち悪い反応をするかなんですけど、君はそう言うのが全くないですね。そういう場合は大抵、男好きのガチホモになるんですけど……」


「心配しないでください。僕はちゃんと女性の体に性的興奮を感じる普通の男の子です」


「やっぱりおかしいですね。女性に面と向かって性的興奮を覚える、なんて普通の男の子は言いません」


「はぁ……そうですか」


「君はどうやら、結構変わった子のようですね、とても興味深いです。冗談のつもりでしたが、本当に一緒にお風呂に入りましょうか」


「いいんですか? 僕は構いませんが、アニスさんは裸を見られても?」


「君のようなセウルお嬢様とそう変わらない年齢の子に裸を見られても何も思いません。むしろ、その澄ました表情を変えたいとすら思っているので、何も問題はありません」


「問題あるに決まっているでしょうがああああああああああ!」


 突然、セウルお嬢様が血相変えて僕の部屋に怒鳴り込んできた。

 顔を真っ赤にさせて、怒り心頭の様子だ。


「アニス! ユイを誑かすような真似はやめなさい!」


「誑かすだなんて滅相もない。ただ私は、私の裸でユイ君を刺激出来たら面白いだろうなぁと、そう思っているだけです」


「それを誑かすっていうのよ! 一体何を考えているってのよ、男女が一緒のお風呂に入るだなんて」


 セウルお嬢様は、どうやら男女の関係についてはうるさい面があるようだ。

 まあこの年頃なら普通、まだ思春期だろうし不思議に思うことでもない。

 というか、僕とアニスさんが異常なのであって、セウルお嬢様がおそらく一番の常識人だろう。


「ユイも!」


「僕もですか?」


「当たり前よ! アニスの言葉に対して嫌なら嫌と言いなさい! 調子に乗るでしょ!」


「別に嫌ってわけでもないですけど……」


「そうですよセウルお嬢様、私に誘われて嫌がる男性が存在するわけありません」


 どこからそんな自信が湧き出てくるのか、アニスさんは自信たっぷりに言い放った。

 確かに美人でスタイルも良いけど。


「いいから、今後はそう言うことは一切禁じます! 分かったわね2人とも!?」


「分かりました、セウルお嬢様」


「はいはい、分かりました」


「ハイは一回!」


 などというやり取りをしたあと、僕たちは解散した。

 アニスさんとセウルお嬢様は自室に戻り、僕は部屋でボーっとする時間が続く。

 その時間の中、ふと心に宿った感情について、言葉を漏らす。


「楽しかったの……かな?」


 さきほどの他愛もないやり取りに、感じた事のない感情が芽生えたことに戸惑いながらも、僕は妙な安心感を抱いていた。


「そういえば」


 僕はアニスさんに手渡された箱の中身が気になり、中を確認する。

 その中身はと言うと、


「……なんだろう、これ?」


 箱の中には、一枚の紙が入っていた。

 紙にはよくわからない、文字のような物が描かれている。

 おそらくこの世界の文字だろうそれは、僕には一切読むことは出来ない。

 あとで聞いてみよう。

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