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第55話 「女性として」

「あ、あの……」


「どうかしたユイ?」


「なにかありましたの?」


 白々しく聞き返すお嬢様とライムさん。

 何が言いたいかわかっているくせに。


「なんでもいいので、服を着させてくれませんか?」


 そう言う僕は今、一糸まとわぬ姿でありまして、つまるところ全裸です。

 突如として大きくなった胸を押さえ、無くなってしまった場所をもう片方の手で隠す。

 座り込んで大事なところは見せないようにしているが、それでも恥ずかしい。

 自分の体ではないと思えばまだ幾分ましなのだが。


「さっきアルが服買いに言ったでしょ。もう少しだろうから我慢しなさい」


「そうですわユイ様。それに女同士、何を恥ずかしがることがありましょうか」


「同性でも恥ずかしいものは恥ずかしいでしょう。それに真後ろにしっかりロイド先生がいるんですけど?」


「まああのクソ爺はユイ様を戻す装置を修復中なのですからノーカンで」


 ノーカンも何もない。

 なんで僕、部屋の中でたった一人、全裸で過ごしてるんだろう?

 実験に付き合って、すぐに戻れるものだろうと思って女性になって、なのに機械は壊れ、その後に女性2人に剥かれて全裸になり。

 なぜこうなってしまった。


「それにしても、ホントに可愛いわね。憎たらしいほどに胸も大きいし」


 お嬢様はまじまじと僕の裸体を凝視している。

 時に憎々しげに胸を見てくるので視線が痛い。

 見たくないなら見なきゃいいのに。


「お顔は可愛く、スタイルも良し。性格だって控えめな感じがとてもそそられて、正直ユイ様、このまま女性として過ごしてみるのもありなのでは?」


「ちっともありじゃありません、なしです。今まで男として過ごしてきたんですから、それだけはなしです」


 僕は初めて自分の意志をもって発言しているかもしれない。


「……ロイド、それ直すのに、最低一週間はかかるのよね?」


「ああ、そうだな。ユイ君とアル君には申し訳ないが、どれだけ急いでも一週間以上かかるな」


「てことでユイ、最低でも一週間、あなたは女の子として暮らすの? いい?」


「……本気で言ってますか?」


「本気も本気よ、大本気。あ、首輪は迷彩で隠すし、額の魔石も新しく額あて作って隠すからね」


「額も迷彩でいいんじゃないですか?」


「駄目よ。迷彩は何かしらの衝撃で解除される可能性があるから、魔石隠しには額あて。これは絶対。でもま、女の子的に武骨な額あてはカッコ悪いから、額あてに対して迷彩をかけて、普通の頭部に見えるようにするわ」


 わざわざそんな手間をかけるなんて。正直そこに関してはどうでもいいと思っているのに。

 というかお嬢様は本当に僕を女の子として扱う気なのだろうか?

 男に戻った時気まずいとしか思えないのだが。

 そんなことを思っていると、待望のものが届いたようだ。


「ユイちゃんお待たせ、街で色々買ってきたよ!」


 扉を勢いよく開けて駆け込んできたアルちゃんが、大量の袋を抱えて工房に入り込んでくる。

 ……服なんて今着るための一着あればよかったのに。じゃなきゃ2人におもちゃにされる未来が確定するのに。


「じゃユイ、着替えなさい」


「……せめて違う方を向いてくれないですか?」


 僕としては至極当然なことを言ったつもりだ。

 全裸の状態から服を着るところなんて見られたくない。

 そんな僕の言葉に対する反応が。


「あ、そうだね。ごめんね気が利かなくて。私たちは部屋を出ているから、着替えが済んだら呼んでね」


 アルちゃんは僕の気持ちを汲んでくれて、そそくさと工房を出ようとした。

 当然のように私たちと言ってくれて、僕はお嬢様とライムさんも出て行ってくれることを願った。

 しかし、


「別に着替えくらい見られてもどうってことないでしょ?」


「そうですわユイ様。私がすべてを見て差し上げますわ」


 この部屋から出ようなんて露とも思わず、むしろ僕のすべてを見ようと凝視する。

 もう、諦めるしかないのか。


「ふ、2人ともさ、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいんだし、ユイちゃんが可哀そうだよ。せめて違う方向を見てあげるくらいはさ」


 この場での唯一の味方、アルちゃんは2人を説得しようと言葉をかける。


「私はユイの主人なのよ。全部を見る義務があるわ」


「ユイ様は私の主人、主人のすべてを見たいと思うのは普通ですわ」


 お嬢様は百歩譲ってともかく、ライムさんの意見には一ミリたりとも共感できない。

 この人は一体何を考えているのか?


「で、でも……」


「アルちゃん、もういいですよ。諦めましたから」


 この2人には何を言っても無駄だ。

 だったら、この全裸でいる状況を一刻も早く逃れるだけだ。

 すぐに着替えて服を着る。

 そのことだけを目標に今を乗り切る。

 そう意気込んでアルちゃんが買ってきてくれた袋の中身を見るのだが、


「……アルちゃん」


「ん、どうしたの?」


「どうして、女性物の下着や服なんですか?」


 アルちゃんの買ってきた服はすべて女性物だ。

 しかもフリフリのスカートだったりピンク色が主流だったり、必要以上に可愛いガーリーなものばかりだ。

 いやまあ、この服を買ってきてしまう気持ちもわからなくもないけど。


「あ、そ、そうだったね。なんとなく、女の子になっちゃったからこの服を買ってきたけど、ユイちゃんは男の子だもんね。こんな服、着たくないよね」


 本心から申し訳ないと思っているのだろう。

 そんな顔を見てしまったら、責める気なんて一切なくなってしまう。

 特に怒る気もなかったけどさ。


「いいえアルさん、いい仕事をしましたわ。私としてはこちらの服がよいかと」


「何言ってるのよ、今のユイにはこっちの方が似合うにきまっているでしょ」


「何をおっしゃいますの? でしたらこっちのミニスカートの方が」


「だったらもっと露出を増やしてこっちに……」


 そう言って2人が言い合っていて、このままでは何を着せられるかわからないと思い、僕は慌てて袋の中から服を引っ張り出し、その服に袖を通す。

 ……下着は抵抗感が強く、穿けなかったです。


「これで、いいですか?」


 今なお服を選び続けている2人に対し、問いかける。

 今の言葉には、これで勘弁してくださいという意味を含んでいる。

 それを知ってか知らずかはわからないが、2人の感想は、


「おお、可愛すぎるわね。正直アニスよりもいいわ」


「……私にご奉仕していただきたいですわね」


 急いでいた故に無意識に着た服に2人は素直な感想を漏らす。

 なぜこの服を買ってきたのかと問いたくなりはするが、そこは我慢だ。

 丈も一番長いロングスカートだし、羞恥心はまだ薄い。

 そう、僕の着た服は、メイド服だった。


「ユイちゃん可愛い! すっごく似合ってるよ!」


 アルちゃんは目を輝かせて僕の姿を見ている。

 2人と違い邪な視線でない分まだマシだが、友達にこの姿を見られるのは非常に恥ずかしい。

 男性としての何かを失ったみたいで、こんな僕の姿を見ないでほしい。


「……もう、帰りましょう」


 何もかも考えるのが面倒くさくなり、僕は死んだ目をしながらそうつぶやいた。

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